put on a little rouge one's lips






なんでンなことに悩むんだよ?
オレにはさっぱりわっかンねェし。

イジめても全然泣かなねェのに、変に拗ねられっと、オレが負けちまいそうになる。

愛おしさに変わりは無い。
オレにしちゃーガラでもねェこと言ってっけど、そうなんだからしょうがねってことだろ。





「清春君の馬鹿」
「ンだよ」
 睨み付けて来る表情は幼くて、自分以外の誰にも見せたくないという独占欲に駆られる。
だから、ふたりっきりで良かったと清春は安堵した。
「どうして学校でキスするの」
「してェからに決まってンだろ?」
「……馬鹿」
 じっと瞬きなく頑張って睨もうとするしぐさに、惚れた弱みか悪魔でも黙ってしまった。
 どういう内容で言っているのか、清春は分かっている。
部活の顧問になった悠里の所へよく来る木端に、見せ付けでキスをしたせいのが根本だ。
日々大学の合間や終わってから顔を出す清春を悠里は歓迎してくれるが、公でのキスは不満らしい。
 見せ付けてこそだろと清春は思うも、前に悠里が担任するクラスでキスをした後も、怒っていた。
それを受け流してきたのだが、今回の露骨さがいけなかったのだろう。
前から「愛してる」と言い続けたり、頬や額にキスを送り続けたりはしたが、唇にはつけなかった。
何がどう違うのか清春には訳が分からないが、多分…女の気まぐれか些細な事情って奴なのだろう。
「怒ってるんだからね」
「オレはしたい時にしてェの。分かる?アンダースタンド??」
「大人になって!もぅ…教師が淫らな行為だーとか言われたら一発クビなんだから」
 首元を切るそぶりを見せて、悠里は口元を尖らせた。
いつものように折れてくれない。
さて、どうしようかと清春は思案する。
「生徒は見過ごしてくれてるけど、誰が見てるかわからないんだからね」
「あ?ナニが言いてェんだよ」
「教師、続けていたいの」
 清春の頬を悠里は掴んだ。
悠里からつねられるなど初めてで、清春は一瞬何をされているのか分からなかった。
頭が真っ白になる。
「ClassXやB6、清春君との思い出がいっぱいの聖帝にいたいの」
 清春も同じだ。
3年で初めて悠里と出逢い、嫌々だった補習もし続け、散々苛めても泣かなくて、最後は落ちてしまった。
 目の前にいることが嬉しい。
少しどころかかなり教師陣に狙われていたが、自分のところに来る確信はあった。
何処に勝算があったかなど、清春に明確なのは分からない。
 だけれど、考える意味も、する必要も、無かった。
「清春君が今も学校に来てくれることは嬉しい」
 両頬に手を触れ、悠里は自分から清春にキスをする。
触れるだけ、されど甘く。
「清春君のキス。凄く好きだよ」
 唇の次に、頬。
同じように触れるだけ、ゆっくりと。
「皆の前でキスしないで…ね?」
 目元に唇をつけて、悠里は微笑んだ。
「約束、して?」
「ッ…!」
 いつ誰が手をつけるか分からないから、学校に行って見せ付けているのに。
さっぱりそれを理解せず、止めようとする悠里を強引にねじ伏せてきた。
だけれど、こうされると覆せ無くなる。
 いつのまにこんなワザを持ったのだろう。
そんな疑問すら湧いてきた。
 清春は動揺していることを自覚する。
どうやっていつもどおり、強引に交わしてみせようか考えるも、さっぱり思いつかない。
動転しているとはこういうことか、と身にしみて感じた。
「清春君」
「くそっ…オレ様に歯向かいやがって」
「返事は?」
 親が子に言うような口調だが、何故か不快さが無い。
 ここまで来ると、悠里は一歩も引かなくなる。
随分前から知っていることだ。
強情さも、しつこさも、あまさも、優しさも全部知っている。
 躊躇っていると、止めを刺すような一言を悠里はさらりと発言した。
「ぁ」
 悠里は清春の唇に指を触れ、少し撫でる。
「口紅、付いちゃった」
ごめんね。
 少し恥ずかしそうに、今更なことを言った。
どれだけ沢山のキスをしてきたか分からないくらいなのに、このタイミングで言うところが何とも恐ろしい。
無自覚な悠里は細く笑った。
 そして再度、清春の答えを待っている。
犬っころのように尻尾があればパタパタと振っているだろう。
 強制な勢いなのに、疚しさが無い。
だからタチが悪かった。
 清春の悪がぼきりと折れる。
「わーかった!わかったっつってンだろうがァ!!」
「良かった。有難う」
 顔を背け、投げやりに吐かれた言葉が、悠里は何か知っている。
清春の気持ちに嬉しくて綻びた。



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