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イトル未定
03

結局、職場に行くために急いでいたので、彼女にお礼を言えなかった。
出勤前にもう一度顔を合わせたかったのだが、向こうは合わせにくかったのだろう、彼女がリビングに来ることはなかった。
そしてもうひとつ。
朝、急いでいたからかベルトをしてくるのを忘れていた。
勤務時間中は支給品を着ているためどうということはないが、どちらにせよもう一度隊長の家を訪ねる必要がある。
彼女のことはその時にでも隊長に聞くことにしよう。
昼飯を終え満腹中枢が満たされて、あまり働かない頭をガシガシと擦ると、目の前で閉まりそうなエレベーターが。

「待ってくれ!」

昼休みは人の往来が増えるため、待ち時間もその分長くなる。
閉まりかけたエレベーター目がけて走ると、俺の声が聞こえたらしく、すぐにドアは再び開いた。

「すまない」
「いいえ、何階ですか」

その問いかけに答えようとボタンの前に立つ人を見れば、驚いたようにこちらを見る女性。
化粧のせいか、服装のせいか、はたまたリムレス眼鏡のせいか、朝より華やかな印象であったが、今目の前にいるのは紛れもなく隊長の家で会った彼女である。
どのボタンも押されていないエレベーターのドアはゆっくりと閉まり、このフロアで止まっていた。

「今朝の……、え、BSAA……?」

彼女も驚いているのであろうが、俺も予期せぬ出来事に困惑している。
上手く言葉が出ないことを察したのか、彼女はハッとして自身のポケットから何かを出した。

「申し遅れました、ニヴァンスさん」

朝と異なり当然濡れていない手が添えられた名刺を差し出した彼女は、ほんのりと頬を赤らめている。
あの時は全裸だったからな……。
俺も隊員証を取り出し、彼女の名刺を仕舞ってから自分のそれを渡した。
杓子定規のやり取りだったが、これで彼女の名前がわかった。
まさか職場で会うとは思わず、しかし、案外近いところにいたのだなと年甲斐も無く浮かれそうになった。
一体どれだけ女に飢えているんだ……、いやいやそんなやましい考えは決してないからな。

「ピアーズでいいよ」
「……じゃあ私のことも」
「ありがとう、ナマエ」

彼女の眼鏡の奥でふわりと目尻が下がった。
隊長の家にいたということは、隊長と親しいということか。
それともジルさん経由……?
釣られて表情が緩んでいたが、エレベーターのボタンをすっかり押し忘れていた。
他の職員に迷惑をかけてしまうところである。

「ナマエは何階?」

自分の降りる階を押して、当然彼女にも問う。
その時、昨夜、朦朧とした意識の中で感じた甘い匂いがした。


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