He's up to something Tell me why



※孟花設定の魏・会社な現パロです



 一月七日、正月の空気も抜けた月曜。
会社によっては遅めの仕事始まり。
 孟徳もそのひとりだが、三箇日も明けた四日の金曜に始まった同社別部署もある。
要するに、孟徳の場合、取締役という肩書きを武器に偉い人権限を使った結果だ。
 そんな年初めの男の元へ、お目付役を兼ねた――面倒ごとを押し付けられた――元譲が書類を持って来てみれば。
やけにご機嫌の孟徳が椅子にちゃんと座っていた。
 孟徳はいつの年末年始も、長い休暇を取って海外へ旅行する。
相変わらず女癖が悪く、毎年毎年別の女を連れてだが。
それ故、時差ぼけだなんだ言い訳を吐いて、ぐだぐだ仕事しない。
 これが孟徳の仕事始まりだったのに。
 元譲は一般論なら当然のことに、戦慄を覚えた。

「なんだ、お前か」
 孟徳のがっかりした声色で我に返る。
元譲は呆れた面のまま、書類の入ったファイルを渡した。
「お前が年始に至急作らせた資料だ」
「もう出来たか」
 私生活は金銭の使い方や女絡みで酷い有様、会社でも暴君かつ恐怖政治のようだが、仕事は出来る。
しかも利益と結果も出す。
 出来過ぎるあまり、孟徳と対等の男はいない。
一番近しい元譲ですら部下という地位にいる。
彼の場合、一歩後ろが良いと思っているからなのだが。
 しかも元譲は孟徳と異なり、部下に好かれている為、孟徳の窓口になっている。
これが現実だ。
残念な限りだが。
いや、本当に。
 元譲は本気でそう思っている。
例え、どんなことがあっても、孟徳の一歩後ろからを離れないと決めていても。
窓口てなんだ…に尽きる。
「文若を振り回すな、孟徳」
 正月開けの四日、文若を急に出勤させ、「資料出せ」と命じたのは孟徳だ。
 使えると思ったら、実力を最大まで引き上げ、見出させる。
それを褒め、伸ばし、更に腕を上げさせ――良き循環を止めさせない。
 孟徳は采配も長けている。
長けすぎているあまり、部下は恐怖に怯えても、ついてくる者が多い。
文若は歯向かう面もあるので、そこと一致していないが、孟徳についていく意志を持っていた。
「なら夕方…十七時から会議だったな。この議題もあげるぞ。伝令」
 手元に置いてある電話の受話器を取って、隣室の秘書へ連絡する。
そんな孟徳を一瞥し、終わり次第退出しようと思っていた元譲の耳に――

「それより、元譲」

 嫌な言葉が届いた。
 孟徳の『それより』は彼の才力である仕事面よりも優先すべき、言いたいこと。
 仕事が好きな訳ではない。
だが、孟徳にとって重要なことも少ない。
何もかも悟り、諦め、去る者追わずの精神の頃よりはマシか。
 でも、その良いことを与えた原因を知っていると、微妙な気分になる。
元譲は原因が嫌なのではない。
ただこの始まりから転がる先はいつも一緒で、うんざりなだけだ。
 つい露骨に眉を潜めてしまう。
しかも孟徳がそれを読んでいたのか、愉快そうな表情を見せた。
更に皺が寄る。
「花ちゃんの宿題をみたんだが、俺はまだ数学が出来た。久しぶりでも出来るもんだな」
 孟徳は口元を軽く押さえながらも、ゆるりと笑い、勝手に話題を切り出した。
 うんざりなのは、そう、女の惚気話だからだ。
 容姿端麗、金を持っていれば、人はよってくる。
身内贔屓を駆使しても「女性関連は最低最悪酷すぎる」の孟徳が昨年、高校生に恋をした。
しかも大人の酷い作戦で彼女を落とした訳だが。
 孟徳の視線は最低限の物しか置かれていない机の上、ひとつ異質な写真立てに向けられている。
正確には、孟徳の女である花――彼女の文化祭に何も伝えず行き、孟徳を見て驚いた表情時のだ――が映っている写真に。
余談だが、花の反応を予測し、携帯電話の写真機能を起動させていた悪趣味具合も最低な一枚でもある。
 付き合っている女や、惚れた女の写真を立てかける性格ではない。
そんな男がこの有様。
 しかも重要なのであえて言おう、健全のお付き合いである。
それあって孟徳の年末年始は彼女の生活に合わせ、旅行にも行かなかった。
探す手間と、怠慢な男の世話をする手間が省けた元譲は、花に感謝しきれない。
「冬休みの宿題か。といっても数Iは数学の序盤の序盤だぞ、孟徳…」
「適当に褒めることも出来んのか」
「花はよくやった」
「俺をだ!というか、お前が花ちゃんを褒めるな」
 数学が嫌いな文系がよく頑張った。
そう、評価したら怒られるとは。
しかも嫉妬心であり、しょうもない張り合いである。
 元譲が冷ややかな視線を向けると、見慣れている孟徳はあっさり無視した。
「お前が宿題を見ると言ったのか」
「あぁ。宿題見てくれるだけで良いとか……花ちゃん、物欲が無さ過ぎる」
「……女子高生なら、普通じゃないのか」
 こんなことまで話すとなると、本気で困っているらしい。
男同士で恋バナもとい相談というのは気味が悪いし、鳥肌も立つが、お互い様だ。
「普通の子って縁なかったからなあ…」
 これまた酷い台詞である。
 花が孟徳の金に興味ないからこそ、これまで付き合って来た女性のような方法は使えない。
しかも女子高生の財布は狭く小さいもの。
孟徳が貢いでも、喜ぶどころか困惑し、恐縮し、引きかねない。
 好きな男と、ふたりきりで、時間を共有する。
それだけで、幸せになれる。
そういう子であり、孟徳はそこに惹かれた。
 へりくだることを知らない瞳。
高慢でもない真っ直ぐな心。
子供ほど単純でもない思考。
 背伸びではなく、人より早い大人っぽい女の子でもない。
原石のようで、もう輝いているような。
矛盾しているようで、全てが嘘のようにしっくりまとまる、不思議な、不思議な子。
「本当、可愛いな…」
 逢いたい。
そう聞こえたのを、元譲はあえて気づかぬふりをする。
 まともらしい様を見せるようになった孟徳は好ましいが、知ると見るは別だ。
繰り返すが男同士で恋愛話など、わりとしない。
「あいつには時間が一番、喜ぶだろ」
 大人になると、何よりも時間が尊いと気づかされる。
それを知らない子が、物を選ばないなど。
 花の行動がキラキラ輝いて見える。
それは自分が捨て去ったものだと分かっているからこそ、元譲には目映い。
そして孟徳にとっては手にし、傍においておきたい子であった。
「……お前が最善を言うのも腹立たしいな」
 ならば俺にどうしろと。
 そう本気で言いかけたが、元譲の方が少しばかり精神的な意味で大人だ。
言いかけた不満は喉元でおさえた。



「では、俺は戻らせて貰う」
 昔馴染みの惚気など、長く聞くものではない。
適度は聞いただろうと、そそくさ退散する元譲に、秘書からの電話を受けていた孟徳が声をかける。
「ぶつかるぞ、元譲」
 なにに、が抜けている。
元譲は問う前に気配を感じ、二歩下がった直後――扉がいきおいよく開いた。
「丞相!あの資料で会議など、些か急すぎます!!」
 作らせたことに文句はない――というより諦めている。
それがどういう理由で作らせたか、理解承知の文若が抗議にやってきた。
「直で来るか、普通」
「お前、メールや電話では意味がないだろ」
「出ないし、見ないな」
「そうですね!だから来ました、考え直して下さい」
 堅物の文若が、やけに乗ってくる。
苛立っている証拠だ。
本気で適当にあしらって、言いたいことを言い切った。
 上司に対し酷い態度だが、文若は普段礼儀正しい男である。
仕事以外だいぶ屑――元譲と文若はそう思っている。酷すぎるが、七割本気で酷いので訂正しにくい――の孟徳にだけ、こういう態度なだけだ。
「文若、お前がプレゼンターだ」
「考え直すどころか、押し付けたな」
「あと会議が終わったら、塾帰りの花ちゃん迎えに行くから、上手くことを運ばせろ。長引かせるな」
「最低だな、お前は」
 助手席に女しか乗せない二シーターのイタ車で、だ。
車に価値を見出せてない花にとっては、意味のない代物で、彼女を悪目立ちさせかねない。
元譲は仕事のと重ねた意味合いの本音が漏れてしまった。



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