倉庫と小説兼用 | ナノ





part from daily
final

あれからもう5年も経つと思うと、それまでにいろいろなことがあったと振り返ると同時に自分はその間、成長できたのだろうかと考えずにはいられない。
人との出会いが人生を左右するのは本当なのだとしみじみ思った。

レオンからルイスの死を告げられた時、ナマエはなかなか現実として受け入れることができなかった。
その亡骸を目にしたわけでもないし、ただの音信不通なだけでひょっこり電話でもかかってくるのではないかと思うこともあった。
レオンから聞いたロス・イルミナドスという教団とその目的も何だか別の世界の出来事のようで、現実に起こった事として認識するのは困難だった。
しかし、暫くして気持ちも大分落ち着いた頃、ルイスの遺した研究資料を読んでみてわかったことがある。
それは、レオンから聞いた事は決して自分の知らない場所で起こったことではなく、この世界での事件であったということだ。
プラーガという寄生生物の能力やその応用方法、アリやカタツムリに寄生する生物のメカニズム……彼の研究は教団が村人に行った支配を裏付けるものだった。
ナマエは、プラーガのサンプルがエイダの手に渡ったことも気になった。
彼女の暗躍の後ろにはウェスカーがいる。
T-ウイルスに、ナマエの持つ抗体、そしてプラーガ。
彼は一体何を企んでいるのだろうか。
今となっては、こうした世界の闇に目を向けることができてよかったと思っている。
事態の改善のために、ひとりではできることは限られてくるかもしれないが、今のナマエの周りには心強い仲間がいた。
体内に抗体を持ち、何かと狙われやすい彼女は自衛のための術も身に付けた。
クリスとジルの施す特訓により、体術の能力は飛躍的に向上した。
それに伴い、精神的にも強くなった。
まだレオンたちのようにすぐさま情を捨てることはできなかったが、空港でのエイダとのやり取りによりナマエも以前よりは意を決して立ち向かうことができるようになったのだ。
これからは、自分のような思いをする人をなくすために研究者として生きていこうと決めた。
ナマエは立ち上がって整頓された自室を見渡すと、不安もあったが清々しい気持ちになって家を出た。

「忘れ物はないか?」
「はい。もし気が付いたら自分で取りに戻ります」
「免許、取れたんだっな」

茶化すように笑うレオンをナマエは軽くあしらって助手席に乗り込んだ。

「今日はむくれないのか」

物足りなそうに言えば、ナマエは「またそうやって!」と結局ムキになってレオンを笑わせることとなる。

「パンチしますよ」
「それはそれは痛いんだろうな」
「もう」

馴染みの店に向かっているため、見慣れた景色が通り過ぎていく。
レオンが「牛か?」と言えば「お乳は出ませんよ」と返すナマエ。
信号で停まるとふたりは顔を見合わせて吹き出した。

「いい年して何言ってるんだか」
「ほんとだな」
「今もこうしてレオンさんと話がてきてよかった」

信号が青に変わる。
レオンは丁度良いタイミングで変わった信号に感謝した。
あんなことを可愛らしい笑顔で言われたら、さすがの彼でも咄嗟に上手い返しが見つからなかった。
真に受けた自分に呆れるしかない。

「ナマエは……ルイスの研究を引き継ぐのか?」
「というよりは、自分なりに調べてみようと思ってます。プラーガのこと」
「そうか……」
「他にもやることはたくさんありますし!」

レオンはナマエの今後が心配だったが、自分が任務の度にこの気持ちを彼女も抱いていたのだと考えると素直に応援しようと出かかった言葉を飲み込んだ。
いい加減、過保護になるのも卒業したい。

昼食を摂るために店に到着すると駐車を済ませ(ナマエの「なんでそんなに上手いんですか」というツッコミに、レオンは早くも彼女の運転が心配になった)、中に入ってまだ人の少ない場所を選んで席に着いた。
いくつかのランチセットから食べたいメニューを選んで注文すると、レオンはナマエに視線を向けた。

