I'm serious!!






 日中現れた仲謀に、花は心底驚いていた。
どうしたの、と不思議そうな表情を隠し切れない。
「仲謀、仕事中じゃない、の……?」
 それはごもっともだ。理解もありがたい。
でも、この引き際を作らせたのは自分だ。
そう思うと苦い自責ばかり募り、それが滑稽であることも分かっていながらも、治まらない。
「今日、誕生日、なんだろ?」
 感情を抑え付ける様に、仲謀は話題を切り出した。
「………え?あ、うん。覚えてたの?」
「忘れるかよ」
 数え年がこの国の認識である。
だけれど、花から「仲謀、誕生日いつ?」と自然に聞かれ、仲謀は驚愕した。
こんな所に誤差があるなど、思いも、予想もしていなかったからだ。
詳しく、花の誕生日を含め聞いてみれば、尚更その制度に驚かされたのを今でも、鮮明に、覚えている。
 花が生まれた日を祝う価値観を持っているのならば、仲謀はそれを少しでも叶えたい。
大げさにすることを望んでいないことも、ただ「おめでとう」と言うだけで十分だということも、仲謀は分かっているから。
ふたりだけで、小さくも、大事にしたい。
「それで、これ?」
 差し出されたのは、食べやすいように八分割された林檎。
花が自慢げに仲謀へ剥いてみせた、皮を兎の耳に見立てた林檎――の模倣もの。
「物が良かったか」
 仲謀が剥いたのだと、花は問いかけずとも分かった。
願いを叶えたいという気持ちを一番知っているから、受け止めているから、貰っているから。
「うぅん、これが良い」
 くしゃりと顔を歪ませながら、花は何度も首を横に振る。
そして嬉しそうに微笑んだ。
 誕生日がいつかも。
数え年ではなくを満年齢を覚えていたことも。
それを容認していることも。
祝おうとしてくれた想いも。
時間を仕事の途中に作ってくれたことも。
うさぎの形をしたりんごの剥き方を模倣し剥いてくれたことも。
 物より、物じゃない価値を、大事にしている。
花が仲謀に望んでいるものに、物は入っていないから。
「仲謀、有難う」
 花は仲謀の胸もとに頭をすりよせ、ひっついた。


「お前みたいに上手く剥けなかったけどな」
「いきなり完璧でも、困るよ……」
「やっぱり花の皮むき自負はどうかと思うぞ」




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「『誕生日』……?」
 怪訝そうに鸚鵡返しされても困る。
文若はそう思いながら首を縦に振った。
「花のところではどんな身分であろうと、生まれた日を祝うようで」
 孟徳に書簡を渡すべく執務室へ来た際、花のことを問われた――花が文若の補佐に就いており、牽制含む事情聴取で相違なかろう――ので、つい先程の話題を切り出したまでだ。
内容は突拍子無いが、鮮度は悪くない。
「……………待て」
 待ってますが、とは流石に返さなかった。
この後孟徳が何を紡ぐか、文若は検討ついていた。
「お前はいつ生まれたか、聞いたか」
 そもそも元日を迎えるごとに歳を加えていく数え年が基本である。
文若も聞いた時は驚いたし、少し飲み込みが鈍ったほどだ。
それなのに、孟徳はそれを上回る早さで推測している。
「えぇ、問われた後、聞き返しました」
『文若さんの誕生日っていつですか?』
 そんなこと問われるなんて思いもしていなかった。
そもそも歳に対し祝いや歓喜を感じるほど、若くもない。
だけれど、花が微笑んで問いかけるから――つい抵抗せず答え、聞き返してしまった。
「で、いつだ?」
「……それは貴方から直接――」
「ちっ、やはりか…!」
 文若の返答に言葉以上の含みがあることを察している。
嘘ではないのにこの読み取り、相変わらず異常、政治関わらず聡い。
舌打ちは余計だが。
「元譲、少し空けるぞ!」
「おい待て、孟徳!書簡を捌いてから行け!お前の『少し』が信じられるか!部下が困ってるんだ、俺も困る!終わらせたら好きにしろ!!」
 ずっと黙っていた元譲が席から立ち上がろうとする孟徳を押さえつける。
大人気なく喚いて。
 元譲としても女関連でどうこう言うつもりは毛頭ない。
とっくの昔に諦めている。
だが、今からどうぞとは言えない。
本音駄々漏れてでも止める。
「馬鹿か、お前は。花ちゃんの誕生日、過ぎたところだ!俺が祝わずしてどうする!?」
「………は?何故すぎたと断言できる?」
「しかもあまいぞ、反吐が出る。過ぎていなかったら、こいつが言い淀むか」
 文若は花の誕生日がいつか、本人から聞いている。
いつであろうと――過ぎていても、少し先でも同じ言葉を呟いていただろう。
それを孟徳は的確に当てているから恐ろしいところだが、あえて食いつかなかった。
 元譲も反吐云々喧嘩の売りを無視する。
 さて、一番大人なのは、誰でしょう。
「聞きもしていないのに祝うか?驚くだろ」
「驚くところも見たいんだよ!あぁ、もう。だからお前は女の扱いが悪い」
「お前にだけは言われたくないんだが……」
「はぁ?俺以上に説ける奴もいるか」
 沢山娶った男に言われたくないと呆れる元譲。
沢山娶る男でも惚れる女が多いくらい良い男だと自負する孟徳。
 話の方向性がズレている。
しかも言葉にするのも嫌な話題であり、不毛な会話すぎた。
「俺はいますぐ!花ちゃんのお祝いをする――分かったなら離せ、元譲」
「孟徳!」
 最後には孟徳の大人気ない上官命令に、鋭い視線、低い声色。
しかしそれを元譲は苦い面で食いつきにくくも抵抗した。
「――丞相。花は今、使いに出しております。仕事の途中に割り込むと、困惑するかと」
「……きたいないぞ、文若」
 花は自分のために働きたいと、孟徳を愛しているからそれで答えを出したいと願っている。
それを文若は察し、自分の補佐として加担した。
それを孟徳が知らないはずがない。
効果覿面、怯んだ孟徳に、元譲が安堵の溜息を零す。
「私の補佐ですので」
 きたないと、貴方だけには言われたくない。
 元譲同様、とても不毛な比べをしている自覚が文若にはあった。
「なら、早く花ちゃんを解放しろ。俺は仕事を早急に片して祝う。邪魔はするな」
「…………御意に」
 譲歩はここまでか。
 不躾な態度を許容した孟徳に文若は頭を垂れ、元譲を一瞥。
これで十分上出来だろと、苦笑交じりの反応を返された。



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