外でのランチを済ませ、ジルとナマエは残りの昼休みを暫しの談笑をして過ごす。
話題はというと専らナマエの新居のことだ。
「バスタブが深くてのんびりできるんだよね。そうそう、インターホンから鍵開けられるのにはびっくり」
「へえ、最先端なのね」
「ジルも今度遊びに来てよ」
おいしいお酒を持ってくわ、と意気込んだジルは気配を感じてちらりとクリスの方を見た。
思いきり視線が合った彼は急いで逸らし、ジルは不可解だというように小さく首を傾げる。
「ナマエ」
そこに、オフィスに戻ってきたウェスカーが加わり、ナマエを呼んだ。
彼女は返事をして立ち上がる。
「どうだ、部屋の片付けは済んだか」
「クリスの協力もあって大分……」
決まりの悪そうな言い方のナマエを、ウェスカーは嫌味なく小さく笑った。
「でも、その代わり彼の分の食事も張り切って作っていますよ」
そうか、と相槌を打ったウェスカーは持っていた手提げの紙袋を彼女に手渡して話を続けた。
「引っ越し祝いだ」
そして、それだけ言うと部下のデスクに出張先からの土産物を配りに行った。
驚いたナマエが紙袋の中を覗き込むと入浴剤の詰め合わせが入っていた。
彼は、マンションでナマエが度々長風呂していたのを把握していたのだ。
「隊長、ありがとうございます!」
口角を上げると、土産物を配り終えた彼はデスクについて午後からの仕事に備えた。
それを見たナマエも、休止状態の端末を起動するためにスイッチを入れた。
人も疎らになったラボからオフィスに戻ってくると帰る支度をするクリスに会った。
お疲れ、とナマエが声を掛ければ彼は片手を上げて笑顔で応える。
「ナマエも帰りか?」
「ううん、もう少しやることが残ってて」
「そうか」
話しながらもデスクの引き出しを開ける手を休めない彼女を見て、クリスは邪魔にならないように会話を終わらせた。
しかし、どうしても気になることがあった彼は頃合いを見計らってもう一度ナマエに尋ねた。
「なあ、この前までウェスカーの所にいたんだろ?」
「ああ、うん、そうだよ」
書類からクリスに視線を移し、髪を掻き上げたナマエは肯定の返事をした。
「もしかしてクリスも、隊長と何かあったんじゃないかとか思ってる?」
「あ、いや、俺はそんな……」
レベッカのことを思い出した彼女は言われるより先にクリスに聞き返したが、図星によって彼の狼狽える姿を見て思わず笑ってしまう。
「ふふ、クリスがそんなこと聞く訳ないか」
「ああ、まあ……そうだな」
「隊長の家では居候させてもらってただけだからね」
屈託のない笑顔で、隊長が過保護なのは否めないけど、と言うナマエを見てクリスは二人の関係を気にしていた自分が阿呆らしく感じた。
彼女に茶化されはしたが、なまじ気になったままにしておくよりも聞いてしまって良かったかもしれない。
仮に彼女とウェスカーがどうなろうと自分には関係ないはずなのに、同僚だからか気になってしまった。
しかし、それでもこのようにウジウジと考えるなど自分らしくないと思う。
気分が晴れたのか曇ったのか曖昧なまま、彼はナマエに労いの言葉を掛けてオフィスを後にした。
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