ジルはいつも美味しいお店に連れていってくれる。
ナマエはそう思いながら運ばれてきたメインディッシュを堪能していた。
「ウェスカーにそんな感情があったことに驚きだわ」
「私は皆と違って実践経験も乏しいし、ジルみたいな凄い訓練修了してるわけじゃないからねえ」
見てられないのかも、と言って苦笑した。
「そうかもしれないけど、科学捜査官としての腕はかなり買ってるわよ」
自分の言ったことに素直に喜び照れるナマエを見ていると、同僚にも関わらず良い意味で彼女を幼く感じてしまう。
いつもは隙の無い出来る署員であるため、このあどけなさは仕事中に見られずある意味稀少なのだ。
「隊長に認めてもらえてるのはすごく嬉しいんだけどさ、最近ほんとにやたら心配してくるんだ」
「遅くまでの残業とか?」
「それもあるけど、恋人の心配……」
ナマエの話によると、彼女の居候中に男の気配が全くないことに気がつき、更に職場では人一倍職務に励んでいるため、恋愛の機会を逸しているのではないかとウェスカーに心配されているらしい。
そのため、たまには息抜きも大事だ、等とよく言われるようになった。
「私だって息抜きくらいしてるのに」
「そうよね、こうして美味しいもの食べに行ってるし」
「それに、恋愛なんて急にできるもんじゃないでしょ」
不貞腐れるナマエだったが、料理を口に運べばたちまち表情は和らぎ、先程の愚痴が嘘のように美味しい美味しいとはしゃいでいた。
その様子を見たジルは、もしかしたら彼女は色気より食い気というやつかもしれないと思い、ウェスカーの心配もどこか理解できるような気がした。
「ねえ、ナマエ。今度、都合が良い日にショッピングしない?」
そろそろバーゲンの時期だし、と付け加えるとナマエはハッとした。
「そっか、最近ずっとネットでしか買い物してなかったから忘れてた」
もうそんな時期か、と言う彼女の反応を見てジルはますますウェスカーの心配を理解した。
ナマエは人としての才能や魅力はあるのに、自分でそれを活かしきれていない。
もう少し色気付いても彼女の年齢なら問題ないはずだ。
いつものカジュアルなナマエも悪くはないが、たまにはフェミニンな格好をしてみても良いだろう。
仕事一筋なナマエには自分が誘わなければ、とジルは張り切った。
「ナマエ、結構可愛らしいもの好きよね。いろいろ見に行きましょうよ」
「行きたい!あんまりひとりじゃ行かないから、ジルとそういうショッピングするの楽しみだな」
ジルは内心ガッツポーズをした。
これでナマエをイメチェンに誘導できる。
彼女が今より華やかになれば、その魅力に世の男共も気付くだろう。
それでもナマエがやはり恋愛は嫌だと言えば、それはそれで良い。
一度、そういった経験をしてみた上で後回しにする分には構わない。
ただ、今の状況では少しくらい仕事と趣味の他にも関心事を持ってみても良いと思ったのだ。
それに、ジルはナマエが自分にとって魅力的な男性に出会えば、趣味と同じように深く想い求めるような気がしてならなかった。
その機会を増やすためにも、まずは彼女のイメチェンを計ろうと思い立ったのだ。
ナマエは、そうしたジルの熱い想いなど知らず、呑気にワインを味わっていた。
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