【 LITTLE, IF ANY 】のサンプルになります







※界境防衛機関とキャラの設定に捏造あり

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(本文サンプル)

 窓のない室内も多い本部とあって、ガラスを通り抜けて差し込む陽射しは貴重だ。出勤時なので外から来ているが、途中から人工の明かりしかない直通通路を歩いてきた東には、朝日と再会は喜ばしい。
 本部に来るとどうしても陽射しのない、時間感覚の薄れる場所に籠りがちだ。朝を、時間帯を実感できる場所は好ましかった。
 一方、東の前方にいる、よろよろと歩く冬島は、一歩一歩進むごとにじわじわと衰弱しているように見えた。東も決して目覚めのいい朝ではなかったが、陽射しで弱る人と比べれば、まともな気がしてならない。
「冬島さん、おはようございます」
「東、おはよ…」
「また徹夜したんですか?」
 また帰らなかったんですか。
 相手はいい大人で年上で、部下でもない管轄外となれば、とやかく言うべきではない。だが、よくよく本部で徹夜して朝を迎えた冬島と遭遇しているので、そういう含みになってしまう。
「そっちも夜勤だろ? 俺ばかり責めるの禁止」
 拗ねたような、同罪を増増やすような、反抗的な冬島だが、世の中そう都合よく不利から有利に引っ繰り返らない。
「違いますよ。早く来ただけです」

(中略)

