冷蔵庫からボトルに入ったミネラルウォーターを出し、グラスに注ぐ。
それを飲み干し、またボトルを冷蔵庫にしまう。
リビングで携帯端末を操作しているウェスカーを横目で見ると、ナマエは宛がわれた自室へと戻るために階段へ向かった。
「待て」
しかし、背中を向けたナマエに、ウェスカーが制止をかけた。
彼女が振り返ると、ウェスカーは話を続ける。
「先程から何をしている」
「何って……水を飲んでただけですよ」
「今のことを聞いているわけではない。先程からウロウロと何をしているんだ」
そう聞き返せば、彼女は口をつぐみ黙りこんでしまった。
何が言いづらいことでも聞いてしまったわけでもないだろうに。
「何か探してたのか」
「いや、あの、ウェスカーさん、今、暇ですか?」
「ああ、どうした」
端末を置いて向き直ると、ナマエは彼の座るソファの傍まで寄ってきて話を始めた。
「あのですね、私も時々みんなと一緒に現地調査に行くじゃないですか」
無言で頷き、先を促すウェスカー。
「それで、作業着とスニーカーとかじゃなくて、みんなみたいなカッコイイやつがいいなー、なんて……」
モジモジと彼を見れば、何やら思案するように腕を組み、そうだなと一言呟くとナマエから視線を外してテーブルに置いた端末をまた操作し出した。
「そうだなって、ウェスカーさん……?」
勇気を出して話してみたものの一言で片付けられてしまい、ナマエはその場に立ち尽くしていた。
否定された訳ではないが、どうとも取れる言葉にナマエは口を尖らせて、ソファに座るウェスカーを見つめた。
「こどもみたいな反応をするな」
「え、見えてたんですか」
「どういう装備が良いんだ」
端末の画面をナマエにも見えるようにすれば、彼女の表情はパッと明るくなり、画面を食い入るように見た。
「座ってじっくり見ろ」
画面をスクロールしながらウェアから防具、靴やグローブ等、いろいろな項目を見ていった。
戦闘する訳ではなく、とりあえずは安全性が確認された地での調査なので、重装備は必要ないのだが、ナマエには関係のないホルスターやガスマスクまで嬉々として調べている。
「おい、お前は何を目指してるんだ」
「あ、つい夢中になって……」
「身軽な方が良いと思うが」
参考にしたい隊員はいるのか、とウェスカーに聞かれればナマエは同僚たちの姿を思い出す。
レベッカの装備はなかなか可愛いと思ったが、自分には恐らく似合わない。
ジルはスタイルが良く、肩パッドだけでもかっこよく決まっているが、ナマエにそれを着こなす自信はなかった。
「この凹凸のない体型をカバーしてかっこよくなりたいです」
真剣な顔で答える彼女にウェスカーは柄にもなく吹き出しそうになったが、一緒になって考えることにした。
自分のような黒いベストを着させても悪くはないと思ったが、黒髪の彼女には色的に重すぎるかもしれない。
自分と違って見た目にも拘りたいのだろうから。
「そうだな、クリスのようなベストはどうだ」
「わ、私に着こなせますかね」
「ちょっと待ってろ」
ウェスカーは、かつて予備にと支給された似たような色のベストがあったことを思いだし、2階の納戸へ向かった。
クローゼットを漁れば、それどころか陸軍時代の制服や装備品も出るわ出るわ。
ナマエが着るにはサイズが大きすぎるが、雰囲気を知るには十分だろう。
ウェスカーは適当な物を両手に抱えてリビングに戻ると、彼女に、試しに着てみろ、とそれらを差し出した。
「うわあ、これ全部ウェスカーさんの?」
「ああ。上に行けば他にもあるが、とりあえずこれだけ持ってきた」
「ありがとうございます!着てみますね」
早速ナマエは服の上から彼のお下がりを着てみることに。
グレーのカーゴパンツにオリーブ色のベストを着ると、ベストはアーマー仕様のため思ったよりずっしりと重い。
コンバットブーツを履けば、全体的にダボダボではあったが、大分様になっていた。
「ベルトポーチもつけるか」
「すごい!こういうのがいいです」
「このままでも悪くないが、少し裾を上げた方が似合う」
この日、二人であれこれ決めて発注した装備が、後日オフィスに届いた。
自分にぴったりのサイズで、且ついつもより格段にかっこよくなった姿にナマエは感激して調査にも数倍熱が入った。
こうして、研究者の彼女も晴れて隊員と同じように特注の装備を身に付けることになったのだ。
[main]