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HELLO
もう少し

短髪かつ前髪を上げていたピアーズは、もともと額が見えているヘアスタイルである。
現在、その額には痛々しい痣が……。
任務や訓練で負った傷ではない。
突如閉められたドアに激突したためにできた傷である。

「なあ、ピアーズ……ぷ……くくっ」
「なんだよ、あんたのデコにもタンコブ作ってやろうか!?」

同僚にその傷をからかわれ少々荒れ気味のピアーズを、遠くからクリスとフィンは見つめていた。
ナマエがあそこまでの態度をとった理由が、クリスにはイマイチわからなかったが、どうしたものかと苦笑を浮かべていた。
第一印象が良くなかったというのは確かに否めないが。

「えー!ピアーズさん、そんな態度とったんですか」

フィンに話せば信じられないといった反応をされる。

「でもまあ……ナマエを思ってのことだとは思うんだがな」

そう、ピアーズには悪気があるわけではない。
それでも、ナマエの癪に障ったことには変わりなく、しかしそこにクリス自身が絡んでいることまでは誰も知らないでいた。

「ミーティング行くぞ」

しかし、クリスの一声でその場は静まり、アルファチームはぞろぞろと会議室に移動し始めた。
一方、ナマエは午前中だと言うのに珍しくオフィスの方にいた。
解析の待ち時間ということもあり、彼女は自分のデスクに座っているのであるが、今朝、いつもの通り道で見た光景を思い出していた。
グラウンドで朝一のランニングを終えたらしいアルファチームが休憩しているのがちょうど見えたのであった。
そこにはあのピアーズや、先日クリスを呼んでくれた隊員たちが和気あいあいと笑い合っており、それを優しい眼差しで見つめるクリスがいた。
自分が変にピアーズに対抗意識を燃やしたりしなければ、あの仲間に入れてもらえるのだろうか、とそのようなことを考えていた。
ナマエは成果をクリスに褒められるのが嬉しかったが、同時にもっとどんどん頼ってほしいとも思っていた。
サンプルの解析に関してクリスの右腕になれるように日々努力をしてきたのであった。
それでも、なかなか彼はそのような対象としては見てくれず、子ども扱いのままなことに少々不満を抱いていた。
しかし、何だかんだ言ってもクリスに構ってもらうのも嬉しいため、いろいろと厄介であった。
そのような葛藤を繰り広げている時に出会ったのがピアーズである。
ナマエは、彼から溢れる自信を目の当たりにした。
部下と言えども隊長に対して対等に接することが出来るのは、クリスからの信頼を得ているからで、また、ピアーズの腕前についてはクリスから散々聞いていた。
ナマエとてクリスから信頼されていない訳はないのだが、それでも彼女に無いものをピアーズは持っているのである。
そして、ピアーズが悪い人ではないということも本当はわかっていた。
ところが、それをわかっていても兄貴面してお節介を焼くピアーズを好きになれなかった。
やはり、彼女にとってライバルでしかないのである。
その時、室長がナマエを呼ぶ声がした。
訪問者がいるらしい。
室長にお礼を言うと、彼女はオフィスのドアの方へ向かった。
クリスは普通に入ってくるし、恐らくピアーズでもないだろう。
では一体どちら様だろう、とドアを開けると、そこには以前会ったクリスの部下がいた。
今日もトレーニングの後なのであろうか、首にタオルを巻いている。

「突然ごめんね、今大丈夫?」
「はい、えっと……」
「僕、フィンって言います。隊長から聞いたんだけど、ナマエちゃんは僕と同い年なんだってね」

よろしく、といって手を差し出した彼の姿を、これが挨拶の仕方だとピアーズに見せてやりたかった。
運良く時間に余裕もあったため、二人は近くの談話スペースでコーヒー片手に少し話をする流れとなった。

「あの……、フィンくんはクリスやピアーズさんと仲良しなんだね」
「う〜ん、大変なことも一緒にたくさん乗り越えてるからね。厳しいけど、だからこそ僕もがんばろうって思えるんだ」

隣でそう言って微笑むフィンに、チームメイト同士の信頼関係の強さを垣間みる。
彼はピアーズのように見当違いな態度を取ったりは決してしないが、どうしてもナマエは疎外感を感じずにはいられなかった。
クリスとは同じ世界にいられないのであろうか。

「この前はびっくりしたよ」
「え?」
「隊長が、解析を任せるにはナマエちゃんに限るっていつも言ってるから、勝手にベテランのおばちゃん研究員を想像してたんだよね……」

申し訳なさそうにする彼だったが、そのようなことよりもクリスが言っていたという言葉の方がナマエは気になっていた。

「でも、私、まだまだだよ」
「そんなことないよ!僕もナマエちゃんみたいに隊長から頼られるよう実力をつけないと」

手に持った紙コップを少し強く握ったフィンの横顔は、にこやかだったが自身を勢いづけるように口元に力が入っていた。
その一方でナマエは、彼の話を聞いて熱いものがこみ上げて来た。
研究所ではまだ若い方で、何かと使われる立場の彼女は、同年代と話をするのが久しぶりであった。
自分と同じ年齢で隊員として活動しているだけでも尊敬に値するというのに、そのような彼から自分を讃えるようなことを言われ大げさかもしれないが光栄でしかたなかったのである。
その上、クリスが自分の能力を認めてくれているということを知り、ついに感極まり涙が溢れてしまった。

「わ、どうしたの?」
「フィンくんの言ってくれたことが嬉しくて……」

ハンカチで顔を押さえるナマエを、フィンはオロオロしながら宥めていた。

「クリスに頼ってほしい、認めてほしいって頑張ってきたけど、ピアーズさんにはやたら心配されるし……」
「あー……、うん、ピアーズさんはちょっと方向性がね……」

苦笑いするフィンは思い当たる節がありすぎるのか、言葉を濁した。
ナマエは、ゴシゴシとハンカチで顔を拭うと、これ以上泣かないように鼻を啜った。

「急にごめんね。でもフィンくんのおかげで自信ついた」

鼻の頭が赤くなっていたが、そう言って笑うナマエに安心したフィンも笑顔になった。
彼のナイスワークにより、ナマエの抱えていた疎外感は少しずつ薄れていったのである。


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