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Halloween2

ウェスカーの部屋を出て廊下を歩いていると、窓から外が見えた。
元々が美術館だったため、建物以外の敷地も広く、外では署員たちが自前の衣装を着て披露し合っていた。
それを見たナマエはカルチャーショックを受けつつも、徐々に自分の格好を受け入れ始めていた。
前を見れば吸血鬼にマッドサイエンティストがいる。
横には小さなアリスだっているのだ。
今日はこの格好で楽しもうと決めた。

「諸君、日本からの客人ナマエだ」

S.T.A.R.S.の部屋に派手な装飾はされていなかったが、その場にいた隊員たちも漏れなく本格的な衣装に身を包んでいた。
ウェスカーが、ジルの親戚であること等、簡単に彼女の紹介をする。
ナマエが「よろしくお願いします」と頭下げると(それに合わせて猫耳も垂れた)、彼が今度は隊員の紹介を始めた。

クリス・レッドフィールド ―半裸で毛皮のようなもの羽織った狼男の彼が、片手を挙げた。
バリー・バートン ―クリスと合わせたのだろうか、猟師の格好をした彼は笑顔で帽子を取った。
ジル ―肩を出した魔女の格好をしている彼女は手を振って微笑んだ。
レベッカ・チェンバース ―メスが仕込んであるレッグポーチを身につけたナース姿の彼女は笑顔で小さく会釈をした。

「他の隊員は出払ってるな。追々紹介しよう」

こうして警察署でのハロウィンパーティが幕を開けた。
日が傾いた頃には近所の家族連れなども警察署のホールに遊びに来るらしい。
シェリーはウィリアムと共に母親のところに行くと言って部屋を後にした。
お菓子を一緒に食べる約束をするのも忘れなかった。

「ナマエ、可愛らしい格好じゃない」

のんびり揺れる尻尾を眺めながらジルが言った。

「ほんと?ジルはスタイルいいから何でもかっこよく決まるね」

そこへ、3人分の飲み物を持ったレベッカがやってきた。
衛生要員というだけあって、ナースの格好は彼女にぴったりだ。

「どうぞ」
「わあ、ありがとう!」
「ナマエさん、ふわふわで可愛いですね」
「て、照れるな……可愛い子にそんなこと言われたら」

耳が激しく動いているのを見て、ジルもレベッカも思わず吹き出してしまった。
猫耳と尻尾の動きは、ナマエの感情をよりわかりやすくしている。

その後は、クリスやバリーも交えてたわいもない話をしていた。
日本ではハロウィンパーティが主流でないことから始まり、各隊員が持つカスタムモデルの銃を見せてもらったり、吸血鬼姿のウェスカーが怖かっただの似合いすぎだの言いながら時々お菓子をつまんでは時間が過ぎていった。

「ジル、デリバリーってもう頼んであるのか?」
「もうお昼だから届くはずだけど……、こんな日だから注文が殺到してるのかもしれないわ」

お腹が空いたクリスが狼の吠える真似をして皆を笑わせていると、誰かが後ろ向きで部屋に入ってきた。

「昼食だ……誰か手伝ってくれ」

見ると入ってきた人は大量のピザ入りの箱を抱えてふらついているではないか。
確かにこれでは正面を向いてドアを開けられる状態ではない。
執事の格好をしているために誰かに仕事を押し付けられたのか、階段を上って来るのはさぞかし大変だったであろう。
ナマエは急いで不安定な彼の元に駆け寄った。

「大丈夫ですか」

適当に近くのデスクの上に場所を作り、彼を誘導する。
そこへ無事に積み上がったピザの箱を置くと、彼は安心したように一息ついた。
顔を上げた彼を見るナマエの動きが止まる。
そして、耳はピンと立ち、尻尾は今までの比ではないくらいの勢いで左右に揺れている。

「れ、レオンさん!」

あまりの大声に、空腹の彼らの視線がデスクからナマエに移る。

「ああ、この前の、えーと」
「今更ですが、ナマエと申します!私、ちゃんとお礼も言わないで……!」
「お礼?言ってくれただろう」
「いや、えっと、そうじゃなくて……何と言いますか……」

突然のことで、上手くことばが出てこない。
しかし、相変わらず尻尾だけは懸命に振っている。

わかりやすすぎる……

事情を知らないS.T.A.R.S.隊員だったが、心の中でそう突っ込まずにはいられなかった。
それに、執事姿のレオンと、メイド服のナマエは絵になっており、皆、注目していた。

「また何か困っているのか、ナマエ」
「あの、今日もしかしたら会えるかと思ってお礼の品を持ってきたんです」

彼の話している内容は冗談めいていても、眩しい微笑みに目が眩みそうだった。
それをぐっと堪えて伝えるが、顔は真っ赤で身体も熱い。
そして、本人は気づいていないだろうが、耳はせわしなく動き、尻尾は真上に立っていた。
恐らく、緊張しているのだろう。

「あ、でもウェスカーさんの部屋に荷物と一緒に置いてきちゃって……」

どこだったっけ、と小さく呟いたナマエの声をレオンは聞き逃さなかった。

「一緒に行こう。また迷子になったら大変だろう、子猫ちゃん」

笑いながら耳を撫でるレオンに、ナマエは俯くしかなかった。
こんなに綺麗な顔をして話も上手なんて反則だ、なんて言えやしない。
一方、何も言わない(言えない)彼女を黙認を受け取ったのか、レオンはそのままナマエの手を引いて部屋を後にした。
残された隊員達は何とも言えない微妙な空気に。

「ジルさん、ナマエさんとレオンさんって知り合いだったんですか?」
「私も初耳よ」
「それにしてもわかりやすい反応だったな」
「あんなの見せられたら腹いっぱい……いやいや、せっかくレオンが持ってきたんだ。昼飯にしよう」

気を取り直したクリスの一声により、ピザはS.T.A.R.S.が美味しく頂いた。
そして、ナマエにとって初めてのハロウィンパーティは、お菓子より甘い一日になった。


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