Birds of a feather




※捏造な設定以外にオリジナルキャラ、風間Jrが出てきます




 晴れやかな空の下、庭にある木の長椅子にむさい男ふたり――本人達もそう思っているので失礼とかそんなのどうでも良い――木刀で素振りをする茂を見ながら、ぼんやりと千鶴が煎れてくれたお茶を飲む。
 現状に色々と不満あるが、どうすることも出来無い。
それを一番始めに諦め、言葉にしたのが茂だった。
『いつものことでしょう。父様も諦めてください』
 早く慣れたらどうですか。
 最近、息子が厳しいというか痛いこと付いてくる発想、千鶴そっくりで困る、と思う左之助だ。
千鶴に似てくれるのは嬉しいが、どうしてこうも複雑な気分になるのだろう。
 という訳で、ひとつは諦めることにした、というか息子の言葉で諦めることが出来た。
 そして、茂が毎日毎日繰り返し鍛錬をこなし努力している姿も父親的観点からすると最高に気分が良くなる。
今だってそれを傍観している、幸せな時間だと思う。
 それでも、それでも、まだ気に食わないことで諦めがつかないことが――

「不知火、お前いつまで居る気だ」

 左之助から一人分くらい空けた距離に腰掛ける不知火へ、じとっと嫌そうな視線ひとつ。
ずず、とお茶を飲む不知火の視線は茂に注がれっぱなしだけれど、左之助がどんな視線を向けているか察しているだろう。
「このお茶の葉、美味ぇだろ」
 あえて無視して別の話を出す辺り、分かっている証拠だ。
 遥々異国までやってくる不知火から今回餞別として寄越してきたひとつが、今飲んでいるお茶の葉、である。
こっちじゃ買えないだろうという発想は嬉しいが、左之助からすれば不知火自体お断りだ。
 もう関与しないと公言したのに、茂が生まれ――何処ぞ風の噂で聞きつけたのか定かでは無い――ころっと意思変え、不知火が一番遊びに来る。
 茂が喜ぶから良いかなーなんて思うも、父親的威厳が尊厳している気分になるから左之助はかなり複雑だった。
いつかそんな父の気持ちを知った茂が「馬鹿ですか」と呆れ否定したが、気にしてしまうものはしてしまう。
千鶴なんて微笑ましいなぁみたいな視線で傍観していて、解決の糸口が全く見えない。
 ぶっちゃけ左之助は、複雑に思わなくなる方法を考えること、すらもう諦めていた。
「おい、不知火」
 早く聞いたことに対し返答しろ、と催促して名を呼ぶ。

「俺が知るか。千姫に聞いてくれ」

 盛大な溜息、自分じゃどうすることも出来無いやけくそ染みたぼやきだった。
 千姫――千鶴の無二な親友にして、左之助からすると(ある意味)天敵である。
 今日だって千鶴を千姫に奪われた。
女同士の買い物、だとかで千鶴も嬉しそうに出掛けて行った。
 何故に異国で千姫までいるかというと、旦那である風間家頭領の千景と喧嘩をしたのが事の発端だ。
ちょうど原田家へ遊び(旅)に行こうとした不知火を見つけた千姫が、同じ場所に行くのだからと同行という名の都合よい護衛役を捕まえる。
当然不知火は「せめて実家の京都にしろ」と千景のことを考え――正確に言うと不機嫌の八つ当たりに巻き込まれるからという自己防衛――止めるも、千姫の怒りに勝てるはずも無く、ほぼ強制同行決定。
 という訳で、現在「しらばく実家もとい親友の家に帰らせていただきます」中の千姫とその護衛みたいになっちゃっている不知火が原田家にご在宅している。
 喧嘩してすぐ飛び出してきたらしいので、千姫は無計画なのかと思いきや、君菊が息子と娘の世話で慌てているうちに出てきたらしい。
突然なのにも関わらず、一瞬にして作り上げる素晴らしき逃亡手段。
 実際の所、忘れた頃に勃発する騒動で、これが初めてでは無い。
 いつも千景が異国まで迎えに来て仲直り。
それが定番の仲直りで、千鶴曰く迎えに来てもらうことに意味があるのだとか。
 同じ旦那として少しくらい千姫をどうにかしたいと思うも、左之助が手に負える程度ではなかった。
 そして、その異国まで出て行く騒動を微笑ましい程度で済ます千鶴と天霧が一番恐ろしい。



