You know I enjoyed it






 明日は審判の刻。
決着の時――全ての終わり。
 進むしかないのだから、迷いはない。
だけれど、名残惜しさはある。
 幾つもの出逢いがあった。
力添えした者。
拒んだ者。
どちらにも属し、最後にはかけがえのない存在になった唯一の友人。

 偶然だった。
必然という枠で括れない、復讐の心と普通の器の気紛れな出逢い。
 そんな巡り会いだからか、初めの頃は本当に衝突ばかりしていた。
 友人というものを正しく理解出来ていない、ただの理想像で接していたからかもしれない。
いつも、自分を理解して欲しいと思う気持ちばかりの一方的で。
相手を理解しようという気持ちがなければいけないのだと気付くのに時間がかかった。
 短い間でだいぶ成長しただろう。
けれど、根源は変わっていない。
性格も、好みも、感情も。
それなのに相手を守りたいと、何かしたいと思ってしまうようになったのは――本当の友情になったから。


 沢山話したな。

 沢山ケンカをしたな。
 沢山押問答を繰り返したな。
 沢山理不尽なことをつきつけたな。

 沢山笑ったな。

 一生分の笑顔を、お前から貰ったよ。







 ぽろぽろと涙が頬を伝っている。
散々怒鳴っていたのに、最後には悲しいと泣き始めた。
 アキはいつまでも感情的だ。
それがカヤナには眩しかった。
アキがカヤナを眩しく思うように。
互いになかったことが妬ましく、そして憧れだった。
「カヤナ、」
 泣かせたくないのに、泣いてくれることが嬉しい。
 友情とは不思議なもの。
死んでなお、初めて思う気持ちで、復讐だけの心が変わっていくなど。
 戸惑いと興味があった。
悪い気はしない。
それが一番不思議だった。
「カヤナ、カヤナ」
 何度も名前を紡いで。
 アキはカヤナの利き手を掴んだ。
両手で大事そうに重ねて包み、唱えるように、願う。
「私ね、やっぱり復讐はよくないと思う」
 戦力のない、非力な子。
戦の恐ろしさを知っているから、アキは武器を持てない。
でも、そういう人たちがいるからこそ武器を持つ者もいる。
「でも、カヤナにその心がなかったら、今はないから……複雑、です」
 出逢わなかった。
カヤナが復讐を望まなければ、アキはカヤナとの偶然に巡り会えなかった。
「初めは戦女神のカヤナだったけど……今は違うよ。女の子のカヤナ。イズサミのことで捨てたって言ってたけど、私は女の子のカヤナとしか見てないからね」
「何をいきなり…」
 女の子、という言葉がくすぐったい。
 幼き頃からそんな言い方されたことがなく、自身には不釣合いの言葉。
そう思っていたけれど、女の子のアキが言うなら、受け取っても良い様な気がした。
「この手はこんなにも柔らかくて、優しいんだもの」
「傷だらけだ」
「私もだよ」
 ほら、おあいこ。
 そう可笑しそうに言葉を紡ぎながら、そんなのじゃ否定要素に入らないからね、と主張される。
「それに。この手は、誰かを倒す手でもあるけれど……誰かを守る手でもあるんだから」
 カヤナはもう切り捨てた全てを振り返ることなど出来無い。
生前からずっと。
 武器を持つということは、誰もが正義で、誰もが悪になる。
懺悔などない、してはいけない。
それでも、赦されたいと願う時はあるから――そう言ってくれると、心が軽くなる。
「大げさだ…」
「私は沢山沢山守ってもらったよ?」
「……それくらいしか返せないからな」
 アキの誕生日に上げるものがないからと、守ることを約束した。
その前から決めてはいたが、初めて声にした。
本当の意味で、その時――誓った。
「何言ってるの。何かを返して欲しいだなんて思ってないよ」
「わかってる。私もそう思う……」
 初めてにして最後の、女同士の友情。
無縁だと思い込んでいた。
手にすることなどないと考えていた。
 尊いもの。
愛を対価にした自分が得た、かけがいのないもの。
 アキに返さなくて良いのだろう。
それでも、この感情を知れた喜びを伝えたい。
「頑ななカヤナ」
「それはアキだろ……」
「お互い様!」
「はいはい」
「もう!」
 柔らかく笑って。
「ねぇ、カヤナ」
 優しく背中を押して、励まして。
勇気のひとつになるように。
アキは言葉を紡ぐ。
「私は明日、カヤナの気持ちに決着がつくこと、願ってる」
 倒して、なんて言える訳がない。
戦いや復讐を拒むアキがそれを願えない。
 それでも友人の背中は押したい。
切に願っていた気持ちを無碍には出来無い。
 矛盾していて、それでも押し通す我が儘。
貪欲で、それでも願って。
とても、人間らしい。
その汚くも愚直な思いが、願いが、相手を、カヤナを、強くさせる。
 何かを諦めるほど、アキはそこまで老いていない。
若さが無茶をさせる、勇気にする。
達観なんて、アキには出来無いだろう。
それで良い。
それがアキだ。
カヤナはそんな女の子で、そんなアキが嫌いじゃなくなって、好きになったのだから。

「カヤナは私の誇りだよ」

 戦女神としてではなく、女の子として、誇りだと、アキが言ってくれている。
 カヤナは生前、沢山の人に背中を押された。
期待され、過度に持ち上げられ、話題にされたが、それでも前に進み答え続けた。
そんなだから何度も聞いてきた言葉だったが、今一番、身に沁みるし、綺麗に輝いていた。
 カヤナは無性に泣きたくなった。
枯れきって涙など出ないのに、そう思える。
不覚にも感情の波に押し負けている。
「…………男に言わず、私で良いのか」
 なんて、情けない単語ばかり繋げているのだろう。
カヤナは自分に呆れるも、アキは気にしていないというか、その葛藤すら分かっていない雰囲気で意気込んだ。
「いいの。もう決めたんだから!」
 こうなると頑なに変えないだろう。
妬まれるな、と内心思うも、有り難く貰っておく。
 別れはもうすぐ、ある。
カヤナはバルハラでアキを見守るつもりだが、何かよりどころがあるのは嬉しい。
「別れが来ても、ずっとずっと貴方のこれからを願うから」
「私もだ」
 ぎゅっと重ねていた手をカヤナから握り返すと、アキが嬉しそうに笑った。
 いつのまにか涙は止まっていて。
とても綺麗な笑顔に、とても支えられてきたし、支えたいと願ったのだ。
最後の最後に、見れて、幸せなのだろう。

「アキの幸せを願っている――」





※これの派生として『She was the love of my life』があります



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