【 The end crowns all. 】のサンプルになります






[ 冒頭 ]


 夏休みの終わり、谷地仁花に彼氏が出来た。相手は大事な部活の、大切な仲間で、同学年の月島蛍。
 告白は月島からだ。予想外過ぎる、青天の霹靂と表現してもおかしくない。
 恋愛に興味や未知な感情を持ち合わせていても、身の丈に合わない、器量不足と踏んだ自己評価。部活に充実していたので、恋愛から遠ざかっていた。加えて、あの月島が自身に向いている発想なんてなかった。
 けれども、だ。全く意識していなかった訳でもない。日向のような強い眩さも、影山のような真っ直ぐな強さも、山口のような暖かく柔らかい優しさとも異なる、静かで落ち着いた――その裏には熱い感情を持つ月島に、惹かれていた。
 あと、部活を共有し、距離が縮まって仲良くなかったからだろう。月島の外側は冷静を保ち、日向のような眩い笑顔は見せないけれど、優しい笑みを零して。冗談や嫌味も含めて、幾つもの表情を見せてくれるようになった。
 打ち解けた証拠に、くすぐったい。そして、特別だと誤解しそうになる。勘違いしないように、勝手に傷つかないように、心が揺さぶられないように、注意した。
 自惚れたい程に月島の特別になりたいのか、未知なる感情の好奇心だけか。曖昧だったからこそ、心の奥底に落とし、隠した。

 好きかもしれない――その曖昧な好意で、大切な仲間との関係を崩せない。

 そう思っていたけれど。月島らしくない真っ直ぐな熱を持って、否、知らない一面を表に出して、想いを伝えてくるから。この先、訪れるかもしれない大切な人を手放す恐さより、大切にしてくれる人と起こりうる幸せを選んだ。
 これ以上、自身を想ってくれる人がいるか、告白してくれる人がいるか、分からなくて。弱さに、好奇心に、曖昧な感情のまま、新しい関係になった。
 伝えた側の月島も谷地の性格を読み取り、幾つか約束してから始まったお付き合いは、まだ一ヶ月経っていない。一般的な付き合い始めがどういう雰囲気か、谷地には不明だけれど、さほどの進展なく。部活中心の――今までと同じが多いからこそ、「夢なのでは?」と思ったこともある。
 けれど、月島の見下げる瞳の色に、容易く自惚れてしまう。友達に向けるものではないと、正しく感じていたし、受け止められた。夢ではないと、現実だと、再確認した。月島は彼氏で、恋人同士とも、自覚出来た。
 急激な、展開を求めていない。谷地の心には追いつかないから。
 互いの距離、感覚、好みを知って、恋人らしくなれたら良い。月島は性急に追いつめないし、待ってくれる。
 幸福を感じた。恐れることはなく、焦る必要もない。
 短く深呼吸。不安と高揚の複雑な感情に振り回されている場合ではなかった。放課後の部活、二学年で先輩になったとはいえ、遅れるなど驕りだ。今から成すべきことを脳裏に浮かべ、気を引き締めた。
 勇気をつけるよう、しっかり一歩前に踏み出す。その流れで前に、前に、進んで、加速する。
 恋人として何をするべきか、どうあるべきか。今はまだ分からず、考えなければならないことも多いけれど。置き去り、目の前のことを掴みにいく。
 月島と付き合うことになった際、幾つかの約束事をした。そのひとつに、前と変わらず部活を優先にすること。
 月島との約束を守る。同時に、谷地はそれに、あまえた。



 行き交う生徒たちの隙間を通って体育館へ向かうと、前方に見慣れた人物を見つける。ほんの少し前、心に重たい不安、気恥ずかしくなる高揚、なんとも微妙な感覚を得ていたからか、安堵の一息が洩れた。部活前に出逢えて嬉しくもあり、更に笑顔を綻ばせ、口を開く。
「日向! 影山君!」
 名を呼ばれて振り返ったのは影山だけ。
 日向はといえば、こてりと首を横に傾げていた。背後からでも不思議、疑問そうな空気が読める。
 無視をする性格ではないと分かっていた。なので、他に意識を向けていると思い、谷地も気にせず。ふたりのところまで駆け足で追いつき、日向の謎解きに入る。
 到着して日向の様子を覗き見ると――携帯電話を握りしめ、画面と睨み合い。画面に答えがありそうだけれど、内容までは不明。影山に問い掛ける手段へ切り替える。
「影山君。日向、どうしたの?」
「さあ。なんだったか…あ、音駒の孤爪からメールだ」
 東京遠征での合同練習にて、日向と孤爪の仲が良く、メールをすると聞いていた。なんらおかしくない流れ。しかも日向の足は体育館に向かっている為、深刻かつ早急でもなさそうだ。
「ねえ、谷地さん」
「え!? は、はひ!」
 やや鋭い呼び方と強い気配から、谷地は微かに背筋を震わせる――も、いつもの目線、飲み込まれた空気を霧散させた。
「なに、日向?」
 内心落ち着かせるように、そして怯えてしまった反省の気持ちも相まって、優しさを意識して返す。
「研磨からのメールなんだけど。これ、どう思う?」
 研磨という名を記憶にある孤爪と結びつけてから、差し出された携帯電話の画面を凝視。メールの件名に【 クロより 】、本文は【 月島といえば、もんじゃ焼き 】と書かれていた。
「……クロ?」
「黒尾さんのことだと思う」
「あ、音駒の、」
 孤爪と同校で、谷地たちとは二学年上。どちらもあまり話したことはないが、他校のマネージャー相手に優しく対応してくれた印象を持つ。
 余談だが、片方はあまり視線を合わせず、加えて意図的に外されるので戸惑うも、日向から「苦手みたいで、性格だから。気にしなくて良いと思うよ」の一声で納得。どう接すれば良いか、距離感を掴み、問題は解消される。
 もう片方は、谷地の憧れである清水にちょっかいを出すので、澤村たちが制裁を入れていた。谷地参加し、清水の壁になろうと努力、守ったつもりだ。
 更に付け足すと、谷地限定で過保護の清水は、懸命な谷地に心配して黒尾を睨んだり、澤村たちから重ねて制裁加えたり。巡りに巡っていたとまで、谷地は知らない。
「黒尾さんて、自主練でお世話になった人、だよね」
 日向はともかく、素直から程遠い月島ですら「お世話になった」と表現する相手だ。谷地にとって、彼らから聞いた事柄を優先に記憶していた。
「そうそう、その音駒の黒尾さん」
 孤爪から黒尾の伝言をメールに記載した、と推測する。けれど、短文から推論の幅は少なく、もんじゃ焼きと月島の関連が結びつかない。
「月島、もんじゃが好きってこと?」
「好きかもしれないけど…それを他の人の携帯使って、日向に伝えるものかなあ…?」
「黒尾さんが、どうしても伝えたかった……えー…ないね」
「もんじゃ焼きをかよ」
 返した日向ですら「そんな馬鹿な」と呆れ顔だ、迷想している。しかも黙っていた影山の冷静な指摘に、反論しようがない。
「研磨とは試合の結果とかのメールはするけど…伝言は初めてなんだ。そういう意味では何かあるかなって思うけど、内容が内容だし、このメールについて聞いても返事こなそう…」
「……うん、そうだね…」
 谷地ですら、孤爪が丁寧かつ律儀かつまめな人と思っていない。失礼極まりないが、近しい日向の発言に頷いてしまう。
「孤爪さんが伝言を送ったんじゃなくて、黒尾さんが孤爪さんの携帯借りて、黒尾さん自ら送ったのかも?」
「あーうん、そっちの方が、研磨っぽい!」
 日向のメールアドレスを知らない黒尾が、孤爪の携帯電話を借りて、メールを送った――の方が自然な流れ。孤爪は嫌がり拒みそうだが、慣れた黒尾なら余裕で承諾を得そうだ。孤爪は巻き込まれて使われた、と思うべきだろう。
「うーん、メールそのものはなんとなく解決で、あとは内容かー。そうだなー…鍋奉行みたいに、もんじゃ焼きとかお好み焼き奉行とか! 月島の意外な一面、を教えたとか」
「お好み焼きに奉行てあるのか?」
「しらねえ!」
「勝手に作んなボケエ!」
 だんだん雑になってきた思考で案を出す日向と、雑に付き合うのも面倒な影山の不毛な投げやりが続く。
 焼き方に拘り、的確な指示があるのか。しかもそれを何故にメールするのか。そもそも黒尾が知っていること自体、驚きかつ不思議な展開だ。