「なぁ、茂は何処まで強くなれると思う?」
 突拍子の無い内容だった。
男ふたりぼんやりと茂の稽古を見続け――茂からしたら何してんですか、という気分だが言うのも馬鹿馬鹿しいのとこの視線にも慣れているのであえて無視――会話はほとんどない状態で、だ。
「どういう意味だ?」
「いや、さっき銃の腕前を見せてもらったんだが、狙いの定まりにぶれが無くなってきてる」
 不知火が教えた銃の上達は著しい。
刀を差さない時代が来たから重点を変えたまでで、もし刀ばかり教えていたらどうなっていたらどうか分からないほど、茂は何でもこなす。
「お前がいなくとも、茂は毎日練習してるしな」
 左之助にとって銃は専門外、不知火がいない時は茂ひとりで練習していた。
物品全て風間と不知火の援助、そこからすでに左之助は除外されている。
「子供の成長は本当、目に見えて分かるが……あいつは稀に異常な部分がある」
 両手で支えてもかなりの衝撃が小さな身体にかかっている筈なのに、茂はそれを器用にこなし始めていた。
無理をしているとか、鬼の力だけではない、こなし方だ。
 不知火の意見に賛同出来る。
 左之助も稀にだが茂と同じ年の頃、こんな腕持ってたかなぁと思う節々があった。
親馬鹿なだけかと思ったが、不知火までも思っていたとは。
 一番良い第三者視点は知り合いの中で天霧だろうから、今度逢ったら聞いてみようか。
「前に思ってた木刀の悪い癖もなくなってる」
 茂はどれが極めてというよりは、木刀も武術も銃もこなす。
 教わる先生――ぶっちゃけ個々で勝手に教えすぎた所為でひとつに絞らせなかった――の半端ない実力と、元々ある鬼の力と、両親の遺伝子と、本人の意思が上手く重なっている所為もあるが、茂の取得できるかという器も大事だ。
「バケる意味も含め、将来が楽しみでしょうがねぇってことなんだけどよ」
 にやにやと笑う不知火に、左之助は湯飲みごと投げつけてやろうかという気分になる。
父親はお前じゃない、という意味不明な意地で。
「そういや、原田は槍…教えなかったな」
「………それがどうした」
 嫌なところを付いてくる。
それを不知火は分かって言っているのだろうけれど。
「俺はそういう意志は悪くねぇと思うぜ」
 茂は始め、槍を習うのだと思っていたらしい。
 確かに左之助は槍が一番長けている。
だけれど自分より、周りが追いかけた刀に触れて欲しかった。
手放しても、選ばなかったとしても、仲間が持っていた物を持って欲しかった。
 自分より仲間の持つ武器を選んだ、それだけのこと。
「それに茂の槍姿ってどーも思いつかねーし。あいつは銃構える姿が一番だろ」
「おい、そこで――」
 ふと、向かってくる気配を察した。
 左之助が言葉を切らし、不知火の笑みも消え、向こうの出方を探る……が、ぴくりと眉が動いた程度、この危機がどういうものか解釈出来たふたりは、動かなかった。
素振りを続ける茂を試して、もある。


