Truth and roses have thorns about them.
そこまで鈍くは無い(と思う)。 いつものらしさというのが明白な人ほど、小さなズレですら違和感となる。 始めは何かな〜?くらいだったが、いつも傍に居る人だから様子を見れみれば、検討がつく。 だけれど清春は隠したがって言わなかったから、黙っていた。 悠里には理解出来無い男のプライドって奴かなーとか考えたりしたからだ。 でも、ご飯を作れば文句を(いつものように)言われ、逆に作ってもらったりしたけれど、悠里の家なのでお持て成ししないのが続くと不満が募る。 ベッドも占領されるし、夜は寝かせてくれないし、持ち帰った生徒へのプリントは邪魔されて完成しないし。 見ないフリを気づいていないと認識してるのかな、へー…ブチってキレちゃうよ。 にっこり笑顔、表情はかたいけど。 それに輪をかけるように、ちょっとしたことがあったし。 限界です、愛でもちょーっと厳しいこともあるってことで、ね。 「清春君」 ベッドに寝そべってバスケット雑誌を読む清春に、悠里は声をかけた。 アー?と気の抜けた声が返ってくる。 まぁ、その辺は予想済みなので怒りゲージは上がらない。 「最近、お家に帰ってないみたいだけど……良いの?」 「……………ンだよ。どういう意味だァ?」 雑誌を閉じ、怪訝そうに清春が視線を向けてくる。 まだ悠里の意図は読めていないはず。 多分邪険にしている態度に腹を立てているだけ。 いつもこんなすぐ引っ掛からないのに、これにはすぐ食いつくんだ。 悠里は心で「へー」と感心しながら、会話の優位にいることが可笑しかった。 癖になりそうだ、珍しいから尚更。 「私は毎日清春君と居て嬉しいけど、ご両親心配されない?」 優しい愛(アメ)も忘れない。 事実であって、朝起きた時に居て、帰ってきて居る嬉しさもある。 なんだか髪を撫でたい衝動に駆られたが、子供扱いにとられるらしく、不機嫌になるので今はしないでおいた。 「………悠里ィ」 清春の沈黙は何かを思案している証拠。 呆然なんてそうしない、賢いことだって清春が生徒時代で実証確信済み。 今、清春は悠里が何を考えているのか、先を読もうとしている。 「なあに?」 間を開けず、悠里は相槌を打つ。 別に読まれたって良い。 疚しいことじゃない。 それに悠里には成すべき事がある、任された。 使命感は強い、揺るぎない、別の方向からすれば頑なという悠里の長所で強みだ。 「オレはちゃーんと家に帰ってんゼ?どーしてそういう発想になる訳?」 ムクリと起き上がり、ベッドに腰を下ろし座り、床に座る悠里に対して「んー?」と少し様子を窺うように首を傾げた。 「だって、清春君。私の家にいることが多いじゃない。だから帰ってないんじゃないかなーって」 「オレがいることがイヤだっつってんのかよ」 「だーかーらー違います!嬉しいって言ったでしょ?」 「じゃーナンでンなこと言うんだっつーの!」 ムキになるなぁと心で笑いながら、悠里は乗って突っかかったような口調をやめなかった。 まだまだ、これからが本番。 こんなことで負けたりしない。 清春はいつだって優位に笑みを見せるけれど、たまに垣間見える幼き口調や行動は苦手意識があることに対して。 失礼だと思っていたが、聖帝に居た頃は衣笠がその証拠になっていた。 そして今、この時期は―― 「じゃあ、提案を変えるわ。今度清春君の家に行きたい」 「オレん家でエッ「そういう意味じゃありません」」 若干読んでいたので、言葉を重ねて否定を強く主張する。 そうじゃない、そうじゃないの。 少し長期戦を望もうと思っていたが、じれったさが増す。 ダメだ、自分はこういうの向かない。 悠里はそう分析した。 真っ向一直線、だからB6と張り合っていたと言われたことがあるのを思い出す。 そりゃムリだよね、と悠里は自分に言い聞かせた。 「じゃーナンだ?はっきり言え。悠里、ンな近回り出来ねーだろ」 何か言いたいというのは清春でも読み取っていたようだ。 「近回りって何ですか、遠回りです」 そうじゃなくてね、と悠里は続ける。 見上げるようにして窓越しに外を見た。 ジリジリと嫌な音がするような陽射し、蝉が鳴く音。 