 結局のところ、それがなんだ、である。
 黒尾の意図は読めない。




(黒尾、遠くから烏野でいじる・月島もんじゃ編。もちろん、大層な事件簿ではございません)

(中略)

(次は、隠れてお付き合いの設定が被っているを加筆修正して混ぜています)



[ 文化祭準備期間、抜粋 ]


「……つーか、谷地さん」
 ボールに触れたまま、もそりと起き上がった影山が声を掛けた。日向と谷地の後ろで寝転がる男から、何か振ると思っていなかったので、全員露骨に驚愕の態度を取ってしまう。
「谷地さんが作ってた服は完成したのか?」
 影山の問いは、谷地のクラス催しである喫茶店の給仕衣装のこと。だいたい出来合いの衣装で補えるが、詰めなどの調整は必須で。谷地はその担当になっていた。
 夏休み明けた辺りから部活動の合間も縫っていて、眠たそうにする姿を何度も見ていた。しかも、谷地が望んで参加するから、いつも通り放課後の自主練習に付き合ってもらうも、影山なりに不安あり、完成したか気になっていたようだ。
「全部縫って完成したよ。村人Bも頑張れます…!」
 得意顔での返答だが、やや疲れた顔色を隠せていない。あえて気づかない振りのまま、各々谷地に賞賛の声を上げる。日向と山口は、拍手まで付け足していた。
「当日給仕するから、良かったら来て。精一杯おもてなしするよ」
「ウッス。必ず」
 自主練習で協力してもらう率の高い影山が、強く頷いた。もうひとり、日向は妹との習慣か、指切りで約束している。谷地も小指を絡めての指切りに抵抗なく、むしろ懐かしそうに「約束!」と声に出していた。
 そんな三人をよそに、月島は飲み物の入ったペットボトルを口に含み、喉を潤すだけ。放置するべき場面であり、彼の性格ならよくある流れ。その隣の山口は、三人をぼんやり傍観しながら「谷地さん、給仕姿も可愛いだろうなあ…」とか思い、掌で口元を隠した。年頃の青少年ならごく普通の発想だけれど、あえて本人の前で言う必要もない。
「どうしたの?」
 山口の珍妙な態度に、目敏い谷地が不思議そうな表情で問い掛ける。月島だけ山口を一瞥、短い溜め息を吐いた。
「谷地さん、衣装はないの?」
「ツ、ツッキー!」
「衣装? 教室にあるけど…?」
 隣から思いが零れると思っていなかった山口が制御を試みる――も、月島独走。同意しているからこそ、あえて無視だ。

「山口が、給仕の衣装、見てみたいって」
「うわああああツッキー!!」

 声を荒げたけれど、上手く被らない。しっかり谷地の耳に届いた内容を、回収することも出来ず。山口は内心「終わった…引かれた…」と絶望した。
「そういえば、衣装見せてなかったね。今か…はっ!」
 山口の懸念など、谷地には浮かばず。過小評価の傾向だ、己を非難し始めた。
「気を遣って完成した衣装見ようとしてくれたのに、その気持ち読み取れず、無下にしたよね。学習せずまた繰り返して、使えないと捨てられる可能性、いや――」
 衣装完成を自慢するのはおこがましいと思っていたけれど、見せない方が偉そうに捉えられるのか。寝不足で周囲に心配を掛けるし、マネージャーとして不甲斐ないし、役目すら果たせていない。代表決定戦に向け練習する中、何たる驕り。死んで詫びても遅い、いや、苦しまない選択こそいけない。馬車馬の如く働いてから死ぬべきか。その時ひとりで切腹は難しいし、誰か頼むのも迷惑。それなら海に飛び込み――…
「今日は何処まで行くんだろ…」
「死ぬところじゃないの?」
「ミツユは?」
「死なせねえ」
 畳に頭をこする土下座で、何かぶつぶつ零す谷地の姿も慣れてきた。山口が行き着く先は何処か疑問にするので、月島から一番よくあるオチを、続いて日向から二番目に高確率のオチを、そして影山から考え放棄で『とりあえず大事な部分』を声にする。

