あれから数日間、何かとチームメイトにからかわれ続けていたが、オフィスでナマエに遭遇することがなかったため徐々にそれも薄れていった。
ほとぼりも冷めてきたことである、次の任務明けに彼女をまた夕飯に誘ってみようかと思っていた。
彼女の良く行く店に連れて行ってもらいたいのである。
「ピアーズ、お前に用だ」
肩を軽く叩かれ、隊長に声をかけられた。
仕事中は基本的に硬い表情の隊長の口元が緩んでいるのを見て、良いことでもあったのだろうかと思った。
そのような珍しい隊長に返事をして、俺はオフィスのドアを開けに行ったのであったが、驚愕した。
「突然ごめんね。今、平気?」
「ナマエ!」
その名を呼んでから、しまったと口を塞ぐ。
恐る恐る後ろを振り返れば、気色悪い笑みを浮かべるチームメイト。
隊長の口元の緩みはナマエが原因か。
良かった、彼女が作業着で来てくれて本当に良かった。
むさ苦しい職場に、彼女が可憐な私服で来なかったことは不幸中の幸いである。
「ごめん、忙しかった?」
「いや、大丈夫だ。どうした?」
今更ここを動くのも不自然なため、できるだけナマエの姿が見えないように彼女の前に立ちはだかった。
チームメイトの下衆張った目に晒して堪るか。
そして、用件を聞けば先日ラボまで渡しに行ったサンプルについてだった。
「メールでも良かったのに、わざわざ悪かったな」
「ううん、依頼した部署から出来るだけ早く確認とって欲しいって言われてて」
なるほど、それならば一々メールのやり取りをするよりもこうして確認してしまう方が手っ取り早い。
「それに……」
「ん?」
「最近、ピアーズのこと見かけなかったから」
「え、あ……」
ぎゅっと両手を胸の前で握って照れくさそうに言うナマエが何ともいじらしい。
そして、早口で、またメールするね、と言うと彼女は急いで自分のオフィスに戻っていった。
「いやー、青春だねえ」
「ピアーズさんも隅に置けませんね」
「ジルの目は厳しいから覚悟しておくんだな」
俺はまた頭を抱えたくなった。
[main]