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ホント、馬鹿正直な後輩なんだから

顔を合わせれば必ずと言って良い程いさかいが始まる。
見慣れた光景と言えばその通りだったが、相変わらずの彼らにパーカーはほとほと溜め息をついた。

「おい、またか」
「そうね、まただわ」

ジェシカは控えめに笑うと、可愛い後輩たちの小競り合いを見つめた。
その視線の先には仏頂面をした赤髪の男と、彼に噛みつく若い女が。

「痛いところ突かれるとそうやって黙りこむんですよね」
「おまえと話をするのが無駄だと思っているだけだ」
「ちょっと!話を逸らさないでください」
「毎回毎回しつこい」

休憩室の片隅で続くやりとりを肴に、パーカーはソファに大きな体を沈めた。

「さっさとくっつきゃいいだろ」
「そんな単純じゃないでしょ、あのふたりは」
「そうかもしれんがよ、端から見りゃ痴話喧嘩だろうが」

コーヒーを飲みつつ語る先輩の気苦労はまだ続きそうだ。
その事を知るはずもなく、レイモンドとナマエのごたごたは終わらない。

「だって、私は正義感の強いレイモンドの背中を見てここまで……」
「ナマエ、いい加減にしろ」

遂に彼の眼光が鋭く光った。
その射るような視線にナマエは口をつぐまざるを得ない。
静かになった休憩室で、パーカーが宥めるような表情でレイモンドを見ると、彼は半分困ったような苦笑でそれに応えた。
しかし、その苦笑もナマエに向き直ると嘘のように消え、冷ややかな厳しい先輩の顔になっていた。

「行くぞ」

そして、有無を言わせない迫力で悔し涙を浮かべたナマエの腕を引いて休憩室を出ていった。

「若いってのはいいねえ」
「やめてよ、ジジくさい」

カップに付いた口紅を指先で拭ったジェシカが目を細めて軽口を叩いた。
会話のないまま人気のない廊下にやって来ると、レイモンドはナマエの腕から手を離し彼女に向き直った。
一方、ナマエは不本意だとでも言うようにあからさまに嫌そうな顔をし不貞腐れていた。

「何度言ったらわかる」
「さっき私もそう言いました」
「真面目に話す気はあるのか」
「さっき私もそう言いました!」

駄々っ子か、と言いたい気持ちをぐっと堪え、レイモンドは冷静になるよう自分を落ち着かせた。
彼女の言うことは自分が一番よくわかっている。
バイオテロをなくしたいという正義感は自分達の根本のようなものだ。
確かに正論ではある。

「正義感とか信念とか、それだけじゃ生き残れないんだよ」

そう、正論だけでは敵わないのがこの世の中。
哀しみとも悔しさともとれる彼の表情に、ナマエは何も言えなかった。
レイモンドの言うことはわかる。
それでもナマエは彼の正義感に導かれてここまで来たのですぐには受け入れられない。

「ナマエももう新人じゃない。わかるだろ」
「わかります……でも、できません」
「真っ直ぐな奴ほど陥れられて死んでいく。この世界はそういうもんだ」

唇を噛み締めて堪え切れなくなった涙を流すナマエが彼の心中を掻き乱した。
かつて自分がそうだったように、彼女は上司に絶対の信頼を置き、何が何でも被害を食い止め人々を救うという信念を持っている。
しかし、それでこの世界を渡り歩くのはギャンブルのようなもの。
いつ罠にはまってもおかしくない。

「俺はおまえに生きていてほしい」

レイモンドは無意識に、そして自然とナマエを抱きしめていた。

「だからわかってくれ」

胸の中で嗚咽を漏らすナマエに、そして自分自身に言い聞かせるようにして彼は腕の力を強めた。

「自分に嘘をつくのが辛くなったら、俺の前では馬鹿みたいに真っ直ぐでいろ」

ふと背中に温かみを感じ、ナマエが抱き締め返していることに気付く。
やっと受け入れてくれたのかとレイモンドは安堵した。
これで少しは形振り構わず突っ走ることが減ればいいと思った。
それはそうと、昔の自分のようなやる気に満ちたナマエの教育係をやらせるように進言するなど、オブライエンの先見の目は侮れない。
そして、ぐずったまま中々離れないナマエに「駄々っ子か……」と遂に口走ってしまった。


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