倉庫と小説兼用 | ナノ





樹園のりんご 後編
04

自動販売機の前で固まっているのは、科学捜査官のナマエだった。
実験の合間にジュースを買いにきたのだが、目当てのものは売り切れのランプが虚しく点灯しているのでどうしようか悩んでいる。
しかし、頭の中はすでにあのジュース。
炭酸飲料も、スポーツドリンクもしっくり来ない。
コーヒー、紅茶などはわざわざ買わずともオフィスに行けば自由に飲める。
他に自動販売機は何処にあったかと考えていると、背後に気配を感じたので振り返った。

「やっぱりナマエか」
「わ、ごめんなさい!先にどうぞ」

声をかけたのはバリーだった。
ナマエは自分が自動販売機の前に立ちはだかって邪魔になってたと思い、慌ててそこから退いた。

「いや、大丈夫だ」

缶のコーラを片手にバリーが微笑むと、ナマエもほっとして笑顔になる。

「もしかして、この近くにも自販ある?」
「射撃訓練所の前を少し行った所にあるぞ。確かどれも売り切れてはなかったはずだ」

目の前の自動販売機を見て彼女の問いを理解したバリーはそう答えた。
ナマエは礼を述べて、早速そこへ向かった。
配属されて以来、数えるほどしか行ったことのない訓練所に辿り着けるか半信半疑だったが、案外近くにあったため無事に迷わず辿り着くことができた。
自動販売機もすぐに見つかり、コインを入れて目当ての商品のボタンを押せばたちまち上機嫌になる。
元来た廊下を歩いていると、訓練所へ見知った後ろ姿が入って行くのが見えた。
ナマエは腕時計を見てまだ時間があることを確認し、興味本意でその後についていくことにした。
中に入ると、練習の準備をするクリスが見えた。
やはり先程の後ろ姿は彼だった。
防音のための耳当てと目を保護する眼鏡をかける彼の姿は、ナマエには新鮮である。
彼の構える姿を斜め後ろから見ているナマエは、的を見つめるその真剣な表情に目が離せなかった。
何発か連続しての発砲を繰り返し、弾が切れたら装填する。
彼がトリガーを引く度にナマエは息を呑んだ。
正直、いつもと違う雰囲気の彼に見とれていた。
普段の笑ったり、困ったり、驚くクリスの表情に慣れていたナマエは、彼の集中して訓練に励む姿に尊敬の念を感じたのだ。
己の技術を向上させようと努力する彼を素敵だと心から思った。
引っ越しの時に重いものを持ってもらったが、彼の腕がこんなにも逞しいものだとは気づかなかった。
自分の腕を見れば笑ってしまうくらい貧弱だ。
当たり前だが、自分とは全く専門分野の違う彼に以前より興味が湧いた。
確か、ヘリの操縦も出来ると言う。
いろいろと彼の情報を思いだし、凄いなあ、と思いながらもう少し練習を見ていたかったが、実験の待ち時間もそろそろ終わりそうなため、名残惜しかったがナマエは訓練所を出てラボに戻っていった。


[main]



「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -