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難信号
頭痛

楽しかったし、頂いた夕御飯もおいしかった。
でも、いつもよりとても疲れたのは紛れもない事実。

「あり得ない……」

自宅のあるマンションのエントランスに入り、恐る恐る振り返るとまだそこにはレオンさんがいた。
にこやかに手を振っているが、私は軽く会釈して急いでエレベーターホールに駆け込みボタンを連打した。
上昇する箱の中で今日のことを思い出す。
アシュリーときゃーきゃーするのは本当に楽しいので、思い出しただけでこの心境でも自然に顔が緩んでしまう。
問題なのはあのレオンさんだ。
私はスキンシップが得意ではない。
寧ろ苦手な部類に入るくらいで、初対面の異性に触られるなんて嫌悪感しかない。
自意識過剰かもしれないが、嫌なものは嫌なのだ。
そもそも、私だって彼女一家の厚意でホワイトハウスに入れさせてもらってるのだから中庭までくらいでエスコートなどいらない。
それくらいなら我慢できるが、その後も風が吹いて髪が乱れれば私より先に頭を撫でるわ、器用だとか言いながら指先を触るわ、その度に私の身体は硬直した。
本人のいる手前、夕食の時にはアシュリーに何も伝えられなかったが、有能な割りに馴れ馴れしいというか、女たらしなのではないかという疑念が拭えなかった。
帰りは、これもまたグラハム家の厚意で毎回家まで車で送ってくれるのだが、今夜はその運転手をレオンさんが買って出た。
オフなのだから休んでれば良いのにと思いつつ、結局そのまま送られることになり、アシュリーから住所を聞いた彼は嫌みなくらいの甘い笑顔で運転席について、私も後部座席に収まることになった。
道中は特に会話もなく、それにやや安心していた私は、これまでの疲労と夜の車内の暗さに睡魔に襲われた。
舟を漕いでいた私はいつの間にか寝入ってしまったようで、何度か名前を呼ばれていたのはわかっていたのだが、目を開けられず身体も動かせなかった。

「ナマエ」

着いたと言うレオンさんの声が遠くで聞こえ、自分に起きろと言い聞かせるもなかなか言うことを聞かない。
彼の小さな溜め息が聞こえ、ますます焦るも結果は変わらず。

「そんなに無防備にしてるとキスするぞ」

物騒なことが聞こえ、その瞬間、水中から出た時のように大きく息を吸い込んで目が開いた。

「ご、ごめんなさい、寝てしまいました……」

寝起きの為か、レオンさんのせいかはわからないが、心臓がバクバクして煩かった。
幸い私に意識があったことに彼は気づいていないようで、あからさまに残念そうな顔をしていた。
いや残念そうって、そこおかしいだろう、人の事をからかっておいて。

「なかなか起きないからどうしようかと思ってたんだ」

嘘つけ、という言葉を飲み込み私はすぐに車内から降りた。
そして、余計なことは言わずお礼だけ述べると、出来るだけ不自然に見えないよう且つ急いでマンションへと帰ってきたのだ。
思い出しただけでも腹が立つ。
遊ばれてるようにしか思えないし、あの時少しでもかっこいいと思ってしまった自分にも余計に腹が立った。
鍵を開けて家に入ると、一気に疲れが押し寄せてきてそれが顔にも出ていたようだ。

「ただいま」
「お帰りなさい。ここに皺寄ってるわよ」

バスローブに身を包んだルームメイトが自身の眉間に指を宛てて口角を上げた。
洗面所に寄ってから私もリビングに入っていく。
鞄を無造作にソファにかけると、そのままそこに座ってクッションを抱き締めた。

「友だちの所に行ってたんじゃないの?喧嘩でもした?」
「違うー」

彼女は、不貞腐れた私に冷えた紅茶の入ったグラスを渡してくれた。
半分程を一気に飲んで、一息つく。

「世の中碌な男性がいない」
「そうかしら?」
「そりゃエイダは美人だからいい人が寄ってくるけどさ……ってことは私が変だから周りも変なの!?」
「そんな訳ないでしょ。そしたら私も変人ってことになるわ」

クスクスと笑みを溢す彼女は風呂上がりなこともあり、一層妖艶な雰囲気だった。
これは私には絶対真似できない、持って生まれた美貌だろう。
同じ血が少しでも流れてるっていうのにこの差は悲しい。

「ねー、エイダ。これ見て」
「綺麗に塗れてるじゃない。ナマエが自分でしたの?」
「そう!」

姉のように慕う再従姉妹に甘えている姿は絶対に誰にも見せられない、と思いながらもやめられない。
外でそれなりに気が張っている分、どうも家ではこうなってしまうのだ。
エイダも本気で嫌なら相手にしてくれないと思うし、今はこの状況に甘えていよう。
レオンさんのことでイライラしていたが、気持ちもすっかり落ち着いて私もお風呂に入ることにした。


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