雨の中★天化

ざあざあと、しきりに降る雨。空はどんよりとしていて太陽はちらりとも顔を見せてはくれないようだ。


「修行、あったのにねえ」


てるてるぼうずをつん、と指先でつつけば、それは抵抗することなく揺れ、そして再び元の位置に戻ろうとする。ぐるん、ぐるん、といろんな方向に向く、白い、てるてるぼうず。
ざあざあと、雨は止んではくれない。
コンコン、とドアが叩かれた。


「はあい。」


扉を開けると、そこには、大好きな人の笑顔で。


「おう。」


鼻をかすめる、煙草の匂い。私はこの匂いがとても好き。天化の匂いだから。近くにいるだけで幸せになれる、彼の匂いだから。
元々修行、も天化と同じメニューだったので、私が暇ということは彼も暇なのである。だから彼は私の元へ来たらしい。
部屋の外はとても寒かった。私は彼を中に招きいれ、すぐにドアを閉めた。雨はまだざあざあと騒がしく降っている。


「あーたも暇だろうと思って」
「うん。暇。お仕事もやる気ならなくてね」
「いいさ、仕事なんて。元々修行のために仕事も任せてあるんだし」
「そうだよね。今日は休まなくちゃ」


くすくす、と二人で笑う。彼の笑顔が、とても好き。まだどこか少年っぽさが残っていて、私の母性をくすぐる。そんな私は天化と同い年というのに。
二人で窓辺に寄り添った。寒いのに彼は相変わらず寒そうな格好をしていた。しかし、私が絡んだ彼の腕はとても熱くて。この人の体をこの人の血が、駆け巡っているのだ。


「止みそうにないさねー」
「うん。」


彼は私より頭ひとつぶん高い。私の背が低いというのもあるかもしれないが。もう少し私が背が高かったら、彼はもう少しキスがしやすかったかもしれない。でも彼は優しいから、私がたとえもっと低かったとしても、私を愛してくれるに違いない。

「私、雨は嫌い」
「どうしてさ?」
「じめじめするし、どんよりしてて落ち込んじゃうから。晴れてないと、気分も晴れないじゃない」
「それもそうさね。」
「…でも、今日だけは雨が好き。」


そう言うと、天化は首をかしげて私を見つめた。少し驚いた様子で、どうしてさ?と、もう一度聞いた。


「天化が隣にいるから。」


ぎゅう、と絡めた腕をもっと抱きしめる。彼の温かな腕が私の頭を撫でた。


「雨じゃなかったら、修行は中止にならないし、修行が中止にならなかったら、私は今天化に触れられなかったと思う」


天化の唇が私の髪に触れた。吐息が近くて、私は期待をしてしまう。ドキドキと胸の鼓動は高鳴り、制御不能のよう。ドキドキ。触れる唇。狭くなる二人の間。
見上げると天化の深い瞳に捕らえられてしまって、逃げられなくなった。


「雨が降らなくったって、俺っちはいつもあーたのそばにいるさ」


力強くて優しい彼の腕が伸びて、私のあごにその手が添えられた。くい、と頭を上に上げられて固定されて、私は益々胸の高鳴りを感じていた。早く触れて、と願っている自分は不謹慎だろうが、もうそんなのどうでもいいのだ。
私は天化に溺れているのだから。
触れた唇はとても熱い。器用に口を割り、にゅるんと侵入する天化の舌。その全てが熱くて、私は意識を持っていかれる。


「不謹慎だね、私たち」
「雨の音で消えるさ、」
「そうだね」
「だから、思う存分俺っちのために鳴いて」


彼の熱い指先が、私の肌に触れて輪郭をなぞる。
愛しい、愛しい、時間。
秋の雨は冷たいが、私たちの時間は、そんなのでは冷めたりなどしなかった。








20091008-20091114
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