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バーグリーン
Chapter1-1 1

犬の散歩をしているおばあちゃんたち、交差点で曲がってくる軽自動車、駅までの緩やかな上り坂。
今日もそんないつも通りの朝で始まる、はずだった。
リュックを背負い、玄関に座り込んでブーツを履く。
出かけようと立ち上がると、咄嗟に目眩がして頭の奥の方に鈍い痛みが走った。
反射的に目を瞑ってドアにもたれてその痛みに耐える。
突然のことで困惑したし、中々痛みは引いてくれない。
そのまま手探りでドアノブに手を掛けてドアを押しやり外に出ると、呆気ないほど頭が軽くなった。
安心して目を開けると、そこは私の知っている見慣れた庭などではない、見たことのない場所だった。
目の前の広場を囲むように両脇には木造の民家があり、時折家畜であろうか牛と鶏の鳴き声が聞こえてくる。
そして何よりも身の危険を感じたのは広場の中央で燃え盛る炎の中に人が吊るされている光景だった。
私は、先程自分が思ったことを訂正しなければならない。
これは見たことのない場所なんかではなかった。
むしろ、良く知っている……。
嘘でしょ、と小声で呟けば自分の声が震えているのに気付き、声を発したことを少しだけ後悔した。
絶対に有り得ないことであろうが、もし私の考えが正しければ、今立っているのは、教会に通じている施錠された扉の前。
この静けさから、既に教会の鐘は鳴り村人たちはそこへ向かったと言える。
もしかしてもしかすると、彼はサポーターと無線中だったりするのだろうか。
恐る恐る横歩きして、中央の炎の向こう側を見るために移動してみた。

「……了解」
「……!!」

思った通りの光景に私は息を飲んだ。
驚きの余り危うく彼の名前を叫んでしまいそうになって慌てて両手で口を塞いだ。
その時、盛大に砂利を踏みしめる音を立ててしまい、向こうにいる彼が振り向いてしまった。

「ま、待って!」

銃を向けられるのだけは勘弁してほしい。
とにかく両手を上げて丸腰であることをアピールした。
お願いだから撃たないで、と懇願する私を不審そうに見つめながら彼はこちらにやってきた。
どうしよう、こんな状況なのに表情が緩んでしまいそう。

「いつからここにいたんだ……?」

銃を突きつけられさえいないが、言葉と表情から気が張っているのが伝わってきた。
そりゃそうだよね、さっきまで村人やチェーンソー男に襲撃されてたんだから。

「さっき、気づいたらここに」
「俺をからかっているのか」

正直に話したら、余計怪しまれてしまった。
エージェントさん、そんな怖い顔で睨まないでください。
必死になって気づいたらここにいたことと、その経緯(その前は自宅にいたこと)を話すと、信じてくれたかは微妙だが敵としての認識を改めてくれたみたいだ。
この世界のことを知っているってことは、ややこしくなるだろうから一応黙っていることにした。
ていうか、そもそもこの人は本当に……。

「私、ナマエって言います。貴方は?」
「俺はレオンだ」

彼の口から名を告げられると、思わず待ってましたとばかりにガッツポーズをして「レオン!」と叫んでしまった。
よかった、本当にあのレオンだ。

「何がそんなに嬉しいんだ……」

再び訝しげにというか胡散臭そうに私を見る彼。
せっかくこちらを信用してくれていたのに、興奮して墓穴を掘ってしまった。
慌てて「ひとりじゃ途方に暮れそうだったから」と適当なことを言うと、彼も納得してくれたのか、「それもそうだな」とすこし呆れたような笑顔になって言った。
その表情があまりにも綺麗で私は釘付けになってしまったのだが、当の本人はこれから村を抜けるために地図の確認を始めていた。
ドキドキしながら私もそれを覗き込んだ。
何がどう狂ってこんなことになっているのかさっぱり見当がつかなかったが、レオンと出会えなければ命の危機に見舞われていたことだろう。
とにかく足手まといにはならないように気を付けなくては。

「ナマエ、銃の扱いには慣れてるか?」
「はい!……はい?」

突然名前を呼ばれたことにびっくりして、肝心な質問を聞き逃していた。
さっそく迷惑をかけているような気もしたが、気にせず聞き返す。

「銃は使えるか?」
「全く使えない……」

そうだ、この世界では銃や武器が使えてナンボだった。
既になんちゃらフラグが立っていそうだが、そんな縁起でもないこと考えていてはいけないと思って何とか打開策を探した。

「あ、でも、閃光手榴弾くらいなら私にも投げられる!あとリュックにハーブや宝石も入れられるし……」

引きつった笑いでそう言うと、レオンもそれが一番安全だと判断し、彼の持ち物の一部を私に分けてくれた。
さっきみたいに「何で持ってる物を知ってるんだ」なんて突っ込まれたら、今度こそ言い訳できなそうだったので、気にかけず持ち物の共有に移ってくれて実は安堵していた。
これからきっと、あっちの道を通ってまた牛とか鶏がいる所に行くんだろう。
そこには村人もいるはずなので、レオンの邪魔にならないよう余計なことはせずにいよう。
元の世界のことは一先ず置いておいて、今はこの現実を受け入れてアシュリーを助けに行こう。
まだ事の詳細を聞かされてないが、恐らく道中で話をしてくれるはずだ。


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