隊員達の息抜きとなっている馴染みの酒場に、任務を終えた強面の隊長と彼を慕う部下が夕食を摂りに足を運んでいた。
二人はビーフステーキを頬張りながら、どちらからともなく仕事から離れた他愛ない話を始めた。
「前から気になってたんですけど」
ナイフとフォークを置いてグラスの水を飲み干した部下であるピアーズは、一呼吸置いてから思い出したように言った。
「隊長の話に時々出てくるその子、恋人か何かですか」
まさにステーキのスライスを口に入れようとしていた隊長、クリスは彼の問いかけに怪訝そうに眉間に皺を寄せた。
「なんでそうなる」
「いや、だってその子の話してる時、すごく嬉しそうですよ」
無意識だったんですね、と口角を上げて茶化すピアーズに、クリスは呆れたように溜め息をついた。
「その子は家族みたいなもんだ。昔はクレアに懐いてたんだが、一緒になって可愛がってたらいつのまにか保護者のような境地になっててな」
「じゃあ父性が滲み出てたってことですね」
納得したピアーズに、適当に相槌を打っても、その話題は終わらない。
クリスの身の上のことだからか、ピアーズは興味津々のようである。
「やっぱりたまにしか会えないと寂しいもんですか」
「ん?そんなことないぞ。会おうと思えばいつでも会える」
なんてことはない、という表情で返すクリスにピアーズの脳内は再び疑問符が飛び交った。
肉親にすらなかなか会える職業ではないのに、どうしてそのようなことが言えるのだろうか。
今度はピアーズの眉間に皺が寄った。
「どういうことですか」
「どうって、今すぐにでも会えるってことだ」
「毎日任務で忙しいのに!?」
「まあ任務中は流石に無理だ……。支部の隣に研究所があるだろ、そこにいるんだよ」
ピアーズの体に衝撃が走る。
つい先日も、バイオテロ鎮圧のために入った現場で採集した、感染者の体液のサンプルを研究所に持って行ったばかりだったからである。
目的の部署に行く途中、クリスと別れたのだが彼の行き先についてはまったく無関心だった。
「なんで教えてくれなかったんですか!」
「むしろ言う必要あったか……?」
面倒そうにあしらいながら、ステーキを頬張るクリスの向かいで、ピアーズは尚も噛み付く。
「すぐに会えるなら会わせてください」
「どうしてまた急に」
「部下として隊長のことは知っておかないと。頼みますよ」
時々話題に出していた子、と言ってもそういえばこんな事がという程度の話題だったため、流石のクリスもこのような展開は予期していなかった。
ピアーズにとっては自分が慕っている上司のいつもとは異なる破顔ぶりに好奇心をそそられていたのであろう。
鼻息を荒げ一歩も譲らない彼の様子に、クリスはやれやれと仕方なく首を縦に振った。
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