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step by step
survival

自分が拉致されるなんて、映画みたいなことが起こった。
夜遅くまで実験していたことが災いし、良く訓練された男たち数人に襲撃されて抵抗も虚しく誘拐されてしまったのだ。
犯人たちの話から私が研究者だから狙われたことがわかったが、正直、実用化まで程遠い試験管内での研究のため、このようなことは勘弁してほしかった。
多分、技術を横流しさせたかったのだろうが、何故かすぐに本部のようなところには連れていかれず、気を失っているうちに廃墟のような建物に軟禁されていた。
目を覚ました時はもう駄目かと思った。
手足は拘束され、ここまで輸送される前に抵抗して散々脅され挙げ句暴力を振るわれた。
逃げようと思う気持ちは薄れ、希望も感じられず、只この先にされることに恐怖しか沸き上がらなかった。
そのような絶望の中、現れたのがガスマスクを装備したハンクさんだった。
彼の口から出た救出という言葉に、出来すぎてはいないかと感じ、怪我の手当てをされるのが急に怖くなってしまった。
しかし、彼は本当に救出しに来てくれた、私の救世主だった。


「柱の陰にいろ」

脱出中、私たちは犯行を企てた裏会社が送り込んできた連中に何度も遭遇した。
最初は二人組の男で、こちらを見つけるや否や一人が銃を乱射して向かってきた。
私より前方にいたハンクさんは、壁の陰に隠れたようだったが、近づいてくる相手の銃撃音が怖くて身動きが取れないでいた。
段々と大きくなるその音に心臓が痛くなるほど恐怖を感じていたが、突如それは男の呻き声に変わった。
恐る恐る様子を伺えば、乱射男は足を押さえて蹲っている。
しかし、その向こうからもう一人の男が銃を構えて走ってきたのが見えて、私は急いで顔を引っ込めた。
ハンクさんは大丈夫なのだろうかと蹲ってハラハラしていると、銃声と、それに重なるように前者の男の声にならない声、そして先ほどとは異なる銃声がひとつ聞こえ、その後はすっかり静かになった。

「ミョウジ、急ぐぞ」

しゃがみ込んだまま気配を伺っていたら、息ひとつ乱れていない彼がすぐそこに立っていた。
廊下の先には、血塗れの男と、頭を撃たれた男が倒れており私は慌てて目を反らした。
後で聞いた話だが、この時、彼はタイミングを見計らって乱射男の足を撃ち、無理矢理立たせてそいつを盾にしてもうひとりの男からの銃弾を浴びせ、最後に弾切れとなったその男の頭を撃ったらしい。
つまり、彼は銃弾を僅か2発しか使わずにこの場をやり過ごしたのだ。
その後も、彼は最低限の発砲で急所を仕留めたり、ナイフでの接近戦で相手の首の骨をへし折ったりといった神業を難なくこなして私を脱出まで導いてくれた。
改めて、物凄い実力者なのだと思い知らされた。

「もうすぐヘリが到着する」
「あの、私はこの後どうなるんでしょうか……」

装填された弾数を確認しているハンクさんに、不安だったことを聞いてみた。

「検査入院の後、退院したらアンブレラからヘッドハンティングだろうな」
「アンブレラ?」
「私はそこから派遣された。君の研究をアンブレラも欲しがってる」

私は驚きのあまり咄嗟に言葉が出てこなかった。
先にも述べたように、私の携わってる研究は実用化には程遠い。

「でも、どうして?」
「軍事利用への応用を見越してる。これ以上は私も知らない」
「軍事利用、ですか……」

確かに、あの研究が実用化まで行けたら、軍事利用への転用も可能だろう。
しかし、医療用ワクチン生産のための研究をそんなことに使われるのは断固として反対だ。

「もし、そのヘッドハンティング……お断りしたらどうなるんでしょう」
「これだけの事に巻き込まれたんだからな、秘密裏に殺される可能性が高い」

なんと、この窮地を脱しても尚、命を危険に晒されるのか。
私は思わず身体を強張らせた。
選択肢は残されていないということか。

「上に掛け合ってやらんこともない」
「上……?」
「研究がどれだけ現実的なものか判明するまで泳がせておく方が、アンブレラで無駄な資金を掛ける必要がなくなるとでも報告すれば十分だろ」

彼にそうしてもらえば当分の間は目をつけられることがなくなるだろう。
その間に転職なり何なり、今の研究から離れれば良いのだ。
流石に命を危険に晒してまでこの研究を続けていく気にはならない。
私の身体から力が抜けたのがわかったのだろうか、銃の手入れを終えたハンクさんがこちらに向き直った。

「その代わり、対価は用意してもらうからな」
「お金、ですか?」
「さあな。私の気分で決める」

救世主だと思ったその人は、再び私が身体を強張らせるのを見て楽しむような口振りでそう言った。


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