ファイクリスマス2009

※現代パロシリーズです。


「メリ〜クリスマース!」


カランコロン、とグラスのぶつかる音。揺れるグラスは金色のシャンパンで満たされていて、そのたびにランプが反射してきらきらと光っていた。
口をつけたシャンパングラスは冷たく、唇からひんやりとした感触が伝わる。
私がひとくちを味わっているうちに、しかしファイと黒鋼は一口でグラスを空けてしまったらしい。


「早いよ、二人とも」
「お酒は嗜むものですわ」


文句を言うのは、私と知世。


「いいじゃねえか、まだあるんだし」
「夜は長いもんねー」


きらきらと輝くご馳走は、目で味わうだけでも十分に思えて仕方がない。
これらの食事を用意してくれたのは知世で、やっぱり金持ちのご令嬢なだけある。
それなのに場所がファイのマンションだなんて、面白い話だ。

クリスマスを楽しみたい、と言ったのは珍しくファイからだった。クリスチャンじゃないと公言していたファイだから、祝うと言うなんて思っていなかったし、ファイがそういった年中行事というものに興味を示したためしはなかった。
帰国しないから寂しいのだそうで。私もクリスチャンではないからクリスマスを祝う理由もなかったけれど、ファイがやりたいと言うのならそれに付き合ってあげるのが彼女というものだと思う。
それでなぜ二人きりのクリスマスにならなかったかというと、私もファイもクリスマスの祝い方というのを知らなかったので、それならと黒鋼と知世を誘ってみたわけだ。


「ああっ、またグラスを空けてしまってっ」
「いちいちうるせー」
「ん、これおいしいよ、」
「本当?……あ、おいしい」
「でしょー」


5時に私がファイの部屋に着いて、二人で場所をセッティングした。馬鹿みたいにわっかの飾り物を窓に施して、ろうそくも灯して、サンタクロースのランプや雪だるまや、いろんなオブジェも買ってきたりして。1時間程度で準備は済んでしまったのだけれど、その間私たちはふざけあって笑ったり、キスをしたりして心から楽しんだ。クリスマスの準備だというのに、それだけで。


「それにしても、ファイさんはフランスの方だというのに、クリスマスを祝わないなんて」
「まあたしかに、街中クリスマスの空気に包まれるけど。オレ興味なかったし、キリスト教じゃないし。オレの父もそういう風にオレを育ててたから、祝わないのが当たり前になっちゃってね」
「まあ確かに、そう考えると日本の文化は変だな」
「うん、オレもこっち来て戸惑ってる。日本人はお祭り好きだよねー」


本当、なんて私も笑う。

お酒を飲んだからか、暑くなったので窓を開けることにした。ベランダに続く大きな窓のカーテンを開ければ、目の前に広がるのは瞬く都会の夜。冬の空気は澄んでいて、光がとても輝いて見えた。


「素敵ですわね」
「冷たい空気が気持ちいい!」
「ここから見る夜景は最高なんだよー。」
「夜景が肴、てのも一興だな」
「あはは、黒様お酒のことばっかり」


窓を開けるだけが、なぜかみんなベランダに集まってしまい、結局黒鋼の言うとおりの、夜景を肴に飲むことになってしまった。
空気は冷える一方だったが、部屋に戻る気にはなれず、最終的には部屋の電気を消して毛布を引っ張り出し、ベランダで4人うずくまってシャンパンを飲んだ。
といっても毛布は2枚しかなかったので、私とファイ、知世と黒鋼のそれぞれ2人で一枚を共有した。
結局私は、ファイの暖かな腕の中にいることになる。

ほう、と息を吐けば、ぽっかりと浮かぶ白い煙。やがて闇に解けて消えていった。


「…あ?」
「…んー?どうしたの、黒様」
「…いや、なんか白いのが」


寝ぼけてるのか?と黒鋼は目をこすったが、しかしどうやらそれは幻ではなかったようで。


「雪!」
「まあ、本当ですわ!」
「わー、オレ、これトーキョーで見る初めての雪だー!」
「どうりで寒いわけだ」


はらはらと落ちる雪は、やわらかく、私の手のひらに落ちた瞬間さああ、と消えてなくなってしまった。冷たい雪。


「ホワイトクリスマスってやつね」
「こっちじゃ珍しいんだっけ?」
「うん。」
「…じゃあ、そんなのを君と過ごせるなんて、最高だね」

「そこ惚気てんじゃねー」
「いいじゃないですの、お二人はお似合いのカップルなんですし」
「いいでしょー」


おかしくて、4人とも笑った。くすくす、くつくつ、と小さな音は、都会の澄んだ空気と雪の向こうに消えてゆく。


「また、来年もこうしていたいね」
「うんー、必ずだよ」




メリークリスマス!





「…気になってたんだけど、黒鋼と知世って、どういう関係?」
「…幼馴染、っつーか」
「恋人、といいますか」
「……ええええ――!?」
「あはは黒様顔真っ赤ー!」
「ううううるせー!」
「え!え!二人付き合ってたの!?」
「付き合ってたらこんな格好(二人で1つの毛布)なんてしませんわ」
「付き合ってなかったら、わざわざこの二人を呼ばないよー」
「え!ファイは知ってたの!?なんで教えてくれないのおおおおお」
「この反応が見たかったからかなー」
「ファイの意地悪ううう!」












20091215-20100531
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