「自主的な社畜だから、俺と一緒だろ」
 そんな訳で、いつも以上に閑散とした本部の朝であり、見慣れた面々ばかり顔を合わせる極寒の二月。大学院生の東も教授の用事がない限り本部にいる――冬島の言う通り『社畜』だが、他者に言われると肯定したくないもので。
「不本意ですね」
 休み返上で働く上位不動の鬼怒田に似たか、作り手の性か。元開発室所属の冬島は、夜勤でもないのに本部で夜更かしたり、開発の手伝いや協力を要請したり。帰宅すると取り組めない技術が多いのも相まって、趣味紛いで徹夜していく。
 勤務外の開発に、自己管理や休暇の注意を受けているらしいが、開発室の室長である鬼怒田がそもそも反面教師で、効果なく。開発室所属の者同様、冬島も昨夜とて古巣の開発室でトリオンをいじっていたようだ。
「何日徹夜したんですか」
「うわー分かる?」
「隈酷いですよ。合同訓練まで作戦室で仮眠したらどうです?」
 早朝とあって合同訓練までには余裕があるけれど、仮眠室を借りる程しっかりとした時間もなかった。冬島隊の作戦室にある、当真が昼寝に使うソファが丁度いいだろう。
 それに当真含む高校三年生組は自由登校期間に入っているが、基本的に学校のある時間帯の出勤を認めていない。来期から通い詰めになるので羽根を伸ばしていなさい――と、隊員の管理責任持ちの隊長もしくは上層部から助言という強制を出していた。嫌な一言か、社畜までの猶予か、捉え方は様々である。
 要するに当真はいないので、空いているソファで数十分寝ても怒られまい。
「いや、最近おっさん臭いって怒られたからダメ」
 気づかれないと思い、ソファに寝転がったことがあるらしい。臭いで察知され怒られた隊長、年上の威厳も気になるが――こういう強気のない冬島だからこそ、一癖も二癖もある当真や真木は選び、冬島隊をひとつの居場所にした。慕っている証拠だけれど、如何せん厳しい言葉ばかりで分かりにくい。
「そういう理由…洗ってないんですか?」
 まだまだ若い二十代でも、冬島と四歳しか差がなく。そもそも東隊にも高校生が三人いる。いつ言われるか、明日は我が身の東も笑って流せない。
「いやあ…女の子いるし、俺結構気にしてるけど…歳かな…」
 世で目の敵にされている加齢臭か。しょんぼりと落ち込む冬島は、大げさでも誇張表現でもなく、本当に全ての『女子高生』に弱い。学生の頃、理工系で男ばかりのところにいたのと、モテなかった経緯らしいが、過敏のような。威張ったり偉そうにしたりするよりはまともでも、この弱気は如何なものか。
「歳…煙草はどうです?」
「煙草…?」
 成人した男同士、しかも年上に近寄って嗅ぐような発想を持ち合わせていない。確かめるつもりもないけれど、先程吸ったのだろう、慣れた臭いが鼻につき、予測を立てる。
 そもそも本当に加齢臭だったら、当真や真木からはっきり言うだろうか。判断しにくいが、煙草よりは言いづらい、誰でも傷つきやすい部分に思えるので、もう少しやんわり指摘――して欲しいと願う。
「吸わない人にはすぐ分かるみたいですよ」
 高校生のふたりが吸っていない証拠であり、東としては一安心だが、余計な、信じていない台詞なので、あえて言葉にしない。
「諏訪も小佐野に煙草臭いと怒られてたでしょう?」
 問い掛けに、一回は見たらしいと読んだ冬島が、記憶を掘り起こす。自身の隊のオペレーターに怒られる、不機嫌そうにされる諏訪――鈍った脳内でも案外すぐ思いつき、「あーそんなことあった…」と納得の声を上げた。
 雀卓のある諏訪隊によくよく顔を出す冬島と東は、小佐野に突かれる場面に遭遇していたし、こちらまで飛び火して苦い思いをしたものだ。緊急でもなければよくある苦情で、しかも小佐野にとっての問題は諏訪だから、ぞんざいに扱っていたし、すっかり抜け落ちていた。
「俺さっき吸ったばっかだから尚更駄目だ」
 眠気覚ましの気分転換と、ひとまず休憩を兼ねて喫煙所によった直後、東と逢った。吸ったばかりなので、作戦室のソファで仮眠を取ったら、更に臭いが染みついてしまう。
「訓練まで、もうちょい試作いじるわ。一応一通り出来たんだが、まだまだこれから、突き詰められるところも多くてさ。期限がないヤツだし、こう幾らでもいじりようがあるんだよ」
 根っから開発向きの冬島を戦闘員に移転させた真木に驚かされる。若干的外れなことを思う東だが、仮眠する気のない冬島を止める野暮もしない。少しの時間でも開発に費やす姿勢の人間に抑制など徒労と分かっている。
「何を作ってるんです? 忍田さんが換装の試作に携わってる話は聞きましたけど…それと、今いじってるのは一緒ですか」
 開発室に戻るのか、歩き始めた冬島に合わせ、東も並んで進む。途中まで道筋は同じなので、問題ない。
「そう、それ。意見聞いていじって、気になるところいじって…を繰り返してるけど、昨日はこれ終わったら寝るとか、区切り決めてたらこうなった?」
「聞き返さないでください」
「忍田さんは自主的にデータ残してるから、すごく有難いんだけど、完成間際の微調整になるとデータ少なめの人物も欲しいんだよな…あとあの人どんなドリガーも、とりあえずなんとかしちゃうだろ。平均値が取れない。いや、試してもらうには一番頼もしいし、文句言うなって話だけど」
 上げて落とす、褒めて不満を足す。試作を任せる相手として、忍田は初っ端いいけれど、詰めになると向かないらしい。実際扱いづらくても、他者よりは上手く使いこなせてしまう点など想像しやすく、否定できなかった。
『冬島の試作か? そうだな…実装には時間が掛かるものだ』
 試作に触れている忍田の感想だけ聞いていた東には如何せん、どういうものか曖昧だ。ただ忍田や林藤、小南や迅に木崎辺りは、心体どちらも詳細のデータを残し続けている。東も約四年前から健康診断のように逐一残しているが、それ以上長く所属する彼らには及ばない。それを開発に利用したとも読めた。
「ようやく実用可能と」
「実用には何度か使用して慣らす必要があるけどな」
 そもそも五人のチーフエンジニアが指揮を取って開発している。ひとりで行うより、似たような才の持つ面々で班を作り共同した方が早いし、完成度もいい。それを分かっていても開発をしたい冬島は、勤務外にこつこつ制作していた。緊急で実装を要求されるものではないけれど、あった方がいいものを――時間を作ってようやく、完成目前らしい。
「どの戦闘員でも使えるようにしたいから、もっとサンプルが欲しいんだけど…ある程度強靭な精神と、試作に取り組める意欲、問題が起きても即時対応できそうな機転。あとはー…過保護な隊長に許しをもらえる隊員でなければいけない……てなると、いないんだよ」
「ああ、だから忍田さんになると…」
「忍田さんが許可貰う必要のある試作て、もう試作以下だろ…」
「そうですね…」
 色々試作に付き合ってきた忍田は難なく協力してもらえたが、ひとりで確定と言えず。実装可能にする為、危険性を減ら続け、安全性を強めたいので、沢山の人で試したい。
 だらだらと悩みを吐き、「東の一声で頷いてくれそうな相手、いない?」と他力本願したところでようやく、冬島は隣の東に違和感を覚えた。
 歩いているのだから、前方を見ているのは至極当然――と言われたら、否定できないけれど。
 来客が出入りする吹き抜け構造の広いフロア、その上階を歩いている時だ。東が視線を外さないことに、怠けた脳ながら勘は冴えていた。

