trample the flowers under foot






「センセ!センセ!!」
 悟郎の嬉しそうな声と一緒に、いきなり手を捕まれて走らされた。
悠里は何がなんだか分からず疑問を投げかけるも教えてくれない。
ただ、「良い物見せてあげる」と言ってバカサイユまで連れてこられた。

 入って早々、悠里は重たい空気に背筋がぞわりとした。
B6全員揃っているが、何処からか滲み出ている哀愁があって、瑞希ですら心なしかしょんぼりしている。
悟郎がそれを気にしていないので、多分…彼が元凶なのだろうと察した。
「センセ、見て!」
 じゃーん!と効果音を声に上げて、悟郎が悠里の前に何かを見せる。
 ピンクと白を基調に青で色の締まりをつけた杖…で良いのだろうか。
悠里はアニメなど女の子キャラが持つ道具を彷彿させる。
「ポペラ可愛いでしょ?」
「うん、すっごく可愛いと思うけど…」
 訳が分からず首を傾げると、悟郎が再度嬉しそうに笑う。
どうやらこれを見せたかったようだ、と悠里は納得した。
さり気なく、自分がそれを持つ勇気は無いなぁと思ったのは言うまでも無い。
 悟郎だから可愛いくて似合ってるんだと自己完結させる。
「えっと……?」
 その他はさっぱり推測出来ない。
 助けを求めて周りを見たが、誰もが苦笑している。
というか現実から逃避していた。
やけに皆して、悟郎がチアの格好や聖帝祭の衣装を着るのも見るのも断固拒否をしている。
男の友情的に許せる範囲があるんだろうと悠里なりに察しているつもりだ。
「えっと、だな…先生」
 一が苦いまま声を紡ごうとしているが、視線はうろうろしている。
言い難さを感じて悠里は言葉を待っていると、悟郎がそれを読まず、自分で説明し始めた。
「あのね!センセ、これゴロちゃんがデザインしたんだよ!」
「そうなん……って、えぇ!?」
 紙の上で書き上げたデザインを形にさせるのは単純でも簡単でも無い。
もしやと思い悠里は翼を見ると、彼は一生の不覚ぐらいな勢いで重かった。
「ゴロちゃんね〜もうすぐ誕生日なの。だ・か・ら、ツバサに頼んで作って貰っちゃった!」
「……お誕生日プレゼントってことね。翼君、友達思いね」
「Shut up!それ以上言うな、オレがミジメになる……」
 解釈とフォローのつもりで発した言葉を翼が遮断する。
無理だよね、やっぱ…と悠里は予想していたので凹まず、ただ苦笑した。


 ぽつぽつ話を聞いてみれば、バカサイユまで連れて見せられたのは此処から持ち出すなという御達しがあったらしい。
翼のよく分からない何かが左右していた。
周りもそれに賛成したらしく、悟郎は不満ながら悠里を連れて来たのだ。
「で、是非とも一番はセンセに見せようと思って」
「何を?」
 こほん、とワザとらしい咳をひとつしてから、悟郎が杖を振り回した。
他はソファに腰かけ、悟郎ひとり広いスペースで動いているのでぶつかる支障は無い。
 どうやら魔法をかける瞬間なのか、変身前のアクションらしき踊りのようだ。
ひらひらと制服のスカートが舞って、清春が露骨に嫌そうな顔をし、瑞希も無表情だが痛々しそうにする。
 可愛いのに何処か格闘技が入り、ヒーローが窺えるのは悟郎流だろうか。
悠里はそんなことを思いながら綺麗な動きだなぁとひとり感心した。

