本場のハロウィンは凄い。
街、いや国中がお祭り状態なのだろう。
ラクーンシティに遊びに来ていたナマエは、親戚であるジルに連れられ彼女の職場で開かれているパーティに来ていた。
既に多くの職員が仮装をしており、それを見てナマエもわくわくしていた。
「ねえ、ジルも着替えるの?」
「もちろんよ。隊長があなたの分も用意しているわ」
「本当に!?」
歓迎されているように感じて、ますます嬉しくなる。
これからその隊長に挨拶に行くということでジルの後ろを付いて歩いていた。
しっかりした造りのドアをノックすると、中から「入れ」という声が返ってくる。
「ウェスカー、以前話した通り今日は親戚のナマエを招待したわ」
「はじめまして」
部屋に入ったナマエは、椅子に座る隊長の姿に驚いた。
ジルが、隊長が衣装を用意していると言ったのを聞いて、勝手にムキムキで気の優しそうな中年男性を想像していたのだが、目の前には金髪のオールバックに黒いサングラスという近寄りがたい印象の人物がいる。
加えて、既に彼も仮装をしていて、口元から覗く鋭い八重歯と黒いマントから推測するに吸血鬼の格好をしていた。
ナマエは、少し怖いがこんなに似合う人もいるんだな、とじみじみ思いながら自己紹介をした。
「ジル、彼女に衣装を手配するから先に着替えていろ」
「ええ。じゃあナマエ、後でね」
「え!?」
いつもと変わらない笑顔でジルは部屋を出て行ってしまった。
彼に任せて大丈夫だと判断したのだろうが、ナマエにとって初対面の人とふたりは少し居心地が悪い。
「あの……」
「そう固くなるな。そこのソファにでも座って待っていてくれ」
ナマエはややビクビクしていたが思いのほか普通の人のようで、彼の指示通りソファに座って大人しくしていることにした。
座って彼の様子を伺っていると、内線で誰かに連絡をとっているようだ。
電話の向こうの誰かといくつかことばを交わし受話器を置くと、ウェスカーは彼女に視線を向ける。
「ナマエ、今日は楽しんでいってくれ。衣装も直、届く」
「こちらこそご親切にありがとうございます。こんなに賑やかなハロウィンは初めてなので浮かれてしまいます」
無邪気な笑顔を見せるナマエに、彼もサングラスの奥で目を細めた。
隊長専用のこの部屋にも外の笑い声が聞こえてくる。
その時、先程ナマエも通ってきたドアが勢い良く開いた。
「ウェスカー!持ってきたよ」
その大きな声に驚いてナマエが振り向くと、そこには血濡れの白衣を羽織った男性と、絵本から飛び出してきたようなアリスの格好をした女の子が立っていた。
「あ、あの……!」
「ああ、待たせたね。君がナマエかい?」
朗らかな表情に似合わずスプラッターな格好をしていたので戸惑ったが、求められた握手に自身も手を差し出す。
お互いに自己紹介を済ませると、彼はナマエに紙袋を渡した。
「ウィリアム、間に合ったのか」
「もちろんだよ。成果はシェリーで検証済みだ」
ナマエは何の話なのか見当がつかなかったが、衣装を貸してもらってそわそわしていた。
それに気づいたウェスカーが、彼女を部屋の奥の小部屋に案内し、今日一日自由に使っていいと言った。
これなら余計な荷物を持たずにいられるので、だいぶ楽になる。
彼らに礼を言って、ナマエは早速着替えることにした。
ふと、後ろに気配を感じたと思ったら、シェリーが付いてきている。
「ナマエ、私も一緒にいてもいい?」
「うん、もちろん。シェリーのその服、とっても似合ってる!本物のアリスみたいだよ」
「えへへ、ありがとう。パパが作ったやつ、初めてだと付けるのが難しいから手伝うね」
「……?」
着替えるだけだと思っていたナマエは、シェリーのことばを不思議に思って紙袋の中を覗いた。
暗いグレーの落ち着いたメイド服の下と一緒に入っていたのは、真っ白な毛色の猫耳カチューシャと尻尾だった。
メイド服を広げてみるとご丁寧に尻尾用の穴まで空いている。
なんじゃこりゃ、と叫びそうになるのを堪えて恐る恐るシェリーの方を見ると、にこにこしながら着替えるのを待っている。
付けない訳にはいかなかった。
「きつくない?」
「大丈夫。……ていうか、変じゃない?」
「何言ってるの、ナマエにぴったりだよ!」
シェリーの笑顔を信じていいのだろうか。
顔には出さないが少し不安になった。
それと同時にふわふわの耳と尻尾が垂れる。
「あ!今これで大丈夫かなって思ったでしょ」
「え、なんでわかるの」
ぎくりと肩を揺らせて問えば、彼女は小さいながらも仁王立ちになる。
「これはね、脳波と連動して動くようになってるの!ただのオモチャじゃないんだよ」
「そうなの!?シェリーのパパ、すごすぎるよ……」
満足気に言うシェリーに圧倒されつつ、ふたりは小部屋を出た。
ウェスカーとウィリアムは何やら談笑していたが、彼女たちに気づくと「おお」と声を上げた。
ウィリアムはシェリーに負けず劣らず絶賛するわ、ウェスカーは珍しい物を見るようにじっくりと観察するわで、ナマエは恥ずかしくて堪らなかった。
頭の上で耳が不安気にパタパタと動いている。
「服のサイズも小さめにしてよかった。こっちの女性とは骨格も違うからな」
「そうだね。ちゃんと感情に合わせて耳と尻尾も動いてるようで安心したよ。それにしてもよく似合ってる」
「ああ」
「早くみんなに見せに行こうよ!」
いい歳をしたおっさんが若い女性を囲んでいるのはなんともいえない画だが、少女の一言で一行はジルたちがいるであろうS.T.A.R.S.隊員の部屋へ向かった。
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