「どうした、春ちゃん」
「春ちゃんやめてください」

 名前の春秋からつけらた愛称、あだ名を好んでいないが、気に入らないとも思っていない。年頃を通り過ぎ、正直どうでもいいまで達している東だが、周囲も真似しないよう諫めていた。
 このやり取りは何度も繰り返されている。何度か注意されて把握している冬島だが、隣で揺れた気配に、冗談を混ぜて暗示したまでのこと。
「沢村と忍田さんが向こうに」
 はぐらかす程でもないと、軽く捉えたか。濁しても隠せないと諦めたか。僅かな揺れを消した東が前方を見ながら、答える。
「え、何処?」
 冬島も東に倣い、廊下の右側面、落下防止の柵まで近寄る。上階から下のフロア全体を覗けば、やや離れた場所に沢村と忍田を発見した。
 界境防衛機関という組織上、簡単に人を雇えないことも相まって、上層幹部の制服を着ている人は少なく、男女ふたりとなると、本部長とその補佐が有力だ。早朝とあって人も疎ら、消去法ですぐ判断できる。良くも悪くもない生身の視力では顔まで把握できないが、東の言う通り、忍田と沢村だろう。
「ほんとだ。噂をすれば、か。よく気づいたなあ」
「しらじらしい。制服は目立ちますよ」
 視力のよさや狙撃手の習慣からなるもの――と頷けない。後輩を育てる師匠の表情でも、歳近い非戦闘員の女性と話す雰囲気でもなく。同輩を助けたいのか、手のかかる女の子もしくは妹か。東から沢村に向けられる瞳を、どう言い表すべきか、あぐねる。無条件ではないけれど、上司以外で東を連れ出し、使いっ走りにさせることもできる、数少ないひとりだ。
 だいぶ詰んでいると思うが、答えを聞いていない。色恋に縁遠いし、野暮だし、なにより声にすると東から全て隠しそうだから。面白いものを、ひとつ減らす愚かな失敗などしない。
「ふたりとも休んでると思う?」
 開発に没頭して夜更かしの冬島と、合同訓練で早く来た東が見かけるような時間帯だ。あまり人のことを言えない冬島だけれど、こちらほぼ趣味の開発であり、向こうは人手不足による社畜――だいぶ異なる。
「忍田さんが沢村を帰してますけど…忍田さんはどうだか…」
「よく夜中みるし、逢うし、試作協力してもらってるな」
「俺は今日みたいに、朝からみますよ」
 上司命令で沢村を休ませる、帰らせる場面に遭遇しているし、東は沢村本人から聞いていた。上司として悪くない言動だが、忍田本人は適当に残って仕事を捌いたり、夜勤の弟子と稽古や鍛錬をしたり、冬島とか開発室とか玉狛支部の試作いじりに参加したり。自身にはずさんな上司だった。
 無論それを知る沢村は、なるべく早く出勤して、補佐に心掛けている。社畜なのもあるが、好意あってのこと。忍田がこの好意まで気づけていたら、もう少し現状は異なっていて、沢村も報われている。要するに、噛み合っているようで噛み合っていない本部長と本部長補佐だ。
 ほんの数秒、東と冬島ふたりして静観していたら、ふいに見上げた忍田と目が合う。吹き抜けで視界は広いといえ、別々の階で距離もあり、緩い気配で勘づくとは――内心「本部の虎は恐い…」と思いつつ、冬島から軽く手を挙げると、忍田も返してくる。そこから沢村も察して見上げ、東に気づくと、愛嬌のある可愛い笑顔を見せた――のち、冬島に向けて睨んだ気がしたけれど、勘違いか。
「……あれ? 響子ちゃん、怒ってない…?」
 邪険にされた記憶はないし、良好的な関係を築いていた筈だし、沢村の性格的にも珍しい。気のせいと思うのも僅か、隣の東が溜め息を吐く。
「冬島さん、沢村に何したんですか」
「人聞き悪い。何もしてないよ!?」


