行き慣れた店を選んで正解だった。
店員も俺を覚えてくれていたため、オススメの料理やそれに合った酒など、気を利かせて教えてくれた。
ナマエも、気に入ってくれたようで、今度は下で出されているアラカルトも食べてみたいと言ってくれた。
あの騒々しいところに彼女を連れて行くのは俺が一緒でも心配でもあるのだが……。
俺と違い彼女はあまり酒が得意ではないようで、ワイングラスに数える程しか口をつけていないが早々に頬に赤みが差していた。
それでも、話に花は咲き、連絡先も無事に交換できた。
これで、仕事上の用がなくてもいつでも連絡することが可能となった。
「ピアーズはここの常連さんなんだね」
「いつも下で仲間と飲んでるからな。こっちは初めてだよ」
薄暗い照明の下で酒の入った彼女はあでやかで優美だった。
下で飲んでいる時にも女性客はいるし、酔っている女性等それこそ見慣れているはずであったが、雰囲気でこうも違うように見えるものなのか。
「そうだ、今度は私がよく行くお店でごはんはどうかな」
「おお、いいね」
次の約束もできたため、嬉しさで舞い上がりそうである。
もっと彼女の様子を見ていたかったが、食事も済んでおり明日も仕事があるため、そろそろ店を出た方が良い。
楽しみは次回に取っておくべきだ。
「あの、お会計」
「いいって。誘ったのは俺だし」
納得いかなそうな顔をしていたが、もともと払ってもらう気もなかったので、気にしないでほしかった。
しかし、ナマエは財布をしまってくれない。
「でも、また今度一緒にごはん行くでしょ?その次もどこか行くかもしれないし。だから半分ずつ、ね?」
そう言って微笑みながら現金を渡す彼女を拒むことはできなかった。
案外押しが強いようだが、そもそもそのような顔で言われたら断れる訳が無い。
「あー…、じゃあこれだけな!」
柄にも無くしどろもどろになりながら、てきとうにナマエの持っていた札の半分程を抜き取り、店員の待つカウンターへと歩いて行った。
後ろから、もう、と可愛らしい声が聞こえたが、ここで振り向いたらまた押しに負けてしまいそうだったため、しっかりと会計を済ませてから彼女と共に店を出た。
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