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HELLO
ようこそ・プランA

重火器すら持っていないが、日中の訓練を終えた俺たちはいつもの格好のままいつものように支部のオフィスから研究所へと向かっていた。
もう一度言うが、訓練は終わっている。
当然、任務中でもない。
それなのに、俺の半歩後ろを歩くピアーズはそのまま現場に踏み込んでも差し支えないほど気持ちに少しの隙もない。
緊張してるわけではないだろうが、ナマエを紹介するだけなのにこいつはどうしたっていうのだ。
そもそも会わせろと喚いたのはピアーズなのだが……。
擦れ違う研究員と挨拶を交わし、ひたすら清潔な廊下を進み、ある実験室の前で止まってドアの硝子越しに中の様子を伺った。
中に彼女はおらず、どうやらちょうど良く仕事中ではないようで隣接しているオフィスに向かった。
ドアをノックし、ピアーズにはここで待っているように言ってから、俺はオフィスに入っていった。
研究員たちは俺の姿を見ると笑顔を向けてくれ、それに片手を上げて応える。
そして、類に漏れずナマエもこちらに気づき、持っていたマグカップを置いて急いでやって来た。

「どうしたの?夕方に来るなんて珍しいね、訓練は?」
「もう終わったよ。今日は部下を連れて来たんだ」

いつもは日中、サンプルを渡すついでに彼女の部署に顔を出しているため、疑問に思ったナマエは小さく首を傾げた。
それでも、大柄な俺を見上げるナマエはいくつになっても変わらず無邪気に微笑んでくれる。
クレアも俺もこの笑顔に何度癒されたことか。
彼女はたまに俺たち兄妹ですら仰天することをやらかすこともあったが、何かある度に互いの存在の大きさと揺るぎない信頼関係を実感したものである。

「ナマエに会ってみたいって聞かなくてな」
「部下って、あの凄腕の狙撃手?」
「ああ、そいつだ。向こうで待たせてるんだけど、今ちょっといいか?」
「うん、大丈夫」

後ろを指して尋ねると彼女は快く承知してくれたので、ピアーズの元に戻ることにした。
ナマエは何故か少しだけ口を尖らせていたが、特に何か言うわけでもなかったのでそのままオフィスから出て、真顔で大人しく待っていたピアーズに声をかけた。

「ほら、この子がナマエだ。こっちが部下のピアーズ」
「はじめまして、ピアーズ」
「あ、えっと、よろしく……」

脇に避けてナマエを紹介し、その後ピアーズを指す。
珍しくナマエが愛想良くしているというのに、一方のピアーズは俺の方をチラチラ見ている。
頼むから目の前のことに集中してくれ。

「おい、何か言いたいことでもあるのか」

会話が始まるわけでもなく、戸惑っていたナマエの表情の雲行きも怪しくなって来たので、動揺しているらしいピアーズに出来るだけ普通に聞こえるよう話を振った。

「隊長!今まで何やってたんですか!」

おまえこそ何を言い出すのか。
行きなりの謎の説教に目眩がしそうである。

「この子が寝る間も惜しんで実験してるってこの前言ってましたけど、ちゃんと睡眠とるように言わなきゃダメですよ!」
「え?いやナマエはもう……」
「そりゃあ俺らは多少の無理くらいどうってことないですよ?だけど」

まさかとは思うが、ピアーズはナマエを未成年と勘違いしているのか。
一度、彼の話を制止しようと口を開いたが、先に俺たちの間に割って入ったのはナマエだった。

「クリス、私もう戻るね」

付き合ってられないとばかりに踵を返した彼女を結局引き止めることもできなかった。
しかし、そのような俺とは打って変わってピアーズはナマエに向かって呼びかける。

「ナマエ、無理は良くない!何かあったら俺に相談してくれ!」

もうどこから正せば良いのやら。
ピアーズは隊員として優秀で狙撃の腕も抜きん出ていたが、正義感の強さからかやや強引でお節介なところがある……ような気がする。
一方、彼に呼びかけられたナマエは、こちらをちらりと向いたがその視線には怒りとも軽蔑ともとれる不快感くを表す感情が含まれていた。
これは最悪な初対面になったな……。

「隊長もここの激務は承知しているでしょう」
「まあ……」
「あんな小柄で若い子が、こんなところで……。もっと心配してください」

確かに彼女は幼く見えるが、俺らから心配される年でもない。
ピアーズは真剣に言っているのだろうが、どうも滑稽だ。

「若いって言っても、おまえと数えるくらいしか変わらないよ」
「え!?あの容姿で……?」

こいつはまた失礼な発言を……、ここにナマエがいなくて良かった。
何やらひとりで使命に燃えているのか、ピアーズはピアーズで何か決心したようにナマエの戻って行った先を見つめていた。
俺にとっては彼らは可愛い部下と妹分には変わりなく、その二人が仲良くやってくれたら嬉しいに越したことはない。
正直、この出会いでそれはかなり厳しいだろうが、さてどうなることやら。


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