(冒頭の担当は開発担当・冬島、東+沢村)
(あとはだいたい誰か+20歳組の流れで、今回は20歳組5人以外も出てきます)

(冒頭の次の章)


「で、冬島さん。どんな試作?」

 午前の合同訓練後とあって、二宮と同様の借りがある太刀川は勿論のこと、貸し借り事件で一緒にいた堤と来馬も連帯責任、そして元凶の加古――計五人揃った状態で、トリオンが消費しない仮想戦闘モードの使用できる訓練室に残るよう指示された。
 貸し借りあり、冬島の開発に信頼あり、全員何も聞かず頷いたのはいいが、何かさっぱり分かっていないのも事実で。強いもの、高い壁を越えたい太刀川は、身体をほぐしたり、軽く飛んだり、落ち着きない態度で問い掛ける。
 余談だが、特殊工作を好む加古もご機嫌そうで、試作を楽しみにする笑顔を見せていた。
「換装時の外見に関する試作だな」
「………俺らで?」
 外見の換装は、主に嵐山隊が広報時に使用し、至ってよくあるもの。四季に合わせて衣替えをする隊は、年二回以上換装時の服装をいじっている。だいぶ馴染んだものであり、変や奇抜なものではない。
 ただ、訓練室ならと検討していた訓練室設備や仮想空間の試運転は、換装解除の生身を要求された時点で消去して。五人全員、面子的に武力と武器に関するものと思い込んでいた。故に、一番トリガーチップの試作と予測して楽しみにしていた太刀川が訝しげな声を上げ、跳ねていた動きも止める。あからさまな、素直過ぎる落胆だった。
「換装時に外見をいじる実験あったろ?」
「あー確か、いじりすぎると、生身との差がありすぎて、違和感とか動きにくいとか、気持ち悪い…だっけ。小南がよく玉狛で試してた記憶あるな」
 学校などの一般人に隠したい小南は、換装時の外見をいじっている。本人の強い要望あり、玉狛支部で取り組んでいた。太刀川にはさっぱり理解できない思考だし、外見をいじる気もなかったので、迅から適度に聞く程度だ。
「換装解いてからも精神的に支障来すとか…なんとか、リスク高いから、あんま開発進んでないって聞いてたけど」
 学校などの一般人に隠したい小南は、換装時の外見をいじっている。本人の強い要望あり、玉狛支部で取り組んでいた。太刀川にはさっぱり理解できない思考だし、外見をいじる気もなかったので、迅から適度に聞く程度だ。
「換装解いてからも精神的に支障来すとか…なんとか、リスク高いから、あんま開発進んでないって聞いてたけど」
「そう。おまえらはだいぶ慣れたと思うけど、若い輩が使うと、トリオンか生身か分かりにくくなる意見で一致してるから、延期になった開発でな」
 髪型や服装だけでなく、体型、身長まで変えられないか――という発想は自然に浮かぶ。試した結果、時間さえ掛ければ慣れるが、日々の体感と食い違えば食い違う程、操作しにくい。加えて、換装を解いても違和感が残ってしまう。心体に影響、とくに疲労など神経の麻痺を恐れ、実装の目処もなかった。
「それでもやっぱり、昨今何処でも、少年兵は他者を欺きやすいだろ」

