In the meantime



※『The view where we had were not changed』のおまけ、外野。




「え、あ、あれ?南先生って、真壁先生と……えぇ?」
 久方ぶりの再会なのだろう。
翼が慌ただしくやってきたことも、悠里の態度も分からなくない。
抱きしめるのも、感情の強さであり、納得がいく。
 ただ、強く抱擁するものだろうか。
離さないものだろうか。
 でも、あまさより優しさが優る。
泣いている子供を慰めているような、あやしているような、そんな雰囲気まであって。
 ちぐはぐだ。
真奈美には思い浮かべられる『恩師との再会』を越えていることだけ、確信が持てる。
それ以外はさっぱり決定打が見つからない。
 お世話になった真壁と、恩師の悠里。
もし恋人同士ならば、知らなかったことに少しからずショックを受ける。
違うのならば、この距離をなんと表現すれば良いのか、悩む。
「そう、なの、かな…?でも、うぅん、これは……」
 推測が曖昧となり、最後には混乱に陥った。
 もう脳内はパンクです、考えを放棄して良いですか、良いですよね。
「落ち着いてください、北森先生」
 懐いている後輩を見ているような気分の二階堂が、真奈美の肩をポンと叩く。
最後には「真田先生みたいで痛々しい」と声に漏れていた。
彼にしては珍しい態度であることを、まだまだ付き合いの短い真奈美が気づける訳もない。
「ちょ、先輩!俺そんな動転して、いや、してるけれども!」
「真田先生もですか…?ででですよね!?おふたりは恋人同士だったんですか?」
 邪魔しない程度の音量で真奈美と真田が頷きあう。
 そんなふたりに、二階堂は盛大な溜息ひとつ。
真奈美はともかく、真田までこれとは。
相変わらずこういう展開に成長がない。
「ふふ、北森先生?恋人ではありませんよ」
 清春曰く「オバケ。存在がありえねェ」の衣笠が可笑しそうに応答する。
その笑みに何処がお化けなんだろうと真奈美は思いつつ、愉快気な相手に向って首を傾げた。
「え、でも…?」
「恋人だったらこんな場所で再会しません」
「そ、そう、ですよね……」
 心に凄い抉り方をしたような、容赦ない発言だった。
もう否定しようがないというか、頷くしかない。
「それで、葛城君?」
「うぉ、衣笠さん気付いてたの?」
 椅子に腰掛けた鳳の横でひっそり隠れていた葛城が、不意打ちに驚く。
 嘘くさい態度は演技か素か。
微妙なところですね、と衣笠は内心思いつつ、いつもの笑みだけ返す。
 衣笠は誰よりも、葛城を見守る――は言い過ぎだろう、陰ながら少しばかり支えていた。
声に出すことは、滅多とない。
葛城が問うまで。
 このバランスはずっと変わらないだろう。
それを葛城も分かっているので、今も話題に追いかける素振りも見せない。
「気づかれていないと思っていたのか」
「わっ葛城さんだ!二階堂先輩教えてくださいよ!」
 二階堂の邪険な視線に続き、真田も今頃気づいた素振りの声を上げる。
いつまでたっても先輩が一番の彼らしい行動だった。
「出たっ嫌味眼鏡。あと小猿うるさい!」
 大声ではないが、小声に属しているようでしていない音量で騒ぐ先生方を横目に、真奈美は葛城が誰なのか、記憶の引き出しをいっぱい開けていた。
 元教え子というほど若くない。
聖帝の高等部で、知らない教師がいたとも思えない。
周りの対応からして来客者という雰囲気でもない。
 幾つも検索項目があがるのに、記憶にひっかからなかった。
該当者なし。
出逢ったことがいない人、というのが不思議だ。
職員室は広いけれど、この1年で逢わない人などいないはずなのに。
 うーん、と深く唸る真奈美だが、その記憶は欠損していない。
理事長と平教師が直接挨拶することなど滅多となく、再任して間もない為、写真もなく見たこともないのだから。

