Cherish a snake in my bosom



※当サークルの本「御伽噺の終わり、業火の開幕」「幕間の余興」の時間軸です。
※ざっくり説明すると、孟徳ED後なのに、花が文若の補佐に復帰しています。そんな間柄での、ある日。というワンシーンです。



「元譲さん。私と囲碁しませんか?」
 昼を迎える少し前のこと。
花がひょっこりと孟徳の執務室にやってきて、そう告げた。
 仕事が捗らない。
花が文若の補佐に就いてから、文若は孟徳にそう断言し――彼女を滅多と孟徳の執務室に寄越さなかったのに。
今日に限って、しかも主ではなくお守に用など。
 孟徳と元譲、ふたりして目を丸くする。
堅物が奇才な発想を寄越してくるとは。
文若の意図がすぐに読めなかった。
「………元譲さん、囲碁嫌いでしたか?」
 男達の事情など全く知らない花からすれば、そんな態度さっぱり理解出来ない。
おかしなことを言っただろうか、と慌てかけるのを一瞥した元譲が口を開く。
「嫌いではないし出来るが…仕事は良いのか」
 文若が補佐のサボりを許容するか。
そう含めると、花はそういう意味か、と納得の表情を浮かべた。
「文若さんが、孟徳さんの執務室で元譲さんがいるから、そちらで休憩をとってきなさいって」
「それで何故俺を指名する…」
「元譲さんが暇を持て余している、と聞いたんですけど…?」
 花は文若の言葉を発しながら、違和感を覚えた。
 元譲は孟徳の護衛のため、主の執務室にいる。
 彼とてそれだけが仕事では無い筈ないのに、一緒に囲碁など出来るものだろうか。
だが、真面目な文若が「丞相のところにいる元譲殿と囲碁でもしてきたらどうだ」と不思議なことを言って来たのだ。
冗談には思えないが、可笑しい点ばかり浮かぶ。
「花ちゃん。文若は他に何か言ってた?」
 不思議だ、という表情の花に孟徳は笑みを見せた。
文若の意図の鍵を握るのは、花しかいない。
「他に……休憩が終わる頃、預けていた書簡が終わるだろうから持って来なさい、と」
 花が昼前にやってきた。
いつもは寄越さない文若が、休憩を孟徳の執務室で、と提案。
しかも文若から教わり、花が楽しんでいる囲碁まで手に持たせて。
 そこまで意図の欠片を拾ってみれば、『…ということですので渡した書簡、早く終わらせて下さい。その頃には昼時ですから、好き勝手にどうぞ』と投げやりな表情の文若が脳裏に浮かんだ。
孟徳と元譲は内心「あぁ、そういうことか…」とぼやく。
 孟徳は責務に対し、いつでも根気よく片す人間ではない。
しかも今日は急な用件もなく、だらけていた。
元譲が孟徳の執務室に長居している時は大半サボらないよう監視する為。
要するに警護をする人は他にいて、元譲は無駄な時間を消費している。
そして、文若は早く書簡が欲しい。
 全ての事柄を早回しで終わらせる為だけに、花が利用された。
「……上手く扱われてるな、孟徳」
 分かっていることをあえて言われると腹に立つ。
「花ちゃん、こいつ捨てといて良いよ」
 囲碁なんてする必要ないよ、こいつどうせお守だし。
そうさせている孟徳がそういう意味合いを含めて、元譲の言葉をザックリ切り捨てた。
「囲碁…だったな。待ってる間には良いだろう」
 文若の策にのるのがお守脱の近道である。
 花を使うなど文若の手としては濁った手段だが、誰一人損をしないのだ。
主の執務室で臣下が休憩など無礼極まりないものの、昔からの迷惑料とか適当な文で流す。
どうにでもなれ、が元譲の結論だった。
 便乗することに決めた元譲は、囲碁をする机と椅子――広い執務室なので、孟徳が使う机と椅子以外にも置いてある――を用意し始める。
「俺が置いてかれてる……」
「そう思うなら、早く終わらせてくれ」
 男ふたり、文若の意図を明解に出来ていない花を哀れだと思わない。
彼女が内容は分からずとも、使われていることを察していると、気づいているから。
 それに自分たちは進化や成長を望めないくらい大人になった。
そんな人達と接し、利益という言葉を少しずつ覚えながらも、花がひたむきに進んでいく。
その結果がどうなるか。
表向きには見守り、裏向きでは最悪な思考による傍観を続けている。
「花ちゃん」
 振り向いて微笑む花を見て、無性に書簡放って抱きしめたくなる。
だけれど彼女はそれを望んでいない。
恥ずかしさより、仕事を遮ったことに戸惑い、笑みを消してしまう。
自らそれを排除するなど、許せない。
だから、思考だけに留める。
「すぐに片すから。終わったら一緒に昼食とろう」
 文若と元譲にどんな憂さ晴らしをしようか。
そんな思考を巡らせながら、孟徳は花に向かって、彼女にしかしない甘い笑みを返した。



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