(中略)

「それで、だ。太刀川、手出せ。加古と、来馬も、よし」
 三人の名を呼びながら、手元にトリガーホルダーを渡していく。明るくて鮮やかな真っ赤のホルダーで、少し目に痛くも可愛らしい配色だ。
「おまえら個人のトリガーとは少し違うのが入ってる。いや、ほぼ同じなんだけど、カスタマイズ? チップの微調整してから、違うトリガーを渡す。換装したら、色々試して欲してくれ。個人差がどうでるか、見比べたい。質問は?」
 ない、とは言い切れなかった。けれどどのみち、冬島の為に、借りを返す為に、トリガーの起動を避けられない。ぐだぐだ文句を吐いても無意味だし、換装した後の分析をしてもらい、任務を遂行するべきだろう。
 ただひとつだけ、どうしても触れておくべきことがある。
「えーと…冬島さん?」
「ん? なんだ、太刀川恐いかー」
「その心配してないけど、二宮の分は? 笑う準備してたのに」
 基本サンプルは多い方が実装への近道だ。資金が不足しているから、全員分ないという発想はない。時間なくとも揃えられたから五人招集したとも思っていた。
「おい、どうして俺だけだ。堤はどうした」
 堤を笑う準備はどうした――苦情内容は微妙で。巻き込まれた堤が迷惑がる雰囲気を出してきた。
「いや、堤の場合、来馬は嫌味なんて言わないし、加古は貶さないからな。二宮だけ無視とか、可哀想だろ。ほら、俺がいじってやるしかない」
「おまえの可哀想になるまでの理屈が理解できねえ」
 堤に何か変化があった場合、来馬と加古ならどう反応するか――に否定はない。来馬は性格上言わずもがなだが、加古の堤を貶さない、案外贔屓するところも、理解しているようだ。
「おかしな服でも着させられると思ってねえか」
「なんだ、二宮も思ってんじゃん」
 嵐山隊の豊富な服装を踏まえれば、その思考は無難で、換装時に服装も変わると思っていたらしい。二宮の反応に同意見だと分かった太刀川が、真っ赤のトリガーホルダーを手の内でいじりながら、煽りを足す。
「冬島さん、オレと二宮のは…?」
 面倒なふたりを放置した堤から問い掛けると、とっても残念そうな表情をされた。やはり戦闘員になっても開発心は強い。裏を返せば、冬島を誘って隊長の座まで就かせた真木に対し、驚嘆である。
「被験者は多い方が良い。そう、そうなんだけどな? 堤と二宮は今日、日勤から夜勤だろ。トリオンの超過勤務は緊急時以外厳禁で、今の時間帯も勤務外。しくじったら俺、めちゃくちゃ怒られるし…色々懸念もあるから、諦めた」
 現状訓練室にいるので、仮想空間モードにすればトリオンの消費問題は解決だ。冬島のうっかりと思えず、五人みな不思議かつ疑問が視線に乗り、本人にも伝わる。
「身体動かしてもらった後、訓練室出て本部内を動き回って欲しいんだ。さっき個人差って言っただろ? トリオンの消費や、心体の疲労、五感、色々…数値でも取りたいし、数値抜きに単純な感想も欲しい」
 数時間の拘束が決定、トリオンの消費量不明を理由に夜勤組除外――ふたつほど正しい判断だが、外見いじって面白いのは二宮という認識持ちの太刀川と加古と堤が、残念そうにしていた。やや真面目、馬鹿なふざけ方をしない性格だから、少しいじりたいだけだが、二宮からすればいい迷惑である。
「本当は全員換装して欲しかった本音は今もあるが、思えば起動するのが太刀川と加古と来馬、面子が面子だしな――」
 冬島の発言を聞いているようで聞いていない、実験するしかない該当の三人は「冬島さーん、もう起動していいのー」「これ起動するだけでいいんですか?」「何に変わるか不明って、変身するみたいで楽しみね」と開き直っていた。乗り気な来馬は相当珍しいが、両隣の特殊工作を楽しむ太刀川と加古に呑まれたのだろう。
 客観的に三人を一瞥する二宮と堤だけが、冬島の台詞を聞いていた。最後まで、聞いてしまった。