「茂――っ!!」

 少し甲高い、人を呼ぶにしては殺意がこもった――声。
 やっと気づいた茂が、ハッと無心から我に返り、危険を木刀で遮る。
「っ!」
 ガン、と強い音が響いた。
無茶な体勢からの動きだったが、ちゃんと防げている。
 地面に足を滑らせ摩擦を利用し、勢いで後ろに飛ぶ身体を止めた。
「…千佳?」
 目をぱちぱちと開閉させ、茂はいきなり攻撃してきた人物に驚く。
 千佳――茂と同じ年で、少しつり目ながら幼い表情は残っている。
天霧曰く「昔の風間を思い出す」顔らしい。
事実、千景と千姫の息子である。
「ばぁーか!おっさんふたりいるからって無防備すぎなんだよ!!」
 もっと気配から敏感になれ、という優しい言葉も分かりにく過ぎる。
なんせ千景の息子、当然の流れ(遺伝子)かな…と大人組みは皆呆れ諦めたし、茂も慣れで勘違いすることなく理解していた。
 久しぶりの挨拶も適当、人の話も聞く気無しの千佳に、茂は軽い溜息ひとつだけ。
 今は攻め続ける千佳の真剣に、木刀で角度をつけ流しているが、このままだと切り落とされる。
千佳の腕ならばやりかねない。
 そっちに集中するべきだ、と他は後回し、気持ちを切り替える。
「――茂」
 呼びかけられたその声に、茂は無理やり千佳を蹴り飛ばす。
距離を取っている間に、声のする方へ視線を向けた。
 ほい、と不知火から投げ出された刀――茂が千佳の父親である千景から貰った物で、ちょうど不知火の所に置いていた――を一瞬だけ視界に入れ、木刀から刀に持ち返る。
 千佳の反射能力からして礼を言う余裕も、目を合わせる時間も、無かった。
「いてぇんだよ!」
「蹴られないと思ってる千佳が悪い…!」
 鞘を放り捨て、茂は真剣で千佳の攻撃を凌ぐ。
 いつのまにか殺生沙汰になりそうな争いとなっているが、左之助と不知火は止めない。
強くさせるなら崖から突き落とす勢い、な所がこのふたりの危ない所である。
「おっさんって言ったな、あのくそ餓鬼」
「実際おっさんだろ」
「お前もだ」
 いきなりな第三者の声に、驚かない。
千姫が今、原田家にいて、千佳が来たのであれば、もうひとり必ず、来る、と分かっていたからだ。
 面倒くさそうに千佳から随分遅れて歩いてくる千景が左之助と不知火の会話を一刀両断した。
 人の庭に勝手侵入、詫びも無し、謝る気なんて微塵も無い。
 旦那の登場、嫁を迎えに来た――千佳はそれに便乗しくっついて来た――図。
左之助と不知火からしたら……なんというか、情けないし、不憫だ。
「千姫は千鶴とでかけてる」
「そうか」
 久しぶりとか優しい言葉をかけるつもりもなかった。
左之助は来客ながらお茶を出すという考えに行き着かなかったし、千景の態度も来客とは思えない。
根本的にこの3人となるとかなり薄情な態度になるが、これが普通だった。

「……ふむ」
 ちらり、と千景が茂を一瞥する。
どれくらいになったか見定めているのだと左之助は気づいていた。
 なんだかんだ、千景も茂に真剣の技術を叩き込んでいる。
存外世話やきなのかと勘違いしそうになるほど、千景の性格からすれば珍しいことだ。
不知火同様、子供には意思が変わるということなのだろうか。
「千佳もあやういな」
 親馬鹿贔屓ではない、客観的な視点で千景は分析出来ていた。
 何処の家でも堂々と腕を組み、尋常じゃない狂気な雰囲気を漂わせる。
左之助はもう少し慎んで生きられないのか…と思うが、言うのも馬鹿らしいので指摘したことは無い。
「……ほぉ。お前ですらそう思う訳?」
 それに感心した不知火が千景の言葉に乗る。
 左之助もちゃんとふたりの技量を定められてはいるが、第三者的視線は不知火に及ばない。
「特攻や仕留め、精神や直感、総合的には千佳の方が優れているが、技術面では茂が勝る」
 千佳は幼いながら風間家次期頭領と今から称賛されるだけの才能開花をみせていた。
左之助が初めて「遺伝の力ってやっぱあんだな」と思わされたほどだ。
 教わった先生は茂と千佳、どちらも全員一緒。
そうなるとふたりの身体、内面、性格、持っている感覚次第で――今も刀の攻防が続き、決着はついていない。
「どっちがどれだけバケるか、が見物だろう……なんだ?」
 左之助と不知火の珍妙そうな視線に気づき、千景が睨んだ。
「いや、お前でも未来に馳せるとは…」
「しかも子供のことで」
 千景の言葉に反感は無い。
息子の将来に勿論楽しみはあるけれど、別の観点からしても見物するだけの価値はある。
 だ、が。
大半のことに興味ない、一族の頭領。
違和感が拭い去れない。
「……それだけ見込む価値はある。元々娯楽は少ないのだから構わんだろ」
 やっぱり大半のことに興味が湧かない頭領、娯楽が少ないなんて言えるほど世間はつまらなくなっていない。



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