have a huge breakfast






「ぅ…ん、」

 もぞもぞと、身体を揺らす。
少し肌寒くて掛け布団をぎゅっと掴み、離れないように固定する。
今日はお休みだから、ゆっくりしたいと無意識ながら感じ取っているようだ。
寝惚けているのに、寝過ごして学校に遅れるという思考が全く浮かんでこない。
 寝直そうと睡魔を呼び込みかけるも、朝日が差し込んでくる所為か、やけに眩しい。
 手を伸ばして、カーテンを閉めようと試みる。
が、まったく届かない。
ぱたぱたと感覚で動かすが、さっぱりだ。
 いつもならばこれくらいで届くのに…と、うっとおしさを思いつつ目を開けた。
「……ぁ、れ?」
 手からカーテンまでの距離が随分ある。
どおりで届かないわけだ。
それにいつもより、ベットが大きい。
 何でだろうと思いかけてやっと、自室でないことに気づいた。
 そして、自分の気ままさに恥ずかしくなる。
「…うぅ」
 もう少し可愛らしい目覚め方は無いのか、と思った。
いつものように、自分のベットで寝ているという錯覚が起きているなんて。
 伸ばしていた手を引き、身体を反転させる。
 居ると思っていた人がいない。
こんな情けない目覚めにひとりで良かったと思うし、矛盾して寂しいと思う。
 先ほどまで居たと思われる場所の温度を確かめた。
冷たい。
いなくなって随分経つということがわかる。
「……ふぁあ」
 起き上がり、腕を天井に伸ばして欠伸をした。
服のサイズが合っていないので、袖がするすると落ちる。
 今、悠里が着ている服は風呂に入る際、二階堂が云々考えて用意し、貸した服だ。
几帳面というか、そこまで考えなくても良いと思ったのに。
 悠里は愛おしいあまり、口元が緩んだ。



 必要最低限しか置かれていない無機質な部屋を出ると、良い匂いが鼻をくすぐる。
出る前に時計を見たので、朝食を作ってくれていると察した。
 手料理食べたこと無いな、初めてだな。
そう思うと足取りが軽るし、台所で見かけて、頬が緩んだ。
後姿で、幸せを噛み締めてる。
一緒にいられる事が、こんなにも嬉しいのだと思うと、そう感じてしまう。

「二階堂先生っ」

 がばりと後ろから抱きしめた。
くすくすと笑いながら、無防備な身体にしがみつく。
「っ!?」
 案の定驚いたようで、二階堂は後ろを覗くようにして振り向く。
物音も気づかず、ひとつのことに集中する様が二階堂らしかった。
「南先生っその、ですね。あぁ、その前に……お早う御座います」
「はい、おはようございます」
 挨拶がこんなにも愛おしいと思えたのは、初めてかもしれない。
大げさだけれど、恋をして初めての価値観だ。
「朝食、もう出来ますから食べてみて下さい」
味に保障はありませんが、味見した限りでは問題無いと思います。
 後ろから覗き見すると、見た目からして美味しいそうだ。
 悠里はB6から散々これはどうなんだと言われ続け、最近やっと疑問を抱くようになった。
好きな人が出来たからかもしれない。
 女と言うのはある意味、薄情だ。
恋でなければ変わらない、自分を信じきった頑固さがある。
「貴方が前に、朝は慌ただしくて食べていないと言っていましたが」
 ぽつぽつと話しながら、二階堂は手馴れた手つきで皿に盛り付けた。
調理が丁度終わったところのようで、良い時に来たと悠里は思う。
「毎日…じゃないですよ?」
「抜く日がある、ということには変わりありません」
 説教をしているのか、心配しているのか、どっちもなんだろうなぁ…と、悠里はぼんやり聞いた。
恋人同士になってもそこは変わらない。
「朝はしっかり食べないといけない。重要性として…」
 説明をしてくれるが、悠里の耳に届かない。
話しながらも動く手に感心し、見入ってしまったからだ。
 二階堂は簡単な自炊くらいしか出来無いと言っていたが、男の一人暮らしにしては上出来だと思う。
自分でもこんな上手く行くかなと不安すら感じた。
悠里の女として、小さくて捨てられないプライドが垣間見える。


「……南先生?」

 悠里の沈黙に気づいたのか、二階堂が様子を窺って来る。
それにハッとして、悠里は笑みをこぼした。
「以後気をつけます。それと、作ってくれて嬉しいです」
「それは気にせずに。私が思ってしたまでですから」
「はい……あれ?」
 ふと先ほどから違和感を感じていた。
悠里は何だろうと思って、思案する。
「何ですか?南先生」
 その言葉にはっとした。
 気になっていたことを、流さずに言ってしまう。
もやもやした感覚を放置しておきたくない。
「“悠里”って呼んで下さい。昨日、そう言いました」
 ぎゅっと抱きつく力をこめる。
広い背中が愛おしくて、頬をすりあわせた。
「ぁあ、それはですね…」
 昨日を思い出したのか、二階堂は目を見開き、そして苦笑した。
彼にしては濁した声だ。
 テレると予想していたので、悠里が驚いてしまう。
「二階堂先生?」
「貴方も、“二階堂先生”って言いましたよ」
「あ…」
「慣れていることを無理に止めようとする必要はありません」
「そうですけど」
「ゆっくり変えていけば良い」
 拗ねているのがバレているのか、二階堂があたたかく笑ってきた。
悠里は声を失ってしまう。
 名前以前に年下だから丁寧に話す必要は無いと追求した時もそう言われた。
元々相当でない限り口調を噛み砕かないので、それ以上責めてはいない。
余談だが、悠里が知っている相当の相手は葛城である。
「わかりました」
「私も最善を尽くします」
「大げさですよ」
 しゅんと凹み返事をしたけれど、そこまで言われると笑えてくる。
 悠里は声に出して笑うと、抱きつく腕をするりと解かれ、二階堂が向きなおした。
 何と表現すれば良いのか悠里には分からない。
ただ見惚れてしまった。
 細く笑って、少し恥ずかしそうにする表情が愛おしい。
「貴方って人は…」
 頬を撫でられる。
「ぁ、服…有難う御座いました」
「いや、何も無くてすみません」
 私服で着ると思われるワイシャツに下はジャージだ。
大きさを考えて配慮した結果だろう。
腕まくりで上は着て、紐でしっかり絞り下を穿いた。
 十分だと思う、不満は無い。
 悠里からしてみれば、二階堂がいつジャージを使うのかが気になった。

「朝食作ってくれたのも嬉しいですけど…やっぱり、起きたら居て欲しかったです」
「……分かりました。次からはそうします」
「はぃ。起こして下さい」
「決定事項ですか」
 くすくすと笑って、二階堂が自分の眼鏡を外した。
次に何が来るか分かっているので、悠里はそれを見ながら待ちわびる。
「私を起こしてくれても良いんですよ」
 二階堂がそう呟きながら、悠里の唇に触れるだけの優しいキスをする。
彼らしくて、もの足りなくて…悠里は二階堂の首に腕を絡めて、飛びついた。



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