「何が一番良いんだろう!?」

 酷い待ち方をされていると気づかない谷地は、勢いよく顔上げ、深刻な表情で問い掛けた。迷惑にならない死に方――なのだが、この一文では話が見えない。
「なにが、」
「あれ、わかんなかった…」
「死んでないな」
 即、意味不明と発する月島、答えが読めないと日向、安心する影山、三者三様。山口が困り顔で落ち着かせたのち、谷地に向けて笑う。
「みんなどんなのか見てみたいと思ってるから」
 月島の口から「山口が」と固定されていた。男四人同感なのにひとり犠牲とは、許容しがたい。内容が内容なので、山口はさらりと全員売る。
「あ、うん。シャッス!」
 山口の上手く纏めたようで、全く隠せていないだだ漏れの欲も、谷地には気にならない。仲間意識が強過ぎるのだろう、結びつけないだけだ。男の性癖付き欲を素通り、意気込んで頷いた。
 それとほぼ同時で、昼休み終了の予鈴が鳴る。時間を忘れていたので、各々壁掛け時計や携帯電話を見てから腰を上げた。
「戻ろう。準備しないと」
 文化祭開催中ならまだしも、準備の間は予鈴を切らない。生徒の大半が律儀にこの時間昼食を取るようにしていて、帰ってくる目安にもなっていた。
「閉めるので、忘れ物ないか確認お願いシャス!」
 必要がない限り部室を閉めるよう注意――日頃からだが、文化祭時の防犯を兼ね、改めて通達していた――されている。
 影山と谷地ふたりだけの時点で、三年主将である縁下から部室の鍵を借りた為、急いで返さなければならない。部室を出るよう促した。
 ぞろぞろと出て行く後ろ姿を確認したのち、谷地は再度部室を見渡しながら、電気を消す。綺麗とはいえないが、昨年度卒業した清水の「汚い…」の一声で、なんとか微妙な整理整頓を維持している。
「お弁当、財布、携帯電話、なし。うん、大丈夫かな」
 扉の向こう、外から「間に合うかなー」「なんとか完成するよ」「バレーしてえ…」聞き慣れた声が耳に届く。急ごうと踵を返した瞬間、目の前は真っ暗、加えて身体に衝撃を受ける。

「いたっ……あれ、月島君。わ、すれもの…?」
「そう、忘れ物」

 電気を消した室内に窓から陽が落ちていても薄暗く、表情まで見えない。目を凝らしていると、月島が身体を屈ませ、更に谷地へ濃い影を落とす。
「谷地さん、」
 名を呼ばれたと同時に、月島から頬にかかる髪をわけ、耳を摘まれる。
「な、なんでふか…」
 不意をつかれたのもあって、噛んだ。
 触れられることを、許し、許され、望み、欲する恋人同士だけれど。隔てる扉の向こうには、大切な仲間がいて。隠しているからこそ、内心ひやひやする。
 谷地の心情を汲み取る月島が可笑しそうに口元を緩め、摘んだままの耳を撫でた。こちらに集中させるよう、意図を持って優しく触れる。
「あの、ね、月島君!」
「なに?」
 頬を赤く染めながら硬直する姿は初で可愛い。月島自身も余裕などないけれど、相手の動転から冷静になり、落ち着けた。
「そろそろ、」
 三つのお願いを受けた帰り道の日以降、月島から触れることが増えた。少しずつ想いを含ませて、緩やかに、長く。




(月島はおいしいところ持っていく系男子…)

(中略)



[ 文化祭当日編、冒頭 ]


