today's fortune, astrology






 こてん、と額に若干だが衝撃を受けた。
 あれ?と悠里は一瞬ばかし、思考が止まる。
なんとなく今の現状を確認することが出来無い。
「み、みみ……瑞希、君?」
 ノートに教科書の説明を書いていたところだ。
いつもどおりひとつの机を挟んで向かい合って座っているのだけれど…と、分かりきったことを悠里は自分に説明した。
動揺しきっている。
 下に落ちる影からして、これは。
「……先生?」
 恐る恐る視線を上げると、まじかに瑞希の顔がある。
これは世の中で乙女の夢と属される『おでこゴツン』だ!と悠里は気づいた。
 どきどきする。
いつもからして当たり前なのだけれど、今回は少し落ち着いていた。
瑞希という雰囲気に慣れてきただろうか。
悠里にそれの答えは分からない。
 睫毛、自分より長い気がする。
瞳の中ってどんな世界なんだろう。
 悠里はじっと瑞希を見て、そんなことを思った。
「動揺…しないの?」
 後頭部を撫でられる。
髪がさらりと揺れた。
 優しくて気持ち良い手だと思う。
くすぐったくて、身体が少し反応しそうになった。
 悠里はふわふわとした感覚に酔いしれそうになったが、瑞希の言葉を噛み締めてハッとする。
「動揺してます!!教師をからかわないのっ!」
 瑞希の両肩を両手で押して、悠里は距離を取った。
顔が熱い。
無意識で頬に手をやった。
 そしてムッと瑞希を睨む。
洒落にならない冗談など、翼と清春の特許であって瑞希が感染する必要は無い。
十分問題児ですから、それ以上頑張らないで下さい。
「冗談はやめてよ……もぅ、驚いた」
「………冗談じゃ、無いのに」
「…え?ごめん、なんて言った??」
 瑞希の声はいつも以上に小さすぎて、悠里には届かなかった。
少し気が散漫としていた所為もあり、疎かになっていたのが原因だ。
「トゲー?」
「……ん」
 心配した声に、瑞希はトゲーの身体を撫でてあげる。
 一がいたらこの会話も何か分かるんだけどな、と悠里は思いながら首を傾げた。
どうしようかなぁと思っていると、ふと額で脳裏によぎったものがある。
 額、額?
「ぁ、」
「………何?」
 思い出し笑いで、悠里はつい口元に手を押さえた。
ただの可笑しな人でしかないので、隠したつもりだ。
「あの、ね…はは」
「?」
「今日の星占いってのが朝のニュースでやってるの」
「……ぅん?」
「ちょっとマニアックでね、今日のラッキーポイントが身体の一部なの」
指先とか、腕、とか。
 悠里の説明に確かに奇妙な占い方だ、と瑞希は思ったがそれを声に出さないでおいた。
悠里の感覚は少しおかしいところがあるので、引くどころか面白い占いだなーくらいしか思っていないだろう。
ある意味、悠里は図太い神経を持っていたりする。
変に繊細で、弱いところもあるのに、全部がそうで無いから全てを察するのは難しい…と瑞希は心で思った。
「今日ね、おでこだったんだよ」
 身長に差があるので、あんな近くでみれることなどそう無い。
ましてやここまで整った顔など、聖帝学園の高等部に来て麻痺しているが普通ならそう無いことだ。
素敵な経験だったな〜と悠里はしみじみ思う。
 若干誰でも良いのかと指摘を受けられそうだが、悠里は変な乙女感覚があるので螺子が足りないのか嵌め方がおかしい。
「……………そぅ」
「うん」
占いってそう信じてなかったけど、当たるもんなんだね〜。
 悠里の嬉しそうな声に、瑞希は何を言えば良いのか分からず、反応出来なかった。
圧倒されたけれど嫌な気は何処にも無い。
気が抜けたけれど心は熱い。
「トゲー!」
「ん?トゲーとは額ごつん出来無いよ??」
 悠里の気まぐれな口調に、瑞希は動揺のあまり気づかず、聞き損ねる。
自分の感情を抑えるので神経が精一杯だった。



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