Where shall we begin?



It is the will of Heave』の後の話です



 ゆったりと時間を有しての夕食会。
デザートまで来た頃、ヨシュアが話題をふった。
「そうです、父さんがファミリーで一番強いのはお嬢さん…フェリチータだと自慢していたよ」
「はあ!?お前そんなに強かったのかよ!」
 アッシュが席から立ち上がった勢いで、椅子もガタンと鳴った。
ノヴァから誰も予想済みの「静かにしろ!」の罵声も飛ぶ。
「勝った、けど……一番というのはどうだろう?」
 アルカナ・デュエロの結果から、そう言っているのだろうとフェリチータは察していた。
だけれど、それだけで答えを出すのもどうだろう、とも思う。
「『一番』は男が気にするものであって、お嬢さんは固執しないでしょう。ですが、父を倒した事実は誇るべきです、いつか越えねばならぬものですから」
 ファミリーを良い方向へ導こうとする教師のような態度だ。
腹違いの妹、という接し方は一度たりともなく、どう接していいのか戸惑っていたフェリチータには有難い。
純粋に褒めているのだろうと思い、素直に頷いた。
「それで夫は選んだかな?」
 爆弾があっさり、落ちる。
 誰もがうやむやというより、どう問えば良いのか分からないところ、幽霊船の件で置いてきぼりになっていた話題が。
予期せぬところから、直撃。
「夫?………えぇ?!」
 ザワっと周りの動揺から数秒遅れ、フェリチータの顔が赤く染まった。
一度ヨシュアを見てから俯き、表情は見えなくなる――が、耳まで赤く、隠せていない。
「……決まってない、と。アッシュ、チャンスはあるよ?」
 耳打ちでこそっと、有益な情報だ、と呟くヨシュアはただの大きな子供だった。
「俺か!?なんでイチゴ頭と…!て、なんで決まってねぇって分かるんだよ、ヨシュア」
 表情に出にくいが、視線は素直だ。
タロッコの影響もあって、人をじっと見つめる傾向がある。
それなのに今の会話で周りの男を見ず、問い質したヨシュアを一瞥した。
フェリチータと接する機会がほぼなかろうと、こういう話題なら読み取りは容易い。
「なんだ、お前は新参を押すか」
「ジョーリィ、含みがありますね」
 可笑しそうに、ヨシュアが乗ってきた。
 ふたりからすれば割と友好的な方だが、傍から見れば気味悪い。
やはり何度も繰り返すが、日頃の行いが悪い所為だ。
「………あぁ、君もデュエロに参加したのか。それはまた…」
 含みのある表現に何の意味があるのか察したのはジョーリィだけだ。
否、ジョーリィが声に出さなかった内容を察した、と言うべきだろう。
「……そうだね、詰んでるか」
 モンドを頂点にしているくらいだ。
芯が似ている娘とくれば、ど真ん中、無視出来ない。
 ジャッポネの心強き艶のある母親に似た外見。
被らない方が別人と見なしやすいから、似ていないのも更に良し。
 年齢も本人たちが気にしないのならば、障害にならず。
 そこまで思案し、結論づけたのが「詰んだ」の一声。
 おおらかと言うべきか、豪快とみるべきか。
友人を応援する日が来たか、なんて暢気な感想を抱いたヨシュアだった。
「ここでの楽しみがひとつ増えたよ」
「見物料くらい出せ」
「私は今一文無しです」

「ねえねえルカちゃん。今、なんの話してたっけ?」
「え、いや……なんなんです、このふたりの会話」
「俺たちみたいな関係なのかな〜あ、そのドルチェ食べないなら貰うよ?」
「俺たちと一緒にすんな!つーかトリオでくくんな!」
「ちょっと、私の食べないでくれますか!?」
 複雑な心境を抱く10代組の空気を吹っ飛ばす勢いで、幼馴染み三人が密談――になっていない。ただの空気ぶちこわしだ――をしていたところ。

