What I wanted to say






「ロイヤーってなんであんなうざいのかしら……」

 敵対する侍従室で図々しくお茶を飲むシエラに、コールドナードはきつく睨んだ。
「少し黙りやがれ」
 何処の直属であれ同じ城で警備している以上、共同で護衛にあたることがある。
敵味方王族貴族関係なく事情をあえて無視するのは、一番効率が良いためだ。
なのでシエラが来ることはおかしくない――が、今回の用事でそれは全く関係していない。
「別にそんなうるさくしてないでしょ」
 コールドナードは事務仕事をしているだけ、見てはいけない書類もなければ、話し相手くらい余裕だった。
「うるさくねぇけど……内容に終わりがねぇ」
 ただ避けたい。
ロイヤーが嫌いなのでは無く、ロイヤーの中に含まれている内容を、拒みたいだけ。
 だけれど、シエラはメイド長に就くだけあって、身の引き方が上手い。
食い止めようとしているが、さっぱり良い傾向に向かっていなかった。
 ぶっちゃけシエラの暇潰しという鴨だと気づいている。
ただそれに納まるのが癪に障る。
抵抗する自身も腹立たしいけれど、諦めるのはもっと嫌だ。
マーシャルら辺に言わせれば「無駄な足掻きですね」と言われるようなレベルだが。
「そう、終わりなんて無いわよ」
「なら諦めろ、クソメイド長」
 コールドナードにとって少し地位の高い同業者など同列に等しく、マーシャルとリリーさえいなければシエラにも暴言を当たり前に吐く。
適当にすればするほどマーシャルが眉間にシワを寄せるので、丁重に扱うよう意識はしていても、結局コールドナードの性分上、主以外の丁重などカスみたいなものだ。
「そうなんだけど。どうでも良いから忘れちゃえば良い話だけど、その前に又言うでしょ?ロイヤーって」
 邪険にしてもシエラは可笑しそうに話を続ける。
なんたってコールドナードのうんざりな態度をお気に召しているから、気にしてなど全くいなかった。
陰口や僻みなど付きまとうシエラにとって、はっきり嫌気と暴言を吐くこと自体、良い。
 それをコールドナードは矢張り気づいていたし、嫌な相手に喜ばせたくもなかったが、態度を改めるつもりがなかった。
どうであれ、優しくするなど虫唾が走る。
 だから、稀ながらシエラからコールドナードにあえて話しをしに来ていた。
何を思ってかコールドナードは知らないが、大変迷惑である。

「何度言うものじゃないでしょ、主馬鹿を公言するのは……」
「そのうざいには賛同する」

 が、慣れてしまったのはコールドナードな訳で、いつのまにか話しにのってしまう。
 言ってから失態に気づいたコールドナードは、不愉快な気持ちが湧き上がり、露骨に顰めた。
「同意見なら早く言ってよ。話進まないから」
 シエラもコールドナードもロイヤーに負けぬ劣らぬ主馬鹿、心酔して仕えている。
 ただ、心で思うのと声に出すとは別だ。
忠誠心が鈍るとかじゃなくて、呆れる、うんざりする、うざい、キモイ、もう暴言ならなんでも可。
「はあ?なんだそれ」
 馬鹿な言葉だけで会話をするな、と睨み返せばシエラは当然の如く「私、馬鹿だし」と開き直った視線を向けてくる。
 シエラは推敲しようとはしているのか、「うーん」と軽く悩んでから口を開く。
「ロイヤーのうざい公言、あんた今2倍でしょ」
「2倍とか言うんじゃねぇよ。んだよ、2倍って、クソが」
 何か、シエラは伝えようとしている。
 伝える、は間違えかもしれない。
自分に確認しようとしているため、とも思える。
 コールドナードは別の意味で面倒だと思いながら、話に付き合った。
今は、嫌でもそれしか選択肢が無い。
「ブライアン様の自慢に加えて、最近リリーを盗られた妬みで2倍」
「………何が言いてぇ」
 肯定も否定もしない返答に、シエラはリリーって存在が本人の前以外だとタブーって面倒くさい男よね、とぼんやり思う。
開き直ったマーシャルも面倒くさいのは言うまでも無い。
「何が言いかというと、そうね…」
「じれってぇな、おい」
 互いに面倒だと思っているのに、会話は続いている。
 聡い同士、相手の気持ちを分かっているのにも関わらず途切れさせない理由を、ふたりは分かっていた。
公言こそうざいと知っているので、確認はしないが。

「あんたは私を嫌いでいて。そして、余計なお世話で悪いけど、リリーを離さないで」

 同じような被害にうんざりしている共感点も嫌いじゃない。
敵対ではあるけれど、共同の際任せられるだけの技量を持ち合わせている面も良い。
リリーに新しい価値観を与えたことも、少しばかり感謝していた。
 だから、コールドナードに嫌われていても清々しく好感が持てる。
「はぁ?なんだ、その流れは。意味わかんねぇぞ。俺がどうイカれればお前を好きになれんだよ」
「そう、それそれ。その調子」
 自惚れでなく、事実として、シエラの周りはシエラを好いていて、それがたまにあぶなっかしい。
そしてシエラは主であるエドワルドのためならば、好きな男がいようと命を捧げ、先なんて長くない命だと思っているからこそ――あえて露骨に嫌ってくれる輩が必要だった。
 コールドナードに嫌われているから、任せられることがある。
押し付けられることがある。
ありがたい、貴重な枷。
「あんたはそのままでいれば良いから」
 私馬鹿だからこれ以上説明出来ない、という開き直りで返すと、コールドナードの眉間に寄ったシワが薄れ、口から溜息が出た。
「……お前が何で安心するかなんて知ったこっちゃねぇが、お前も口に出して確認すんな。ロイヤーを出して言う話でもねぇし、もっと馬鹿なりに工夫しろ」
 追求する気も失せる。
そんなことを自分に確認したかったのか、というのがコールドナードの感想だ。
 馬鹿らしい。
 シエラが何を思って、自分を保険にしたいがために、言葉にまでしたのか理解出来ない、する気もない。
「それもそうね」
 公言がどれほどうざいか言っていたばかりなのに。
シエラはどれほど馬鹿なことをしていたか、噛み締め、呆れる。
それと一緒に、大丈夫だと安心できる返答にほっとしていた。



「ロイヤーの主馬鹿公言は本気でうざい、ってのは本当言いたかったのよ」
「愚痴交じりで話すんな。馬鹿の要約は期待できねぇし、実際できてねぇから理解しよーがねぇし、こっちが不快になる一方だ」
「あんたって丁度いいから、愚痴りたくなるわけ。良いでしょ、少しくらい」
「少しじゃねぇってかオイ聞け。つーか早く出てけ!クソが!」



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