幸福よ、いつまでも(1/3)

蝉がうるさく鳴いている。日本の夏は蒸し暑くて、とても苦手だ。でも、多分、オレは今この世界で一番幸せだと思う。

窓から差し込む日差しが、じりじりと肌を焼いてしまう。とはいってもオレは色素が少ないからか、焼けることはないんだけど。なまえは焼けるのは嫌だといっていた。曰くメラニン色素が多いらしく、少しでも油断するとすぐ黒くなってしまうらしい。オレとなまえの間に生まれた彼は、一体どっちだろうか。


「あついー!」
「暑いわねえ」


バタバタとリビングを駆け回る少年の、あどけなくて、無垢で、美しいその笑顔に、オレは幸せを味わざるを得ないのだ。オレとなまえの、大切な子供。愛の結晶だなんて恥ずかしい言葉があるけれど、それは確かに真実だ。

駆け回ってはオレの膝元にきたり、かと思えばおもちゃ箱をあさり、手にしたヒーローのフィギュアを右手に、敵のフィギュアをオレに渡した。パパはかいじゅうやくね、なんて嬉しそうに笑う。


「ユゥイがダブルやく!」
「『ぐひひー今日も暴れるぞおー』」
「あらわれたなドーパント!よぉしふぃりっぷへんしんだァ!」
「『お前に倒されるような俺じゃないぞー』」
「おまえのつみをかぞえろ!ガシャンシャキィン」
「『ぐあァァ!おのれえ仮面ライダーめ!』」


ユゥイ、というのがオレとなまえの間にできた、大切な息子の名前だ。この名前はオレがつけた。というよりは、オレがずっと前から決めていた。オレが幼いころになくした双子の兄の名前。やっと自分で掴み取った家族、というものの中に、どうしても兄の存在を、名前だけでもいいから置いておきたかったのだ。オレだけが幸せになるなんて、兄に申し訳ないと思ったから。なまえは快く承諾してくれた。


『素敵な名前ね』


そういって、胸に抱きかかえたその子を、愛しそうに微笑んだ。秋に差し掛かかり、風もすこし肌寒くなった日だった。今でも忘れない、病院にいた、子を産んだばかりのなまえは、とても美しかった。なにか神聖なものに見えた。イエスを生んだマリアのように、神々しく美しかった。ゆれる白いカーテン、白いシーツ。キスをするだけで悪いことをしたような気分になる、不思議な空間。背中でスリルを感じながら唇で触れた、なまえの額。父親になったという実感。まだ目を瞑ったままのユゥイ。


「ママは仮面ライダーの恋人やく!」
「だーめ、なまえはパパのもの」
「ええー。ずるいよぉパパ」
「ずるくないよ、だってパパとママは結婚してるんだよ?」


ユゥイ相手に意地になって、となまえは笑った。







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