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※元ネタは'12年USJハロウィンホラーナイトです。原作とは異なります。


工場見学にハマっていた私たちは、大企業製薬会社のアンブレラの研究施設に来ていた。
見学者は他にもたくさんいるのだが、今その表情は皆不安そうだ。
何がどうなってこんな状況になったのかよくはわからなかったが、施設内で感染者が出たとかで現在特殊部隊による封じ込めの除染作業が行われているらしい。
その間、私たち見学者は別の部屋に移されて隔離された状況なのだが、警察を呼んで保護してほしいくらいだった。

「ねえ、どうなっちゃうのかな。私たち、感染してるのかな……」
「わかんない……でもアンブレラは大きい会社だし、ちゃんとしてくれるんじゃないかな……」

素人の考えに縋るしかないこの非常事態。
待たされている間にも不安は募り、1分1秒が酷く長く感じられて仕方なかった。
しかし、それはこの場にいる誰もが同じで、この人数の割に広い部屋で誰もが離れることなく身を寄せ合っていた。
解放されるのは今か今かと耐えていたところ、突如見学者の集団の中心から悲鳴が上がった。
その瞬間、中心から離れるようにサッと人々が後退し、何事かとざわめき出した。
私は何が起こったのか全く分からず、中心から一番離れたところで懸命に背伸びをして事態の把握に努めた。
見ると、リュックを背負った年代の変わらなそうな女性が、頭を抱えて苦しそうな声を出している。
持病の発作か何かだろうか。
しかし、誰も近寄ろうとはしない。
助けたほうがいいのか、と良心が訴えたが次の瞬間それは恐怖へとすり替わった。
女性が、叫び声とも言い難い大きな呻き声を出して身体を抱きかかえるようにして両腕を掻き毟り始めたのだ。
そのうめき声の中、時折「熱い」とか「痒い」といった単語が聞き取れる。
一体どうなってしまうのだろうかと思い、必死で辺りを見回していたら、この部屋の入口からヘルメットにガスマスク、防弾ベスト等で完全武装した恐らく特殊部隊の人がふたり入ってきて、人々は余計にパニック状態になった。
特殊部隊の人たちは何も言わずに、呻いている女性を無理やり拘束して誰かが何か言う猶予も与えず部屋から出て言った。
半ば引きずられるようにして連れて行かれたあの女性はどうなってしまうのだろうか。
これは感染者がこの中に紛れ込んでいたということなのか。
嫌な汗をかきながらも疑問は尽きない。
この状況に、先程まであれだけざわついていたこの部屋がしんと静まり返り息が詰まりそうだった。
働かない頭をどうにかしたいと必死に考えていると、先程の特殊部隊の人たちが戻ってきた。
私たちも連行されるのだろうかと身構えたが、どうやら違うらしい。
マスクのせいでくぐもっているが、「感染者は隔離した。これから念のために別室へ移って検査を行う」と言っているのが聞き取れた。
それを聞いて周囲の人は安堵の表情を浮かべ、私も同じように緊張が少し抜けたみたいで溜息をついた。
まだ説明を続けている特殊部隊に注目している人々。
私は更なるありえない出来事に心臓がギリギリと締め付けられ、再び息を飲んだ。
音も無く開いたドアから、先程の女性が足を引きずるようにして入ってきたのだ。
何かを求めるように伸ばされた両腕は人の肌とは思えないような色をしており、腹部は血まみれで頭はだらしなく首の上で不安定に揺れていた。
人々もそれに気づいたようで、得体の知れない感染者と思わしき女性に皆真っ青な顔になった。
その異変に気付いた特殊部隊の人が後ろを振り返るのと同時に、女性が隊員に掴みかかった。
大柄な隊員と小柄な女性が揉み合いになっている。
もうその女性は人間じゃない。
もうひとりの隊員は、仲間に弾が当たってしまうのを恐れて中々トリガーを引けないでいる。
こんな光景、見ていたくなかった。
その時、別の入口が開き、「ここから避難するんだ!」という大きな声がした。
誰かが助けにきてくれたんだ。
そう思ったのはいいものの、その声に誘導された見学者の人々が信じられないぐらいの勢いでその逃げ道に殺到した。
人の波に押しのけられ、思うように動けない。
横を見ても一緒にいた友だちも見当たらなかった。
思い切って、人々を押しのけて感染者のいる場所へ行こうとしている助けに来てくれた警官らしき金髪の人の後に続いた。
そうしたら、人の群れから抜け出すことができ、急いで友だちはいないか目を凝らして探した。
すると、押し合いへし合いしている出口の近くで友だちがこちらを向いてオロオロしているのが見えたが、そのまま人に飲まれてしまい流れに逆らうことはできなかった。
追いかけなきゃ、と思ったが背後から聞こえる苦しそうな声に思わず振り返ってしまった。
見ると、あの警官が感染者に馬乗りにされ今にも噛み付かれそうになっていた。
驚いた私は、友だちの元に行かなければと思う一方で身体が動かせなかった。
どうしよう、どうしよう、助けに来てくれた人がやられてしまう。
ドクドクと脈打つ心臓の音が嫌という程聞こえる。
竦む足を動かせなくて泣きたくなった。
どれくらいの時間が経ったのだろう、その時、警官が感染者を振りほどき、その勢いで後ろに倒れかかった感染者を、上体を起こした彼は何の躊躇もなく打ち抜いた。
そして、感染者はそのまま背中から倒れ、動かなくなった。
初めて見る発砲に私は遂に放心状態になった。
残っている見学者はもういない。
隊員ふたりは立ち上がった警官に会釈をして出口へと駆けていった。
サラサラの金髪を揺らして振り向いた彼の表情は、険しいものから驚きに変わった。

「大丈夫か、どこか怪我でも」

そう言って駆け寄って来てくれた彼に思い切り首を横に振った。
恐怖で足が竦んだ自分を恥じた。

「よかった、それなら早くここから避難しよう。恐かっただろう、もう大丈夫だ」

当たり前のように、その人は中腰になって頭に手を置いて微笑んだ。
その笑顔に、私の身体にふっと体温が戻ったような気がした。

その後、無事に避難できた私は友だちとも合流することができた。
友だちとは、今後もし一緒にいる時に何かあったら絶対に手を離さないでいようと決めた。
正直、この日のことはあまり思い出したくない。
アンブレラに対する印象も最悪になった。
絶対にここの商品は使いたくない、という程に。
一方で、街中で警官を見る度に助けてくれたあの人を思い出してしまう。
防弾ベストにはR.P.D.と書いてあったけど、交通の便は悪いし、何しろあんな目に遭ったラクーンシティへ行くことはもうないだろうから、この先会えるとも思えない。
ただ、彼にとっては救助者のひとりに過ぎなくても、私にとっては救世主に変わりない。
現実的にはどう考えても無理でも、もう一度会いたいという思いが募るのはどうしようもないことだった。
名前を聞いておけばよかったなあ。


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