「俺の目が黒いうちは、清い交際しか許さんぞおおおおお!!!!!」

 バン!と勢いよく扉を開き、モンドが入って来る。
娘のことだけは必ず食いつく、神出鬼没が親馬鹿を極めている証拠だ。
「モンド、もう少し手当させて」
「それどころじゃない、スミレ!」
 少し困り顔のスミレが追って来た。
どうやら治療中だったようで、ヨシュア同様、顔だけでも酷い数の傷痕が隠れず見えていた。
ファミリーからすれば「どーやったらこーなるんだ」としか思えない喧嘩を繰り広げる親子だ。
「お嫁にいくなど、まだ早い!」
「そうですか?父さんも私も早かったのに、それはあんまりでしょう」
「娘の花嫁姿なんて耐えられん!」
「そうですか?うら若き乙女、娘とウエディングアイル(※)を歩けるなんて羨ましい限りですが」
 新婦とその両親等が赤い布の上を歩いて入場する。
神の傍へ、限られた人物しか歩く事を許されない道。
「お前は、俺を殺す気か!!?」
「違いますよ。そうではなく、父さんも私も大切な女性を奪った側。こういうのは巡るものです、奪われるのを見送るのが父の役目でしょう」
「そんな巡り俺が断ち切るぞ」
 親馬鹿を堂々と掲げるだけのことはある。
結論、手に負えない。
「孫を見たくありませんか」
「俺には息子も娘もいれば、孫はいるし、孫みたいなのもいる!しかも家族いっぱいのパーパだ!十分だろ!!」
「幸せすぎるくらいいますね、確かに」
 息子にヨシュア、娘にフェリチータ、甥にノヴァ。
孫にリベルタがきて、アルカナ・ファミリアは家族である。
 そんなもんで揺るぐか。
どうだ、俺の勝ちだ。
 ドヤッと誇らしげなモンドに、どうしたものか、とヨシュアは内心溜め息が漏れた。
兄貴面をする気はないが、何もしていなかった兄として、妹に面倒ごとなく結婚への道を歩んでもらいたいのだが。
我が父ながら、どうしたものか。
「自分の道は自分で決めるものです」
 モンドに対し啖呵を切った「自分で決める」がこんなところで出てくるとは思わず、フェリチータが目を見開いた。
それをモンドとヨシュアは気づいていたが、あえて触れず、視線も向けない。
「啖呵切りすぎると後々返ってくるものも大きいですよ、父さん」
 お嫁さん捜しで世界巡りなんてしたモンド。
彼女には自分しかいないからと、己の義務を捨て出奔し、身の全てを捧げたヨシュア。
 周りの反対など押し切って、あっさりすり抜けて。
当然のように。
己の幸せをもぎ取っている。
 効果絶大、というより否定しようがない。
血筋二代もくれば、三代目もその流れは自然であり、フェリチータも公言している。
「お前は娘がいないからそう言えるんだ。俺だって男ならこうは言わん」
 実際、ヨシュアを追っていない。
お前が見初めた女を見せろと思ったくらいだ。
「確かに、キアラ似の娘も欲しかったですね」
 息子は自分とキアラどちらの面影もある外見に、育て親ダンテらしい誇りある内面。
文句ひとつないし、今更堂々親権利なんて振りまくつもりもない。
ヨシュアは見守れれば十分だ。
「お前似の娘じゃダメなのか?」
「外見は置いといて、中身が私に似た娘、どうです、ジョーリィ」
「最低だな」
「でしょう。私も我が娘と思っても困るね」
 反吐が出る、という態度に賛成なのか、ヨシュアも頷いている。
「俺はお前たちの成り立ち方が未だによく分からん」
 大人びた年少時代を思い浮かべながら、モンドが腕を組んで唸った。