「リード掴むヤツはふたりいた方が楽だろ」
 ひとりよりは負担が減る。

 そう含んだ言い回しに、二宮が眉間に皺を寄せて違和感を露にし、堤も騒ぐ三人に微妙な視線を向ける。
「ねえ、冬島さん」
「おう。変身してみろ」
 不愉快そうな二宮も、状況を整理途中の堤も、見慣れている太刀川は、気にせず急かす。どうせ試すのだから、時間が勿体ない。冬島も冬島で更に不安を煽るような発言――彼にとっては単純に、試作が上手くいっているか、期待と不安でわくわくして。開発者の発言とともに、二宮と堤の逃げ出したい衝動など目もくれない三人の「トリガー起動!」が重なった。
 見慣れた光彩を放ちながら、トリオン体に換装して、通常通り一瞬で起動完了。鏡など持っていないし、現状オペレーターもいないので映像を要求できない。換装した三人はどのような換装したのか、まず自身の腕を伸ばしたり、掌を広げたり、胸元から爪先まで視線を下ろし、身体の状況を見ていた。
 生身かつ夜勤で逃れた二宮と堤は、いち早く客観的に、どういう試作か、静観できていた。正直、嫌な心地しかしないが、観察途中の彼らの邪魔もしてはいけない。ただただ脳内で、想像から誤差を修正し、正確な情報に書き換えていた。
 時間にして数瞬、ひととおり観察が終わって顔を上げ、太刀川と加古と来馬の目が合う。
「小さいな」
「小さいわ」
「小さいね」
 少年兵と表現し、生身との差まで話題にしていた。全員服装だけでなく、身体も小さくなるのではと予測していたが、思うと視覚と実感は全て異なる訳で。感想としては些か単純過ぎる、けれど明解な一声に尽きた。やはりこれしか思いつかない同感からか、揃ったことにより、三人して可笑しそうに顔を崩す。
 服装は見慣れた隊服を身体に合わせて作り直したような、丁度良い大きさになっている。ぶかぶかだったり、着にくそうな様子はない。先程揶揄っていた太刀川に至っては、自身の隊服だったこと、可笑しい衣装を着ていないことに安堵していた。
「お〜…ちゃんと小さくなったな」
「冬島さん、これっ…!」
 冬島に質問をしようとした来馬の身体が前に崩れ、二宮は咄嗟に腕を伸ばす。さほど距離は離れていないから、二宮から幅広めに一歩前へ踏み込んで軽く手を出せば、向こうも掴んで支えるだろう。鈍くないし、伊達に戦闘員として戦っていない。今回に至っては、そこに膝を曲げて屈む動作が必要だった。
「ありがとう、二宮」
 見上げる来馬の顔は、一回り以上小さく、やや大きな瞳に、柔らかそうな肌。腕を掴む手も、踏ん張る足、全身が細い。
 支えながら他のふたりを見ると、太刀川と加古どちらもしっかり立っていた――からこそ、状況を把握しやすい。頭ひとつからふたつ分くらい縮んでいて、膝を軽く曲げた二宮より小さい。通常なら太刀川の方が大きいけれど、目分量では同じくらいの身長だった。
 換装していない二宮ですら、違和感、想定を越えている。脳が信じる気持ちを放棄しかけていた。
「気分はどうだ?」


(見た目は子供!頭脳は20歳! というはた迷惑な3人とお守り2人、20歳組なりのささやかな、けれど非日常の一部な話です)

===
※単行本未収録分、ジャンプ34号・151話までの要素も少し混ぜています
(名前のみ少し。性格部分は20歳組が勝手に想像するぐらいです)
(今回20歳組部分のサンプル少なめですが、前に発刊した本の雰囲気・描写と変わりありません)



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