外に出たくないなぁと思わせる暑さ、それに矛盾して海へ行きたいと考えてしまう気持ち。 そう、夏。 現在、夏休みで清春の通う大学も長期休み。 悠里も教師ながら休みはある――多分、同年齢の平均休暇よりは良いはずだ。 「でーナンだよ」 ずいっと清春の顔が近づいてくる。 鼻がすれ触れそうな距離。 じっと悠里も視線を外さない。 清春の瞳に吸い込まれそうた。 綺麗だと思う。 ずっと見ていたいと願う。 だから、 「紹介して欲しい、な」 「何を、」 「私を」 「……誰に、」 「清春君のご両親に、ご兄弟に」 ――ちゃんと。 そこはまだ伏せておく。 「………悠里。お前、家族の誰かに逢ったな」 気づくの早し。 伏せようと思った瞬時にバレた。 「オイ」 顔に出ていたようで、清春が眉間にシワを寄せる。 「はい。清春君のお母さんに、道端で少しお話ししました」 白状、と両手を軽く上げた。 やっぱりいきなり逢いたいなんて言うからには理由があるって思うか。 策略家にはなれないなーと悠里、ぼんやり思った。 「ンで知って…あぁ、去年の夏休みか」 清春は聞きかけて、気づき、勝手に解釈する。 悠里も間違えていなかったので訂正はしない。 3年の夏休み、悠里が清春の家に奇襲したことがある。 その時玄関から上がらせてもらったと悠里が言い、清春は母に心で罵声したから忘れなかった。 「『清春が帰ってこないの。いつもは気にしないんだけど、家族みんなが帰省して来るから顔出せって言っといてくれますか』って。やっぱお母さんだよね、言わなくてもバレてるというか読まれてるというか」 悠里もそういうの、すごく分かる。 学生時代に彼氏が出来たことを切り出そうとしたけど恥ずかしくて切り出せないでいたら、いつ頃から気づき、どの子かチェックしたと言われ、驚いたものだ。 言わなくても分かるわよと笑った母の表情を今でも思い出せる。 かなわないなーと思った瞬間でもあった。 「それでね。是非家族に紹介したいから、清春と一緒に来てくださいって」 だから帰るのと一緒について行っても良い? 清春は悠里が何を言いたいのか、やっと理解した。 まだまだ親のすねかじりである学生の清春からすれば、悠里はれっきとした社会人だ。 だからこそ紹介して欲しいと言う発想になるのは、まぁ普通なのかもしれない。 まだ悠里の年になっていない清春には曖昧で、推測とそうなのかなー程度でしかないが。 思うことがあるのならば、どうしてこのタイミングなのだろう。 偶然だ。 悠里からすればバッタリ逢ってふと考え、言ってみようと思った、程度だろう。 だけれど、清春の母がした発言は策略的だ。 ふらっと帰っても「ご飯は?」とか「明日からいない」とかしか言わない、息子を持つ母としてなれました、みたいな発言しかしないに。 夏休み、清春が兄弟の帰省で家を避け続けているのは両親公認だ。 それをこの手で来るとは。 悠里が頑固だとは知らないはずだ…けど、読んでいたはず。 教師が緩い筈、無い。 「清春君、兄弟多いんでしょ?凄く羨ましいなって思っててね」 きらきらと輝く瞳に嘘は無い。 断るなんて言わないと信じきった様子。 だから救われたのもある。 何をしても泣かず、信じてくれたその強さに――惹かれた。 だけれど、それがこうなると又別の話。 「別にキミコが居る時ならいつでもイーだろうが」 「お父さんが居る時にって是非って言われたよ?」 「オマエはキミコの手下か!!」 「違います!清春君の彼女です!!」 「………チッ」 予想以上にキた。 結構嬉しいこと言われたような、流されているような。 弟はまだ、まだ良い。 兄と姉にどれだけうんざりしているか、あえて避けて言わなかったことを清春は今更ながら後悔する。 言っていたら休みの時、一緒に避けてくれたかもしれない。 悠里はそういう優しさだってある。 時に頑なで厳しいが。 しょうもない理由で隠していた罰か。 いや、悠里の好奇心をそぎ落とさせるべきか。 「ね、清春君。一緒に帰ったら大丈夫だよ」 何処まで内情を知っているのか不明だが、悠里は柔らかい表情で微笑んだ。 如何にして阻止するか。 清春にしては珍しくお手上げで、この後を考えると、頭痛がしてきた。 ※『Only in your dreams.』に続きあり back |