 さて、一方。
大の大人たちが騒いでいる空間はというと。
「収拾がつかないので、そろそろお願いしますね」
「え?オレですか!?」
 葛城は衣笠から翼と悠里の間を裂いて来いと指令された。
さらっと、脈略もなく。
いつもどおり豪速の変化球のように。
「葛城さん以外誰がいけるの」
「私は嫌ですよ」
「俺も面倒だ。行け、葛城」
「葛城先生が賭けに勝ったんだし、良いんじゃないかな?」
「いやいやいや、最後の一番おかしいでしょ?!鳳様暴君!」
 真田、二階堂、九影、鳳の順番で好き勝手に言っているが、葛城に押し付けていることは一致している。
 葛城はそんな周りに抗議しかけたが、すぐに慌てた素振りごと飲み込んだ。
短い沈黙と、小さな溜息。
諦めというより、落ち着きや冷静さを取り戻したというような変わりよう。
「そろそろ『素直さ』も面白くないのは確かだし、まぁー?坊ちゃんだから今回は行きますがー……次はやりませんからね!」
 次、というのは翼以外のB6のこと。
悠里に逢ったとたん翼がこうなのだから、他も似たようなものだろう。
そこを突かれると誰一人何も言い返せない。
そんな未来、容易く想定出来る。
 彼らも悠里を通してB6を見て来た。
同じく、B6を通して悠里を見て来た。
だから、分かってしまう。
彼らの溢れる感情も。
彼女の慈しむ表情がどれほど優しく、痛く、苦しく、それでも愛おしいものであるかも。
「葛城、いっきまーす」
 葛城が鳳の隣、二階堂の椅子に座ったまま、キャスターをコロコロ動かし、翼と悠里の方へ向かう。
「あ、それに二階堂先輩の椅子!」
「陰険眼鏡のなら気にしまセーン」
 真田が注意するも、止まる気配なく。
否、押し付けたので、戻ってこられても困る。
真田は単に二階堂のだからと文句を零しただけだ。
「というか、葛城さんの『素直さ』って何が?えっと、誰が?」
 そんな話してたか、と真田が首を傾げた。
ちらりと二階堂を見て答えを求めるも、彼は視線をとらえるだけ、眉間に皺をよせる。
「葛城くん、そんなこと言ったんですか?相変わらず面白いこと言いますねぇ」
 素直な気持ちを、身体ですぐに表現出来るほど、もう若くはない。
溢れ出るものを抑えてしまう程、落ち着いてしまった。
恐れるようになってしまった。
「私たちに対する嫌がらせでしょう」
 それを自分だけに留めず、声を出したのは――抗い。
みんなもそうでしょ、と押し付ける。
苦しみを分散させようとしている。
 二階堂の応答に、鳳と九影も苦笑を滲ませた。
「……えーと、北森先生分かる?」
「わ、私ですか…?」
 いきなり真田より振られ、真奈美は素っ頓狂な反応――忘れ去られたと思っていた――をしてしまう。
むしろ、自分が聞きたいくらいなので、答え合わせも出来ない。
「真田と北森にはわからねぇだろ」
「君たちは素直ですからね」
 九影と鳳にそう言われると、もはや四面楚歌。
理解出来てしまう側からすれば、分からないまま、君ららしく居て欲しいと願ってしまう。
だから他もそれ以上、説明も答えも言わなかった。
「………つーかこれ、あと5回も続くのか?」
「……………B6も似たところ、あるからね」
 こんな痛感一度でいいよ、という重たい溜息がもれた。






 そして本当に休題の最後。

「つーばーさ。そこの坊ちゃーーん。感無量なところ申し訳ないんだけど、一応ここ、職員室だから」

「「…………!!!」」
 頬杖し、わざとらしい呆れ面を見せながら、葛城が翼と悠里の空間に割り込んだ。
 周りを気にしない翼が珍しく失態という表情を見せたことと、恥ずかしさのあまり首や耳まで真っ赤にした悠里に、嫌な役回りながら近くで見れて良かった――などと葛城が思ったなど誰も知らない。



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