 文化祭実行委員会と生徒会共同による開催の挨拶は高校のわりに盛大で。華やかに文化祭の幕が開けた。
 準備中は必死かつ面倒かつ苦労したけれど。二年目の文化祭、心に余裕を持って楽しめるし、時間の配分も上手くいくもの。
 月島は自由時間、谷地の給仕姿を見に行くつもりでいた。実際のところ、山口を揶揄える身ではなく。こっそりでも良いし、堂々と茶化しても良い、そう目論んでいた。
 だが、世の中そう上手くいかないもので。五人揃ってクラス当番の時間が被った。しかも初日に至っては、自由時間帯も一緒。月島がお化け屋敷でおどかす時間、谷地も給仕をする。要するに見れない。こっそりも堂々も、予定が崩れた。ちなみに明日の二日目、急げばなんとか程度、ゆっくり見れそうにない。
 付け足すと、衣服そのものにさほど拘りはなかった。勿論、下心もあるけれど、周囲が見ていて、自身だけ見ていないことが許せない。もうしょうもない、意地だった。
 閑話休題。
 せっかくだから、一緒に見て回ろう。揃うと分かれば、そんな話になるのも自然な流れ。月島としては谷地とふたりで回りたいが、内緒の恋人同士だ。違和感、異質、何処からどう勘繰られるか分からないので、この提案に乗った。


 月島の周囲、少し遠くも人だらけ。一般も制限なく入れるので、殊更にぎわっている。人気の少ない場所で待ち合わせしたいが、部室棟などは立ち入り禁止区画、合流に選べない。文化祭の区画内から選出した結果、正門と催し中心の校舎から離れた、中庭に繋がる階段付近で約束をした。
「あれ、日向と山口君は?」
 少し早めに着いた月島は、更に前から待っていた谷地と合流する。他の三人まだ来ておらず、ささやかながら運が良い。
「山口と日向ならクラスで捕まってたよ」
 出会い頭初っ端、他のことを聞かれるなんて面白くない。けれど同じ催し、一緒に来ると思うのは自然な予測だ。
「月島君は良いの?」
 良くはない。どうせ面倒事か頼まれ事と勘が冴えたので、月島の裏切り、ふたりを犠牲にして立ち去った。
 どういう用件だったか、どうなったか、何も聞いていないし知らないけれど、どうせ合流次第、判明する。
「大丈夫デショ」
 引き下がって良いものか悩む返答に、谷地はあぐねいた。内心「良いのかなあ」と躊躇いつつ見上げてみれば、月島の目線は別の方向――すぐ角、下り階段を見ていて。谷地も月島より奥、階段を覗き見しようと身を乗り出す。
「谷地さん。縁下さんたちのところ以外で何処行きたい?」
 けれども、目線を倣う前に月島が谷地の方へ見下ろし、話題を振った。
 縁下と、同じ組の田中の催しは、『腕相撲』または子供向けの『じゃんけん』で勝ったら駄菓子贈呈――男子生徒が多い所為か、思った以上に雑な企画、ほぼ休憩所だった。ちなみに西谷と成田の組は焼き鳥、木下の組は正門アーチ装飾。内容は何であれ、先輩のところなら顔を出すけれど。
「うーん。かき氷かな!」
 振られた谷地は、追及出来ず、断念するしかなく。身を戻してから、脳内で文化祭のパンフレットを開いた。
「え、今日涼しいけど…」
 暑いか涼しいか、それとも寒いか、予測しにくい頃合いの学校行事だ。飲食の内容も幅広い。余談だが、毎年一番人気の飲食は、毎日主婦のお母様方率いるPTAが催す食堂である。
「食べ納め。しかも、喉を潤せて一石二鳥!」
「合理的過ぎデショ」
「かき氷、美味しいよ」
「高校生の催しでも、味に外れようがないしね」
「そ、そうだけど…じゃあ、月島君は?」
「特には。他が勝手に決めそうだから、考えてなかった」
 聞いておきながら些か失礼な発言だ。けれど、日向と山口と谷地が揃えば、行く場所から順序までしっかり決まる。安心安定、纏める力があるので、任せた月島は考えを放棄していた。
「そういえば月島君。お化け屋敷でどうやっておどかす役?」
「へえ、先に知ってから入るんだ」
「そう、言われると…いや、でも、知らずに入ったら月島君探せないし、知って入って探す方が良いかなって。どんな衣装?」
 お化け屋敷とは、迷子探しだったろうか。むしろ気づかれない方が、おどかす側として成功している。
 けれど、あえて引っ張る必要性も感じられず、月島は答えた。
「僕は衣装とかないから」
「どうやっておどかすの? 静かに追い掛けてくる、とか…?」
 背後から何もせずひたひたと追われるのも、精神的に恐ろしい。着替えないとは、制服のまま表に出るのか、他に意味合いがあるのか。谷地の想像に限界があり、首を傾げた。



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