I want to know what love is




せっていにいないオリジナルキャラも若干出てきますが、当たり障りないように心掛けてはいます。そのキャラを「自分」として当てはめるのもそれはそれかも。




 息子が日本にひとり滞在するようになって、早幾年。
ずっと一緒に過ごしてきた所為か、茂が帰省している期間、千鶴は異様な上機嫌を見せる。
鼻歌を口ずさんだり、笑顔が三割り増しだったり、異様に優しかったり…色々諸々。
 複雑だなぁとか思いつつ、千鶴はやはり母なんだなとか、嬉しいならなんでも良いや、なんて左之助は思っていた。



 息子の問題発言――茂はそう思っていない。左之助の解釈だ――は夕飯時にやってきた。
「そういえば」
 茂がぽつり。
左之助は千鶴にお茶を貰いながら、茂に視線を向ける。
「ん?」

「もしかしたら、次にこちらへ帰ってくる際、奥さんを連れてくるかもしれません」

 わかりませんけど、と曖昧ながら嘘を付いている様子は無い。
全く唐突、さっき階段で転びましたくらい、どうでも良いような雰囲気で、躊躇いも無かった。
 日本はどうだとか他愛のない報告を受けていたから、その延長で、気が緩んでいたのだろうか。
ぶーーーっと左之助は飲んでいた茶を吹き、嫌な霧が飛ぶ。
無意識で千鶴と茂を避けたが、床は当然濡れた。
 げほ、げほ、とその後も左之助はむせる。
「左之助さん!?ちょっと待っていて下さいね」
 拭くものふくもの、と千鶴が慌てて席を立つ。
 茂は自分でもそんなことしない動揺、この人するんだくらいのぼんやりで傍観している。
「ちょっと待て、茂」
 未だごほごほと、むせていた。
「待ってますよ。それに娘から将来のお婿が挨拶に来るかもぐらいの動揺しないで下さい」
 息子なんだから勝手にしろ、とか言う人だと思っていたので、呆れた気持ちをはっきり述べる。
 勿論それは適格だ。
左之助も勝手にすれば良いと思っている。
ただ――
「お前の言い方は、千佳が嫁むかえたくらい他人事だから、だな…」
 友達が結婚しました、くらいな勢いで話されても困る。
一瞬そうかと思えてしまうほど、淡白だった。
言っている言葉と矛盾するからすぐに気づいたが、言葉と雰囲気は合わせるべきだろ…と左之助は心で詰る。
「左之助さん、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ…」
 千鶴が布巾を持ってきた頃、やっと落ち着く。
 茂は千鶴から別の布巾を貰い、床を拭いた。
一応自分が蒔いた種、とは思っているらしい。
父の床を拭く姿が情けなすぎて可哀相だという想像により、動いた、もある。
「それで、茂。今の話、本当?」
 左之助の様子を窺いながら、千鶴が茂に問いかける。
 きらきら、と笑顔に輝きが増していた。
しかも、珍しく少しながら身を乗り出している。
期待の視線と態度、なんだろう、これ。
「はい。ただ、求婚…でしょうか。されまして、もしかしたら、ということなんですけど。実家に帰る前にいきなり言われたんで、まだ何も決まってません」
「お前がしたんじゃないのか、おいおい」
 このご時世、女に求婚されたなんて男が廃ると言われかねない。
逆にどれだけ勇ましい女がころがっているか、否、さほどいない。
「茂、凄い経験をしたわね」
 左之助は呆れたが、千鶴は感心している。
男が言わない、という点よりも女の子が茂に言っちゃうなんて凄い子ね、とかそんな所だろう。
価値観にしては珍しい方だ、千鶴も、その息子である茂も。
「ねね、なんて言われたの??」
 きらきら。
 千鶴の目がものすっごく輝いている、と旦那も息子も気づいていた…気づけない筈が無い。
なんというか、圧倒される。
千鶴がすごい食いついてきた。
 どちらかというとそういう野暮なことは聞けません、みたいなこと言う性格なのに。
息子となると別らしい、前向きに。
「えっとですね…」
 あっさり息子の、茂が折れた。





「欲が少ない」
 悪いことでもないのに、不機嫌そうな面で文句を言われた。
可愛くないというか女の子が殺し合いでも無いのにそんな鋭い視線を向けるな、と茂は思いつつも話が脱線するので声にはしない。
「そう言われても…現状で満足している。欲しいものも無い」
 両親がいて、千佳がいて、鬼の一族とも仲良く出来ているし、目の前にいる彼女とも良好、寝床まで借りて、仕事も粗いが悪くない。
 これ以上何を望むか。
何も無い。
思っていることをはっきりと伝える。
 そうすると盛大な溜息をつかれた。
思っていたとおり、みたいな感じ。
「どうした、いきなり」
「…私ばかり我が侭言ってる気がする」
 勇ましい人だ、茂でもそう思える。
言いたいことを、聞いたことに対し返す強さを、ちゃんと持っている。
そういう潔さが綺麗だと思う。
「そうか…?男がどうにかするものだろ?」
 父を見てきたらそう思っているだけのこと。
そういう教育だったまでだ。
 それに自分の我が侭は叶えて貰っているつもりでいた。
だから、文句も不満も無かったのだが。
「お前がしたいこと、かなえてやりたい」
 そう言うと、何故か泣きそうな顔をされた。
くしゃり、と。
歪ませて。
 どうしてそう苦しそうにするのか。
 良いことを言ったつもりは無いが、暴言でも無い。
女心はさっぱり理解出来ない。
分かりそうな兆しも見えない。
「ご飯は美味しい、部屋の掃除もしてもらっている。感謝は返さないといけないだろ」
「それだけ?」
 それだけって充分な理由だと思う。
 何の言葉が足りないのだろうか。
分からないまま。
 茂は思案し、言葉を紡ぐ。
嘘を通し続ける気力も無い。
思っていることを、良い悪い気にせず――
「お前の喜ぶ顔がみたい。明るい、嬉しそうな笑顔を見ていると、気持ちがすっきりする。だから別にお前の言うことは我が侭じゃない」

「……――馬鹿!!!」





 怒鳴られた、そして本当に泣かれた。
珍しく大粒の涙を頬に零して、そして――
「『結婚してって言ったらするわけ』って言われて……お前、なぁ」
「良いよって?」
「えぇ。そう言ったら又怒られて宥めるの大変でした」
 何が悪いのかさっぱり分かっていない。
テレ隠しとかじゃなくて、本気でそう思っている模様。
 逢ったことはないけれど、どーーー考えても、その女の子は茂のことが半端なく好きだ。
そして自覚無い思わせぶりを見せる茂に腹を立てたのだろう。
勇ましさもそこまで、分かっていない茂に怒りが消失し、泣いてしまった…とかそんな感じだ。
 千鶴は茂の可哀相な鈍さに、その女の子へ同情している。
いや、千鶴が鈍感って言ったらダメだろ、と左之助は心で思う。
 全く持って千鶴と茂はそっくりだ。
 千鶴は女の子だから顔を赤らめたり、困ったり、はっきり好きか嫌いかが分かる。
だけれど、茂はさっぱり分からない。
今の話で茂がその子を好きなのか恋なんてしてないのか、すら分からなかった。
 でも、結婚するということを分かっていない奴じゃない。
左之助と千鶴の息子だ、どれだけ意味を成しているか分かっている筈。
 やっぱ好きってことなのか?
息子の恋心は父親にさっぱりである。
「茂はその子、お嫁さんにしたいって思ってる?」
「はい」
「なら私は賛成します。うん?反対はしません、かな」
 千鶴が嬉しそうに微笑んだ。
茂はそれを見てから左之助を一瞥、反応を待つ。
「あー…俺はお前の好きにすれば良いって思ってるからなぁ…賛成も反対もしねぇよ」
「はい。俺の好き勝手にします」
 言いやがった、と思いながらも左之助はその反応が嫌じゃない。
にやりと茂に笑い返し、己の髪を軽くかきあげた。
「しっかし……お前、食客だったとは」
 左之助も千鶴も、そして息子までもが食客を辿っている。
良い人に恵まれたと思うべきか、それってどうなんだと悩むべきか。
「あぁ、父様も母様もそうでしたね。別に俺もそうしたかったとかそういう訳じゃありませんよ」
 両親の昔話を結構聞いているので、茂は疑問もなく頷いた。
 日本に永住する予定無く生きることだけしか考えていない茂は、住まいを決めていない。
長くて数ヶ月で別の場所に移動していたのだが、ある事をきっかけにとんとん拍子で食客になった。
そのお世話になっている家族のひとりが、そのさっき求婚された女の子だ。
 で、一定の場所にいる期間が続き、千佳は楽で良いと喜んでいる。
「色々似てませんか?左之助さん」
 懐かしそうに、千鶴がふわふわと笑った。
 左之助も気づいていたがあえて触れないでいたのか、頬をかるくかくだけ、言い憎そうにしている。
いつでも新婚みたいな両親だが、昔の恋がらみを話す時によく口ごもっていた。
「……父様も求婚されたんですか?」
 何を今更恥ずかしがるんです、と息子は見解していたが、今は声に出さないでおく。
多分、態度には出ていただろうけれど。
「違ぇよ!」
 そこだけは意地があるらしく、左之助が激しい否定をする。
「ふふ。あのね、茂。左之助さんが『これから何がしたい?』って言ってくれたんですよ」
 息子の恋話で気分が良いのか、珍しく千鶴が話を続けた。
「私はすごく嬉しかったの。だから茂がそう言える男の人になって嬉しい」
 ふふ、と千鶴は左之助と茂に向かって微笑んだ。
「あーなんだ?お前男なんだから、その子泣かせんなよ」
 その笑顔からテレて逃げた左之助は苦笑交じりしに、茂の頭を撫でる。
呆れてはいるものの、愛おしそうに、息子を見ていた。
 成長したんだから幼い子供のような視線を向けないで欲しい、と茂は思う。
だけれど、茂は永遠に左之助と千鶴の息子であり、子供なのだ。
しょうがない、と諦める。
 それに撫でられるのは嫌じゃない。
懐かしく、父親のひと姿だと思っている。
「父様だけには言われたくないですけど……心得ておきます」
 千鶴を泣かせている左之助だけには言われたくない。
相変わらず自分のこと棚に上げるなぁと思い、歯向かってみた。
半分冗談、半分本気程度に。
「生意気な餓鬼だな。オイ」
 おかしそうに、左之助が口元を緩めた。



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