大規模な事件や事故もなく平和な日が続き、ナマエは定時前に今日の仕事を終えた。
彼女は栽培しているシロイヌナズナやタバコの様子を見に、植物室に来ていた。
端末から植物の生育に問題は無いという情報を送信していると、誰かがこの植物室に入ってきたようだ。
足音が聞こえる。
「ナマエ!」
それは、困惑したような表情をしたレベッカだった。
彼女はナマエの元へやってくると、他に誰もいないのに声を落として話始めた。
「さっき休憩室で聞いてしまったんですけど、どこからかナマエと隊長ができてるって噂が広まってるみたいなんです」
「何それ」
突然のことに、ナマエは上ずった声でレベッカに聞き返した。
「詳しくはわからないんですけど、一緒に出勤したり、帰るのを見たとか言われてるようで……」
「あ、それは……」
そわそわするレベッカに、ナマエはどこから話せば良いのかと目を泳がせた。
その様子にレベッカはまさかと息を呑んだ。
「もしかして本当に隊長と……?そういえば、隊長なら強いですもんね!あれ、でも特別優しいかなあ……」
「ちょっとレベッカ、落ち着こう」
ナマエはレベッカの早とちりに苦笑いしながら、畳んであるパイプ椅子を広げて座るように促した。
そして、今、自分の置かれてる状況を彼女に説明した。
「そういう事情では仕方ないですね」
「寮が空くかは最低でも年が変わるまでわかんないし、かと言って条件の揃う物件はなかなかなくて」
「それで、署長に許可をとってナマエを家に置いてくれたという訳ですか」
「まあ、行き帰り一緒じゃそう思われても文句言えないかな」
そう言って笑うナマエに、レベッカはふと疑問に思ったことを聞いた。
「でも、一緒に暮らしてて何もないんですか?隊長だって男性ですよ」
「ないよ!だって何か隊長ってお父さんみたいというか、過保護?」
それを聞いて、今度はレベッカが笑った。
過保護なお父さんなど、普段の彼の様子からは想像できない姿だったからだ。
しかし、ナマエの話を聞く限り確かにその言葉がしっくりくる。
レベッカは意外な所でウェスカーの違う面を知り、いつもは無愛想だが部下思いの良き上司であることがわかり、スターズに来てよかったと思わずにはいられなかった。
「それにしても噂ってこわいね」
「どこで誰が見てるかわかりませんね」
やれやれと息をつくナマエにレベッカも同意した。
署内と言っても所詮は狭い世界だ。
噂が広まるのもあっという間だろう。
「ていうか、隊長って噂されるほどの人気だったんだ」
「相手がナマエだっていうのも、噂に一役買ってるんじゃないですか?」
「部下に手を出す上司!って感じ?それとも上司を誘惑する部下?」
「もう、違いますよー!優秀なナマエなら隊長とお似合いってことです」
「照れるからやめてよ!あ、お似合いって所に照れてる訳じゃないからね?」
わかってます、と言うレベッカと二人、笑い合った。
例え、噂のことをウェスカーに話したとしても、雨の日の送迎は絶対に止めたりしないだろうなと、彼の性格を考えナマエは思ったのだった。
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