_extra






『気張れゆーたやろ』
 それだけ、零した。
 俺たちが何も伝えなかったことに対し、苛立ちを見せなかったことが珍妙に思える。
蚊帳の外にしたのは意図的だということも、自分が割り切れていないからそれに甘んじていたことも、分かっているからかもしれない。
『あの子等にあんな思いさすな、華鬼』
 放っておけへんな、ほんまに。
 その言葉だけで、華たちと同行しているような雰囲気を漂わせた。
 説明なんて互いにしたことがない。
それだけの距離をとっていたし、今更これを変える気もない。
「華鬼…?」
 いつも見ない雰囲気を察したのか、神無が服の裾を掴んで見上げてくる。
 らしくないというか、どうすれば良いのか分からない自分に気付くと、今、何を紡ぐべきか明解になる。
「そっちは任せた」
 喉からするりと漏れたが、終えてから、不思議な気分を覚えた。
自分が言ったのではないような、主観的になれない。
 きゅっと抱きしめられる感覚に視線を下ろせば、神無が嬉しそうに微笑んでいた。
 もう何でもいい。
言葉に出てしまったのだから、それでいいか。
適当かつ投げっぱなし、考えるのも面倒だ。
『華鬼。今度こそしくるな、二度はない。あの子等放ってでもそっち行くで』
 俺の言葉に向こうがどう思ったのかは分からない。
微妙な間のあと、了解を含んだ責めが飛んできた。
 脅しに信憑性がない。
引き受けた以上、無責任に投げ出す男ではないから。
 言葉通りの意味ではないことくらい分かっている。
最優先だけは変わらないという宣言。
「華鬼、神楽?」
 小さな声で、神無からもう一度代わって欲しそうな態度を見せられる。
 誰か言ってしまうと、神無が次に何を要求するか目に見えていたから、言いたくない――が、俺はこういうことで神無に嘘を通せない。
「………光晴」
 ぱぁっと表情が明るくなる。
光晴の名前に驚いてはいるけれど、それより喜びが勝っていた。
 喜んでいる表情が可愛くて、光晴のことなど放置し、神無の額に唇を落とす。
「華鬼」
 くいくいと服の裾を掴んでは引っ張り、先程よりもっと代わって欲しそうにする。
予想通りの行動。
どうにかならないものか、と思いながら、空いた手で神無の髪を撫でる。
「……神無、」
「華鬼」
 代わって。
 名前を紡いでいるだけなのに、そう言われているような気持ちになった。
『はよ代われ』
 状況を察したのか催促してくるのがうざいし、腹立たしさも感じる――が、今日ばかりは神無に代わってやっても良いと思えた。



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