_extra






 ふと真奈美は視線を感じ、見上げてみれば――翼がいて、目が合った。
今いる場所から校舎を見たことはなく、翼が何処の部屋にいるのか、瞬時に分からない。
 それよりも、と脳は考えることを拒否している。
というより、足がつらい。
天十郎を追いかけたまでは良いのだが、体力に差がありすぎた。
 走るのを止めて少しお休み、翼に向けて頭を下げる。
 距離があって見上げる形なので翼の表情までははっきり見えないが、細く笑われているような気がした。
そして挨拶がわりに一度だけ手を振っている。
さりげない動作、姿がとても様になっていた。
 なんだろう、何処か寂しい表情。
何か、あったのだろうか。
引き寄せられるというより、心配してしまうような、そんな雰囲気を感じる。
「おい、」
 その声に、真奈美はハッとした。
 少し先で天十郎も止まっている。
待ってくれているのだろうか。
本音を言うと、それなら走らないで欲しい。
「真壁先生がいてね」
 でも、立ち止まってくれるだけで十分。
真奈美は文句を言うべきでは無いと思い、天十郎に向かって微笑んだ。
「天十郎君。真壁先生がいるよ」
 翼がいる頭上――職員室だが、真奈美はまだ何処か分かっていない――にこっそり指を差して教える。
「あ?何が――げ!真壁!!」
「こら、そんな言い方しないの」
 真奈美の所まで戻って一緒に見上げた天十郎が喚く。
 そんな露骨に嫌がらなくても、と真奈美は思いながら叱ると、天十郎が眉間に皺を寄せる。
 何がそんなに嫌なのか、真奈美には理解しかねた。
余談ではあるが、邪まな心が原因であり、そこを考えていない真奈美が気付けるはずもない。
「行くぞ!」
 ぐいっと手を掴まれ、引かれる。
徒歩より早く、走るより遅いペースで進めさせられ、真奈美は戸惑った。
 不謹慎ながら掴まれた手が熱い。
ドキドキする。
自分より大きな手に、焦る。
「え?ちょっと天十郎君?」
 感情を誤魔化すように、声を紡ぐ。
「うるせぇ!おめぇもあんな奴見つけんな…つーか気づくんじゃねぇ!!」
「そんなこと言われても。あ、天十郎君、補習受けてくれる気になったのね!」
「……は?いや、違ぇ、って、えぇ?!」
 それで手を引っ張っている訳では無いらしい。
 いきなりどうしたんだろうとは思うも、捕まえたチャンスは逃さない。
真奈美からガシリと手を掴み、捕獲する。
「補習、しますからね!」
 真奈美が容赦しない笑みを零すと、天十郎は空を仰ぎ、「しくった…」と情けない声をあげた。



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