「ポペラリットォー…レッード!!」

 びしり!と最後は杖を天井に高々と突き上げた。
体操選手が両腕を上げて終わりのポーズを決めるような締まりだ。
 悠里はパチパチと手を叩くも、周りはもはや撃沈だ。
爆弾投入された気分である。
「Redってなんだ……」
「ヒーロー…なのか?」
「毒だ…」
「つーか、俺様にはラリアットにしか聞こえねェ……」
「……ぐぅ」
 各々悟郎の発言に茶々を入れたのは、動揺のあまりだ。
無視をすることも出来ず、倒れることも出来無い。
「いつのまにかヒーローになっちゃった…ポペラ可愛さが抜けちゃったよ〜」
 懐かしくてとこぼした悟郎に、悠里は小さい頃はヒーローものにハマッてたんだと思った。
いつのまにか、ならばそれが妥当である。
今の容姿からは想像出来ないのが本音だが、やっぱり男の子って奴なんだと改めて感じた。
「ど・ど?」
「見惚れちゃったよ」
「ホント〜?!ゴロちゃん嬉しい〜〜!!」
 一番初めに見せたいと言ってくれた優しさも、悠里は嬉しかった。
感謝の気持ちを込めてにっこり笑う。
 そして、ふと決め台詞を思い出して疑問を感じた。
「…あれ?悟郎君。戦隊なら、ピンクが良いんじゃない?」
「……は!!」
 どす重い声が、聞こえた気がする。
 悠里は目を見開いて悟郎を見ると、次の瞬間にはいつもの声だった。
幻覚かな?と首を傾げるだけだったが、周りは違う…と心で否定する。
言えないのは体力がさっぱり無いからだ。
「ピンクってセンセ色だけど、戦隊じゃ譲れないよ!」
「譲らなくて良いよ、悟郎君の方が似合ってる」
 そうかな〜?と言い切ったわりに悟郎は少し不満そうな面を見せた。
悠里はいつでも自分を下に解釈している。
「じゃぁ、皆は何色?」
「ん〜?そうだな〜…ツバサがレッド、ハジメがブルー、シュンがグリーン、キヨがカレーのイエローでミズキは白!」
「オィ待てや、悟郎ォ!!なンで俺様が黄色なんだっつかカレーってなンだし!?」
「先生はボス役になるかな」
「えぇ?!そしたらゴロちゃん達、無条件でセンセに降参しちゃうよ〜」
「なんで??」
「てめェらオレ様の話を聞けェェェーーーー!!!!」

 清春が突っ込み役になっていることと、悟郎がワザと言っている珍妙に、一は苦笑した。
そんなこと出来るのとさせられるのは悠里と…別口で衣笠だけだ。
「翼、」
 八つ当たり感覚で翼に視線を向けると彼こそ後悔の真っ只中だった。
どんよりと渦を巻いている。
「作らせるんじゃなかった……」
「そうだ真壁!オレは今、花を踏みにじられた気分だ!!」
 瞬が一に便乗して、剣幕な表情で叫ぶ。
清春達がうるさすぎるので、瞬の声すら響かないのが現状だ。
「…………ん」
「お?瑞希が『そこで比喩表現を使うのは瞬だけ』だってさ」
 翼への嫌味を一先ず止め、一はアニマルマスターとして訳すと、今度は瞬のキレる音が聞こえた…気がした。



〜♪

「あ!今チャイム鳴ったよね?!」
 悠里が清春を無視してすくりと立ち上がる。
そしてB6に向けて叫んだ。
「次、LHR!卒業式まじかなんだから、ちゃんと出てね!」
 授業と授業の間に悟郎に呼び出されたのをすっかり忘れていた。
教師が遅刻とは何たる不覚。
「あ!卒業式関係無く、出るのよ!?」
 後少しだから出なさいみたいな口調だと気づいた悠里は、訂正で叫びつつバカサイユを出て行くと、B6がぽつんと取り残される。
 しばしの沈黙の後、同じようなタイミングで皆笑い始めた。
悠里の先生らしからぬ失態もだが、1年で随分手名付けられた気分になったからだ。
説教も嫌さが無い、素直に受け止められる。
そんな自分達に笑えた。
「しょうがないな」
「行きますかー」
 欠伸や面倒くさそうにしながらも腰をあげて、皆でバカサイユを出る。
言われたからには授業に出てあげようじゃないか。
それが当たり前だけれどB6にしたら担任に出来る、小さな恩返しな気がした。



back





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -