He's up to something



※孫四兄弟で仲花。深い設定なしの学園パロ



 十一月十一日、早安は一人で登校している。
この表現になるのは、同校なら一緒にと思い込んでいる兄妹の仲謀と尚香がいない――前者は日直、後者は部活の朝練で、早朝出て行った――からだ。
 これは時々あること。
慣れているし、気ままに歩けるから、一人も良い。
ただ、少し静かなだけ。
「静かなだけだ…」
 早安は無自覚で、言い聞かせるような言葉を掠れた声にのせた。
 冬に向って、少しずつ気温が下がっていく秋空の下。
日陰に入るとそれが顕著に感じるほど、冷え込んで来た。
軽く風が吹くだけで、身震いする。
心持ち肩が上がり、特に首元が肌寒い。
 明日はマフラーを用意しよう。
早安はそう思いながら上着のポケットに手を入れ――何かにぶつかる。
何かと取り出すと、出掛ける間際、慌ててそこに押し込んだ携帯電話。
しかも画面の一部が点灯、着信している。
『雑誌買い忘れた。行く途中、買ってきてくれ』
 操作してみれば、仲謀からのメール。
尚且つ、何の雑誌か書いていない致命的なしょうもない一文。
が、買っている姿をよく見ているので、嫌でも要望のが何か分かってしまう。
 気づかなかったと嘘をついても良いのだが、嘘も案外面倒である。
しかも時間に余裕あり。
 早安は重たい溜め息ひとつ。
この場から一番近いコンビニへ、寄り道が決定した。



 そのコンビニは学校から二番目に近い。
しかも登校時刻から少しはずれており、同校の制服は数名見かけるが、ごった返すほどでもなかった。
 早安は店内で寄り道もせず、目的の雑誌を手にとって直ぐレジへ向おうとするも――菓子が陳列された棚を凝視する見慣れた人物に気づいた。
仲謀や尚香と違って顔は広くないので、そう思える人が少ない。
裏を返せば、その類に属する人を無視しない。
「何してる、花」
「あ、早安!おはよう!」
 花が振り向き、見上げて笑顔一つ。
「……おはよう」
 いつもの表情に安心してしまうのは、仲謀との痴話喧嘩で振り回されているからか。
早安は花と仲謀の感情に、やや敏感気味だ。
 そう、痴話喧嘩。
両片思いではなく、相思相愛、恋人同士。
大好きなのに素直さが中途半端かつ不足でケンカばかりしているが、それはただの惚気でしかなくて、聞けば聞く程じれったい、面倒巻き込み系カップル――というのが早安の認識だ。
質が悪いことに、これは弟・早安による脚色でもない。
誰もが同じか似ている単語で揃えてくるので、正しい見解である。
実に残念な話だが。
「ねえ、早安。何が良いと思う?」
 菓子を見ながら悩む花に、早安はどんな悩みか、やっと理解した。
 花とその友人、合わせて三人の輪で、昼休み用お菓子当番がある。
今日の担当は花であり、吟味しているようだ。
「……これは?」
 早安は花から直接その話を聞いているが、その三人の好みや傾向など知らない。
しかも甘味に興味がないので、問われてもおすすめも浮かばない。
 記憶にある菓子というと、兄妹が食べていたものくらいで。
昨日長兄・伯符が食べていたナッツを脳裏に掠め、チョコレートでコーティングされたナッツの商品を指す。
「それも美味しいよね! でも、ニキビがって怒るからなあ…」
 提案を折られた。
やはり女の甘味に対する悩みは面倒、と早安は位置づけ、棚の一番上に置かれた商品に目を向ける。
「じゃあこれは」
 二度目にして、これで良いだろ、みたいな投げやり。
実際面倒なので、押し通すつもりでいた。
「ポッキー?」
「……今日は十一日だろ」
 商品の横にあるポップには、今日の日付が大きく記載されている。
菓子の見た目を数字の1(いち)に見立てて四本並べ、十一月十一日――ポッキーの日としたのだ。
製造元の企画だが、購買側のウケは良く、毎年宣伝されていた。
「安直かなーって」
「捻ってどうする……それに、仲謀も喜ぶ」
「…………うん?え、えっと、仲謀…?」
 ポッキーでどうすれば仲謀が喜ぶか、までは言っていない。
が、花の頬はみるみる真っ赤になる。
何を想像したのか不明だが、説明する手間が省けた。
「そ、早安? そんな話題(ゲーム)、よく知ってたね……」
 世の中に疎いという侮辱にも取れるが、早安の無関心率は圧倒的だ。
花の驚きもおかしくない。
「まあな。騒いでたし」
 ここ最近、テレビ放映の洋画を仲謀と尚香の三人で観ていた際、ポッキーのCMが流れて来た。
それを観た尚香が「兄上は花さんとポッキーゲームとかします?」と爆弾投下し、仲謀は飲み物を吹いた。
それはもう盛大に。
慌てる仲謀を余所に、早安は尚香からゲームの詳細――二人向かい合い、一本のポッキーの端を互いに食べ進む――を聞いた故、知っているだけだ。
「嫌だったか、」
「え?いや、そうじゃなくて……恥ずかしいよ」
 否定的なので、嫌いなのかと思いきや。
真っ赤な顔して惚気てくる。
面倒なカップルの片割れは、素直さ中途半端により周囲を巻き込みかけていた。
「……わかった。まかせろ」
「何を!?」
 巻き込まれる前に、逃げるが勝ち。
早安は花の困惑すら無視して、話題を丸め込み、強制終了。
「それより、遅れる。今日の菓子はそれで妥協しろ」
 登校時刻に余裕あれど、無限ではない。
一番初めに提案したナッツの商品を、花に押し付ける。
「う、うん。そうだね」
 ポッキー云々の提案も、お菓子吟味も、色々流すことにしたのか、花が素直に賛同し、受け取った。





 授業の合間の休み時間。
早安と仲謀は渡り廊下で合流した。
「買って来た」
 早安がレジ袋ごと押し付けてきた。
雑誌だけなら袋などない、と仲謀は思い、中身を確認する。
「悪いな…ん?これ、お前のか?」
 やや細めの長方形、真っ赤なパッケージには大きく『Pocky』の文字。
チョコレートのみコーティングされた一番定番とあって、仲謀も知っていた――が、頼んだ記憶などない。
それに甘味に興味のない早安が菓子を買ってくるとも思えない。
疑心な問いが飛んでしまう。
「いや、仲謀のだ」
「……は?俺?」
「正確には花が食べたがってた」
 嘘だ。
朝のコンビニ時にそんな展開なかった。
でも、期待していない、とも思えない。
 花が恥ずかしがっているならば、仲謀から動けば良い。
ふたりとも幸せ。
早安も不毛な内容を脳内から削除完了。
素晴らしいことだらけだ。
「『一緒にどうぞ』」
 いまいちよく分かっていない仲謀に、決定打の台詞を一声つける。
 それは、早安がポッキーゲームのルールを聞いた時のこと。
タイミング長兄・伯符が帰って来て「恋愛の悩みか青春か!兄に相談しろ!!」と絡み始め、それに乗せられた尚香が「ぜひ花さんと一緒にどうぞ!」と勧め出した。
「……お前までそのゲーム切り出すか!?」
 効果覿面。
言葉足らずでも、ポッキーと花と台詞で結びつけられたようだ。
盛大に茶化されているので、記憶に残ってしまったが故、だろうが。
 仲謀は早安が尚香とは違い、こういう類に首を突っ込まないことを知っている。
気まぐれとも思えない。
何かあるとすれば。
「早安……お前、映画の件、根に持ってるだろ」
 兄と妹に絡まれていた時、一緒にテレビを、正確には吹き替えの映画を観ていた。
騒がしいあまり、良い場面の吹き替え声が聞き取れなかったと、感情の起伏薄し早安が不満面を見せたのだ。
 それだ、それしかない。
人とは違うベクトルで、変な部分に根を持つ弟だ。
「……思い出した。今週はそのシリーズ第三弾だ」
 確かにそれを根に持っていたが、これとそれは一致しない。
偶然花と逢って、いきなり巻き込まれそうになったので、回避すべく菓子を選んだまでだ。
転がり込んできた展開に上乗せしない。
その恨みはもっと別件でと思っている。
 なので、肯定という選択はないが、否定する気も起きない。
 新作が封切りする為、地上波でシリーズ連続放映している作品である。
この流れで放映を思い出せたことを、よしとしよう。
その思いだけ、言葉にした。
「ああ、それも観ようって違う!」
「仲謀、そろそろチャイムが鳴る」
 ノリ突っ込みらしき台詞を完全無視。
ポッキーは受け取った仲謀の好きにすれば良い。
そう言わぬばかりに、早安はあっさり踵を返し、教室に向う。
 困惑と八つ当たりの混じった声色で「早安!」と呼ばれたが、背に受けるだけ。
追いかけて来ないのならば、歩みは止まらない。
障害なく、ただ進む。
 一人になった空間で、早安は短い溜め息を漏らす。
 兄と花の遠回しな惚気に首をつっこむものじゃない。
そう反省するも、無性にポッキーが食べたくなる。
甘味に興味なく、好きでもないが。
何故か、ふと、そう、思った。



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