glasses
赤リコ/未来捏造/恋人設定






「……その、赤司君?」
「なんでしょう、リコさん」
「あなたって、目が悪かったかしら」
「いいえ?目は頗る良いですよ」
 とてつもなく、無駄の多い返答だと、赤司は自覚していた。それでも声になったのは現状を試しているから。リコが、まだ、気づいていないからこそ、愉しい。
 そう、愉しいという感情が湧く。与えてくれる、教えてくれる彼女がなによりも、今の赤司には愛おしい。
「なら、どうして眼鏡なんて…伊達でしょ?それ」
「ええ、そうです。レンズははまってますよ」
 太めのふちが視界を邪魔する。不快そうに零し、伊達であろうと掛けそうにない男が、眼鏡なんて。
 リコの思考が容易く読み取れる。
「涼太がくれたんです」
 変装として、お洒落として、日頃から伊達眼鏡を掛ける黄瀬からの、贈り物。不思議はない。
 だが、リコはしばらく――瞬きを二度程するほど、逡巡したのち、怪訝そうな表情に移した。
「それだけで、あなたが、掛ける?」
 何か、裏がある。
 感づき始めているが、確信にはまだまだ遠い。赤司はそこを否定することはなかった。
「似合いませんか?涼太一押しなんですよ」
 肯定もしないが。
 微かに眉間にシワを寄せ、「話逸らされた」という思いを滲ませるも、追求なし。リコなりに臨機応変な作戦で裏を取ろうとしている。
「似合う、わ」
 素直に認めるのが、嫌なのだろう。何処か苦そうな、悔しそうな声色だった。
「どうしてかしら、眼鏡に慣れてるはずなんだけど…」
 己を叱咤するリコの小声を、赤司は聞き逃さなかった。
 今の言葉にはふたつ意味がある。
 ひとつは、不覚にも、感情を揺さぶられたこと。
 もうひとつは、ある特定の男が脳裏に浮かんでいること。
 リコは自他認める賢い頭脳を持つ。だからこそ、普段ならば特定の人物のみの統計で答えを導いたりしない。
 それを覆すのが、彼女を取り巻く仲間だ。特に同期とは高校時代、家族より傍にいた。誰よりも彼らを守っていたし、誰よりも彼らがリコを守っていた。それ故、彼らに関することになると、リコの脳は直結してしまう。
 眼鏡なら、リコの隣、黒髪で眼鏡の日向。背丈の高さなら、リコを挟むように日向の反対を陣取る木吉。イケメンなら、(顔が異常に良いと評判のキセキの世代を全く浮かべず)残念をつけて、伊月。小金井、水戸部、土田に至っては精神面で先に上げた3名よりも上がる。
 彼らの印象が強いのだろう。実に下らない項目であろうと、彼らに結びつける思いがリコにはある。
 そして今は、日向。
 褒められているのに、面白くない。リコの瞳に映るのは自身なのに、思いが半分しか向いていないなど。意図に、予測に、沿っていないことも、不快だ。
「……えっと、赤司君。似合ってることが嫌だった?」
 露骨な表情を出さなかったが、まとう空気は隠さなかった。リコはそれに気づくも、何に怒っているのか不明のあまり、状況がおかしくなっていることで「あれ!?」と驚いている。
「いいえ、あなたに褒められるのなら、掛けた甲斐がある」
 だが、答えを素直に白状するのも、赤司の矜持にかかわる。リコが見当違いな問いをしていることを逆手に、隠す。
 すると追求は危険と察したようで、リコも「それなら良いけど」と食い下がった。その流れで話題を逸らすべく、大げさに赤司の左右身体を傾け、眼鏡と赤司を観察し始める。
「…………あ、」
 それも長く続かず、明るい声と共に、リコから一歩つめた。
「その眼鏡のフレーム、上下で色が違うのね」
 リムの上が赤に近い黒色。下が橙寄りの茶色。智の辺りで区切られており、テンプルもその2色でリムとは上下反対の配置となっている。
「ええ、涼太がこの色が良いと」

『赤司っちにこそ、この色っス!』
『茶色がか?』
『真っ赤だと赤司っちには露骨なんで、ここで茶色、リコさんの髪色っス。多分伝わらな…いや、伝わらない方が良いスね。自己満ですけど、俺らには分かるっスよ』

 黄瀬の推奨は半分くらい納得いかないが、嫌でもない。居ない時でも彼女の色を視界に入れておくなんて、イカレていると思うし、逢いたいと思うし、壊したいとも思うけれど。
「悪くないと思って」
「どうしてそう高圧的なの…まあ、確かにノンフレームとは違うわね。黄瀬君のセンスすごいわ」
 黄瀬を褒めているのか、日向を貶しているのか。どちらでもないと、赤司は知っている。どうせ、そう、どうせ、「日向君も黒ぶちとか掛けてみたら良いのに」くらいだろう。的確に読めるからこそ、やはり腹立たしい。
「だから掛けている、と…ふうん。赤司君て、身内というかキセキに甘いわよねえ」
 ふむふむ、と思案中のリコは赤司の靄など気づかず――というより気にせず。やっと顔を上げたと思ったら、よく分からない彼女なりの称讃をしてきた。
「あなたにだけは言われたくありませんね」
 そして赤司にとって全く、称讃にならない。
 誠凛、誠凛の後輩に、何より同期に、あまいリコがなにをいうか。赤司が返すと、リコは目を丸くし、可笑しそうに「そうね」と肯定。
 先程から上手く、手中に落ちない。悔しいという概念そのものすら、釈然としない。今度ワザとらしく伊達眼鏡を買い与えてみよう。いや、一緒に買いに行こうか。赤司の髪色を思わせる、真っ赤な色のフレームを、リコに掛けて。ひとつの枷にしよう。
「………なに、考えてるの」
「いえ、なにも」
 怪訝そうな視線を、赤司はいつもの緩やかな笑みで濁した。





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