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バーグリーン
Chapter1-1 2

ガナードのいなくなった農場で鶏を追いかけていたら、大統領令嬢を捜索している最中なのだとレオンが教えてくれた。
落ちていた卵を拾ってリュックに入れて彼の姿を目で追っていると宝を見つけたようなので、受け取ってそれもリュックにしまっておいた。
門を押して次の場所に行けば、あの怪しい標識があった。
レオンは「またか」と呟いて私を見た。

「ナマエ、走るのは得意か?」
「胸を張って自信がないと言い切れます」

あんなデカイ岩から逃げられる訳がないと思ったので正直にそう言ったら、レオンはやはり呆れたような表情をした。
その時、頭上に突き出した崖の上から聞きなれない言葉が聞こえた。
ガナードだ、そう思ったら身体が浮き上がった。

「しっかり掴まってろ」

レオンの肩に担がれていることに気付いた私はパニックになった。
太股を右腕でガッチリ固定されているとはいえ腰から上は不安定で、掴まれと言われても握れるような物はどこにもない。
轟音と共に岩が崖を落ちてくる。
レオンが走り出すと上体はグラグラ揺れて今にも投げ出されるのではないかと恐ろしくなった。
しかも、顔を上げれば大岩が目の前に迫っている。

「うわああああ!レオン!岩!」
「わかったからじっとしてろ」
「潰されっ……うが」

間一髪の所でレオンが脇に避け、岩の下敷きになるのは免れた。
足手まといで本当にスミマセン。

「こ、恐かった……」

胸に手をあてて自分を落ち着かせていると、レオンはもうトンネルの方に行ってスピネルを取っていた。
急いで追いかけると、静かにするよう制される。
そうだ、この先にはダイナマイトを持ったガナードがいる。
気づかれないようにギリギリまで近付き、私たちは茂みに屈み込んだ。
レオンと近くておいしいです。

「俺が先に行って様子を見てくるから、ナマエはここに居てくれ」
「わかった。あの……トラップとか、あるかもしれないから気を付けてね」

トラバサミや感知式の爆弾を思い出した私がレオンにそれとなく気を付けるように伝えると、彼は返事の変わりに私の頭をくしゃりと撫でて行った。
やることが一々決まっていてズルいと思う。
爆発音が聞こえて、そんな浮わついたことも考えていられなくなった。
地面が揺れる程の衝撃に私は身を固くしてレオンが戻ってくるのを待った。

「ナマエ」

名前を呼ばれて顔を上げれば、掌にステインを乗せた彼の姿があった。

「これも頼んだ。あっちに家屋があったから入ってみよう」

ズタズタになった物置を横目に、私はレオンに付いて無人の家屋へと足を踏み入れた。
相変わらずトラップがあったりでひやひやしたが、そんなに広くない家の捜索はすぐに終わった。

「この音はどこから聞こえてくるんだ……天井裏か?」
「あの棚の後ろ、まだ部屋があるみたい」

レオンの背後を指差して告げると、彼はその棚を押して部屋に入れるようにしてくれた。
部屋にはドンドン、と音を立てる箪笥がポツンと置いてあるだけだった。
無人の家屋に音を立てる箪笥は不気味だか、中に人が入っていると考えるとなんともシュールだ。
レオンが警戒しつつ近付き箪笥を開いた。
重力に逆らえず床に転がったのはラテン系の男性。
痛そうなレオンのガムテープの剥がし方に少しだけ同情した。
でも、もうすぐ村長がやってくるはずだ。
ふたりがタバコだガムだのやりとりをしている最中、私は外の気配を伺っていた。
床が軋む音が徐々に近づいてくる。

「レオン!誰か来たよ!」

私の言葉に、彼……ルイスは慌てた様子でここのボスだと言った。
部屋に入ってきた村長の大きさに、私は気が遠くなりかけた。
なんて巨漢なんだ。
その巨大な身体にも怯まず、レオンは蹴りを入れる。
しかし、この攻撃は片手でかわされ、却ってルイスに向かって投げ飛ばされてしまった。
そして、ふたりは気を失った。
村長は私をまじまじと見る。
何をされるのかわからない恐怖で身動きひとつ取れずにすくんでしまった。
腰の抜けた私を戦力外だと判断したのか、村長は部下の村人ガナードにわからない言葉で指示をしてレオンたちを拘束し始めた。
私はガナードに組み敷かれ口と鼻を布で塞がれると、抵抗も虚しく意識を失ってしまった。
力ずくで気絶させられないで良かったけど、きっと私もプラーガを植え付けられるんだ……。


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