 夕食会がお開きとなってすぐ。
ぐったりしたルカに「飲もうルカちゃん!」と励ますパーチェと溜め息混じりで付き合うデビトが先行し、次にアッシュ含めた10代組4人が出て行く。
「なんというか、」
「ヨシュアもガキなところあるからな…」
 なんとも言い難い感想を喉元で押さえるノヴァと、過去を馳せて苦笑混じりのアッシュ。
ふたりが横目でフェリチータとリベルタと見ると――彼らも微妙な顔をしていた。
「どう接していいのか、わかんねえんだよ……」
 性格がつかめないからではない。
ヨシュアに逢えた事も嬉しい。
話してみたいと、もっと知りたいと、強く思う。
でも、距離が掴めないのも確かで。
 真っ直ぐすぎるあまり、色々なことがまとまらない。
何処かもどかしく、何かに捕われてしまう。
「お前らしくないぞ、リベルタ」
「ダンテ!?」
 振り向いてみれば、ダンテがいつもの笑みを零していた。
ゆらゆらと葉巻の煙も舞っている。
 ダンテはヨシュアに複雑な気持ちを抱いていた自覚がある。
だけれど、戸惑いが長引くほどの器でもない。
ちゃんと区切りもつけられる、ファミリーでも割と少ないまともな人種だ。
 そして、リベルタが複雑さを察していることにも気づいていた。
年下に、リベルタに、そんな心配されるようではいけない。
まともな男が、ダンテが、するべきこと――遠慮させないよう仕向けること。

 まっすぐに、育ててくれて有難う。
これからもリベルタをよろしくお願いします。

 レガーロに着く前、ヨシュアからそう言われた。
 それは当たり前の言葉だけれど。
息子を未練としていた男が、あんな風にあっさりするものだろうか。
育てたダンテへの遠慮かと思ったが、否、それも含んでいるけれど、それ以上に――
「(先は……長くないのかもしれん)」
 フェリチータやリベルタ、未来を背負う彼らに、教師じみた態度を取る。
ファミリーの未来に、自身を入れず話す節が多々あって。
あっさり明日いなくなるように、頼み事をしてくる。
 息子の成長を見守ろうと戻って来た男が、未来を見据えていない。
 そんな材料によるダンテの憶測でしかないが、嫌な気ほど外れないものだ。
「ジャッポネの教えに【時は金なり】という言葉がある。戸惑いを押し切って飛び込んでみろ」
 4人全員の頭を軽く叩いてから、ダンテは仄かに笑い、身を翻した。
 ダンテの弱みは未来を背負うこの若者たちであり、ついつい甘やかしてしまう。
要するに、長居すると内心が漏れかねないと、そそくさ逃げた。

 リベルタは言葉を失って、引き止める事も出来ない。
アッシュも毒気を抜かれ、もどかしそうな表情を浮かべる。
フェリチータとノヴァは思案顔を見せた。
「飛び込んで、か…」
「なにか……うーん………そうだ!明日、ヨシュアを誘って、みんなでレガーロを回ろう!」
 名案、とフェリチータが笑顔を零した。
 それに「お嬢、それ名案!」とあっさり乗ったのはリベルタで、後の二人が渋る。
「リベルタと私は距離を縮めるきっかけになると思うの。島の色々なところ行けばアッシュも身近に感じてくれるだろうし、ノヴァも…私たちと一緒でしょ?」
 フェリチータは押し切るように意図を紡ぐ。
「な!?そんなことは…!」
 フェリチータやリベルタのような親近感はないけれど、従兄であることに変わりはない。
それもきっかけのひとつだが、周囲にいない性格も引き寄せられた。
 見透かされていることに驚くノヴァに、フェリチータとリベルタが不思議そうな表情を見せた。
隠していると思っていたのか、という驚きで。
「だ、だが。幹部がそんなことでサボって良い筈ないだろ!」
「昼食早くとればいいんじゃねぇの?」
「そうだね、空いた時間をつかって回ろう?」
「……そう、だな。その日で回り切る必要もない、か」
 食事の時間を長めにとる傾向が強い。
何日かかけて、という発想をみつけ、ノヴァも頷く。
ノヴァが認めれば、計画はほぼ遂行可能であり、フェリチータとリベルタは喜んだ。
「アッシュ!」
 そんな3人に憧れと焦がれを感じたアッシュへ、フェリチータが射抜くような視線を向ける。
「なんだよ、イチゴ頭…」
「みんなで回って、仲良くなろう!ね、アッシュ」
 あっさり手を伸ばして、連れ出そうとする態度は、馴染みのヨシュアより清々しい。
それなら大丈夫。
戸惑いなんて思う必要、ない。
「わかった」
 アッシュは態とらしく面倒くさそうに頷いた。


※wedding aisle。和製英語にするとバージンロードのこと。イタリア語が分からず、英語で…す。

※※これの後日→『right now, my consern is about you



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