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難信号
火傷

久しぶりの連休二日目の朝をくつろぎながら過ごしていた。
エイダは朝から仕事のため今日は夜までいない。
このところ大分忙しかった私はレオンさんのことも頭の片隅に追いやられていて、あまり気にしないようになっていた。
何より、アシュリーと会う時間すらなかったので、則ち彼とも以前飲んだ日より遭遇せずに済んでいたのだ。
ソファに身を沈めて雑誌を捲っていると、携帯端末が着信を知らせて震え出した。

「クレア?」
『もしもし、ナマエ?』

着信相手は幼馴染みのクレアだった。
お互い大学生になってからは、忙しかったがこうして連絡を取っては予定を合わせて会っている。
しかし、今日は突然の電話だ。
どうしたのかと聞けば、彼女に今日の都合を尋ねられた。

「今日は暇人だよ、ごろごろしてた」
『珍しいわね。もしよかったらこれから家に来ない?』
「え、遊びに行っていいの?」
『もちろんよ。実は兄さんが庭でBBQやるって昨日から張り切ってて』

突然の誘いだったが、BBQなんていつぶりだろうか。
気持ちも高ぶり、私はすぐにオッケーの返事をした。
たまには賑やかなのもいいなと思う。

「すぐ着いちゃうけど、もう行っても平気?」
『ええ、準備は兄さんが全部やってるから。手ぶらで来てね』
「ありがと、じゃああとでね」

通話を終えると、エイダにメールを入れて支度を始めた。
食材はきっとクリスがもう買っているだろうし、お酒のことはわからない。
それに、ジルも一緒と言ってたので彼女が選ぶはずだ。
手ぶらで良いと言われたけど、何か良い物はないかと考えた結果、カップアイスの詰め合わせを買って行くことにした。


自転車を走らせレッドフィールド家に到着すると、すぐにクレアが出迎えてくれた。

「久しぶりね」
「ほんと!今日は呼んでくれてありがとう」

保冷剤で少し重くなったアイスの入っている袋を手渡せば、クレアは嬉しそうに受け取ってくれた。

「わざわざありがとう、後で皆で食べましょ!」

部屋に荷物を置いて、私たちは早速庭に向かった。
もうすぐクリスたちは食材を持って帰ってくるらしい。
彼女曰く、食材の準備もクリスがやるらしく客人は寛いでいて構わないとのことだ。

「兄さんってば急に言い出すから」
「でも全部お膳立てしてくれるなんて優しいじゃん」
「まあね、ジルがいるからいいとこ見せたいのよ」

肩を竦めるクレアに私も思わず笑ってしまった。
庭に行くと何故かこども用のプールに水が張られており、まさか入るわけでもないだろうと思った私は咄嗟にクレアに用途を尋ねた。

「ああ、これね」
「わっ!」

呆れたような彼女が答える前に、私の背中に冷たい水がいきなりかかり驚いて声を上げてしまった。

「命中!」

その声に振り返れば、両手にひとつずつ小型の水鉄砲をもったスティーブが得意気な表情で立っていた。

「俺に背後を取られるなんて、ナマエもまだまだだな」

暫く見ないうちに大きくなったな、なんて呑気なことを考えてる暇などなく、彼は再びトリガーに指をかけて水を飛ばしてきた。

「こういう訳」
「冷たっ。なるほどね、あれ使っていい?」

プールに浮かぶ複数の水鉄砲を指して聞けば、彼女はいたずらそうに微笑んで、思う存分使ってちょうだい、と言う。
その中の一番大きな物を選んで水を満杯にすると、スティーブ目掛けて発射した。

「うわ!でかいの使って卑怯だぞ!」

Tシャツをびしょ濡れにさせた彼を見て、私もふんと鼻で笑う。

「さっきのお返しだよ!スティーブも悔しかったらもっと命中させてみれば?」

それから暫く、彼との水鉄砲合戦が続いた。
最終的に私がホースで水を撒いてスティーブをすぶ濡れにして圧勝したと思ったが、油断したところ肩を押されプールに落とされてしまったので、私も同じように全身ずぶ濡れになっていた。

「随分はしゃいだわね」
「この通りですわ」
「ナマエ、相変わらず大人げねえ!」

手をヒラヒラさせて水を払うスティーブを見てお互い様だよと言えば、彼も笑っていた。
車のエンジンの音に道路の方を見れば、どうやらクリスたちが戻ってきたようだ。

「食材運ぶくらいはしないと。スティーブ、行こう」

クレアが、着替えなくていいのと聞いてくれたが、今は後回しだ。
スティーブと一緒に停車した車に駆け寄った。

「ジル、久しぶり!」
「あら、びしょ濡れじゃないの」

再開を喜びつつ、私を見たジルが何事かと驚いた。
スティーブが視界に入った彼女は納得したのか、風邪ひかないようにね、と言い大量の肉を家へと運んで行った。
私も車内に残っている荷物を取りだそうと後部座席のドアを開けたのだが、信じられない光景に動きが止まってしまった。

「ナマエ、重いのは俺が持つけど……ってレオンじゃん」

いつ来るのかと思ってたら買い出し班だったんだな、と笑顔になったスティーブの声に我に返る。
彼……レオンさんと、私の交際範囲ってどれだけ被っているんだろう。

「ごめん、ナマエ!紹介が遅れたわ。彼、兄さんと同じ職場だった……」
「うん。お久しぶり、です」
「え、知り合いだったの?」

既視感を感じずにはいられないこの流れに、目と目が合ったレオンさんと私は思わず吹き出してしまった。

「今日はよろしくな、ナマエ」
「こちらこそ」

不思議と、以前のような苦手意識は芽生えなかった。
大勢でいるからだろうか。
慣れというのもあるかもしれない。

「それにしても、水でも被ったのか?その格好」
「え、あ、その」
「さっきまで水鉄砲で遊んでたんだ。これ置いたらレオンも一緒にやろうぜ」

スティーブが背後のプールを指している。
彼と私を見比べたレオンさんが笑いで口元を歪めるのを見逃さなかった。
完全にこども扱いされたようだ。
……否めませんが。

「俺は容赦しないぞ」
「げ、ここにも大人げないのがいたよ」
「全員顔見知りなわけね。今日は皆で楽しめそうだわ」

そうだね、と言えばクレアも嬉しそうだった。
きっと私のことを気にかけてくれてたのだろう。
レオンさんと遊ぶのは変な感じがしたが、せっかくのBBQだし気張らずにいこう。
こうして私たちは食材をキッチンに運ぶ作業に移った。


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