That borders on insanity.






「どうした、悟郎」

 バカサイユの前で立ちすくむ悟郎を見て、瞬が呆れた声を上げた。
早く中に入れと言いたいのだろう。
 悟郎も分かっているのか、振り返る表情は寂しそうだ。
「そうなんだけど、シュン……ゴロちゃんは勇気ありません」
「なんだ?それは」
 悟郎のおかしな口調に、嫌な予感がする。
しかも建物の影にひっそり場所をとった翼と一がいた。
何から逃げているのだろう、という印象を彷彿させる。
特に翼はらしくない。
「………入らない、方が良い」
「は?」
 瑞希のトゲーを撫でる姿はいつもと変わりないのに、声が震えている。
一体何がなんだか、瞬には全くわからない。
 瞬は一度首を傾げてから、ふと清春がいないことに気づいた。

「仙道はどうした?」

 皆、核心な指摘に驚いた表情を見せる。
原因はこれか…と、瞬は思いながら考え直す。
 バカサイユに入れない理由など、恐れるなど、ひとつしか無い。
「……あいつ、寝てるのか?」
 ぞくりと背中に悪寒が、ひんやりとした鋭いものが走る。
 清春の寝起きはイタズラ以上に恐ろしい。
誰もが遭遇と経験をしているので分かっている。
「そそそそ、うなんだ〜」
「で、どうしてへばり付いてんだ?」
 悟郎の必死を一刀両断する。
 大体のことは読めた。
けれど、バカサイユから離れずの距離に居留まる意味が分からない。
避け逃げるのがいつもなのに、何故か今日は勢ぞろいだ。
「ゴロちゃん達が逃げたすぐ後、センセ来たの」
「言おうと思ったんだが、な…清春、先生のことになるとタチ悪いっつーか」
 悟郎と一の歯切れ悪い説明に、瞬は察する。
 悠里を助けたいけれど、自分も大事、友達思いもしたい。
そうなると悠里をバカサイユに入れて清春が起きるのを待ちつつ、何かあったら飛び込もうという考えのようだ。
なんだか涙が出そうな展開である。
「情けない…が、俺にも何ひとつ出来ん」
「でしょ〜?センセ許して、キヨの目覚めは破壊的」
「……狂気の沙汰」
「キョウキ?サツジンの凶器か??」
「翼、それ違うから……」
 瑞希のぼやきに翼が反応し、一が溜息をついた。
 ひとときの逃げも一声で一瞬だ。
あっさり切れ変わる。


「きゃーーーーっ!!?」

 甲高い悲鳴が防音の建物なのに聞こえてきた…気がする。
錯覚かも知れない。
だけれど、一瞬にして皆でバカサイユに飛び込んだ。
始めから中にいろと言われそうな俊敏さだった。
「清春君っ?!」
 雪崩れ込むようにして入ったB6は、清春が悠里の手を取って軽く掌にキスをしている姿に、身体が動かなくなる。
信じられないというか、清春イメージから到底結びつかないものには無理があった。
「みんな、助けて……!」
 悠里の声は切実で、ガタガタと震えている。
 忠誠のキスよりも、清春がしたという思いつかないことに脅えていた。
普通それじゃなくね?くらいな気持ちだが、何でもありな勢いだ。
 それもタイミング良すぎる登場を、悠里は疑っていない。
意図を考える以前で、気が回らず動転して何も考えられ無いだけだろうけど。
「どうしたの?皆して」
 清春と思われる人の笑顔が出迎えてくれる。
 騎士の如く、悠里の手を唇からあっさり離すも、手は掴んだままだ。
「Fight、担任」
「キモチワルぃ……」
「シュンが泡吹いて倒れたー!ポペラきもいー!!」
「悟郎、それは酷すぎないか?」
「……ガンバレ」
 各々の態度に悠里は涙目で訴える。
そういう掛け声いらない!と抗議もしたいし、瞬も心配なのに、清春から離れられない。
寝惚けているのに掴む手が強すぎる。
「清春君。とりあえず、ね…?」
「何ですか?先生」
「えーっと、手。離して?瞬君が倒れてるから」
「それは叶えてあげられない。先生、ボクが離したら離れてしまうでしょう?」
 いつもにない反応な気がして、悠里は目が離せなくなった。
後ろで揉めているのか叫んでいるのか、助けてくれないのは確かな生徒達の声が耳に届いてはいる。
助けに行きたいし、それに便乗して逃げたい。
でも、前に見た寝惚けとは又違う。
 何か、強い視線を貰っているような、自惚れだろうか。
悠里はそんなことを思い、隙を見せてしまった。
それを清春は見過ごすはずが無い。
「僕のバラをみすみす渡したりしないよ。わかってる?先生」
「え?ひゃっ!」
 バラって花ですか?え、清春君??と動揺している間に、掴まれていた手が引っ張られる。
そのまま清春の胸元に頭をぼすっとぶつけた。
 くすくすと笑う声が耳元に届く。
 悠里はやっと清春に抱きしめられていることに気づいた。

「あー!キヨ、ずるーい!!」
「そう思うなら悟郎君っ!助けて!!」
「……ごめんなさい、それは無理」
「諦めるの早っ!!」

「離さないよ。先生、僕だけのために咲いて」
「ひーーーっ!!」
 いつでも妄想するくらいだから、この状況は乙女モードじゃないか?と疑問すら湧くほど、悠里が驚いている。
珍しくときめきよりもビクついていた。
まぁ、分からなくも無いが。
「Dead or Aliveって気分だな……」
「瞬も今、その崖っぷちだ」
「………ガンバレ」
 冷静なのか微妙な翼と一に、眠そうな瑞希がいた。
 しばらくして清春が覚醒するも、悠里を抱きしめたまま解放せず、悟郎が呻いたのは言うまでも無い。



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