「本当にここからひとりで……」
「もしかして迷わないか心配してるんですか?」
「いや、そういう訳じゃ」
「バスに乗ってひとりで行きます」

水の入ったコップに口を付けながら、有無を言わせない態度でナマエは言った。
レオンにしてみれば、一緒に昼食をとっていて、車もあるのだから新居まで送っていくことなんてどうってことはなかった。
それに、互いに仕事でまた暫く会えなくなるので、少しでも時間を共有したいのだ。

「送ってもらったら余計寂しくなるじゃないですか」

呟いたナマエにレオンがもう一度聞き返そうとしたところ、ウエイトレスがサラダを持ってやってきた。
今度はタイミングの悪さに泣けてくる。
ナマエはここのドレッシングがお気に入りなので、先程の少し曇った表情が嘘のようにキラキラと嬉しそうな顔でサラダを見つめた。

俺はサラダに負けたのか……

なんとも複雑な心境のレオンだったが、喜んでいるナマエを見てまあいいかと思い、食器を彼女に手渡していった。
サラダのボウルが空になった頃、温かいミネストローネと、レオンにはビーフステーキとパン、ナマエにはポークソテーとライスが運ばれてきた。

「ここの料理はおいしいですね」
「そういえば、結構来てるな」
「じゃあ、今度はお寿司食べに行きません?レオンさん、ツナとかサーモン好きでしたよね」
「ああ。寿司か、ぜひお勧めの店に連れていってくれ」

今度がいつになるのかはまだわからなかったが次の約束ができて、レオンは疲労の溜まる訓練や任務も乗り切るぞと意気込んだ。
美味しそうに食事をするナマエを見てるだけでも元気がでるが、以前、視線を感じた彼女に食べにくいと指摘されてしまい控えるようにしていた。
しかし、今日くらい良いかと思い、一口大に切った豚肉を頬張るナマエを見つめていた。

「また観察……」
「すまん、美味しそうに食べてるから、つい」
「……レオンさんも家で作ると美味しそうにたくさん食べてくれますよね」
「そうなのか?」
「あれ、すごく嬉しいです」

照れ笑いするナマエに、レオンも釣られて内心少しばかり恥ずかしくなった。
意識しないうちに感情が表に出ていたことに加え、それをナマエに見られていたなんて。

「私、レオンさんを振りほどけるようになれて感激してます」
「最初は全然だったからな。まあ今も手加減してるが」
「えー!本気出してって言ってるじゃないですか」
「そんなことしたらナマエの骨が折れるぞ」

たわいない会話をしつつ、食事が進む。
食後のコーヒーと紅茶、そして小さなタルトが運ばれてくるとそろそろ別れる時間だと意識してしまう。
と、いってもいつもより長い間会えなくなるだけなのだが。
それでも、新しい生活が始まるナマエは、それだけで不安でいっぱいだった。

「ナマエの研究、応援してるよ」
「ありがとうございます。レオンさんも、気を付けて任務に臨んでください」

会計を済ませて、ふたりは駐車場に向かった。
車の脇で俯き、ショルダーバッグのベルトを握るナマエの姿に、あの日の彼女が重なる。
今すぐ抱き締めたい。

「レオンさん」

ずっと自分の手の届くところに置いて護りたい……。
そんな衝動に駆られた自分が情けなかった。
できもしない絵空事に堕ちそうになったレオンはハッとした。
彼女はもう、あの時とは違う。
レオンから見れば、まだまだ危なっかしい所や放っておけない所もあるが、着実に前へ進んでいる。
名前を呼ばれ、彼女が差し出した手を見つめる。

「時間と余裕ができたら、また連絡します」
「ああ……待ってるよ」

ふたりは固い握手を交わした。
レオンは車に乗り込み、エンジンをかけると運転席の窓を開けた。

「気を付けて行くんだぞ」
「わかってますって」

白い歯を見せて笑うナマエに、レオンは片手を上げてアクセルを踏んだ。
駐車場から道路へ出ていく彼の車が見えなくなるまで見送ると、ナマエは彼が行った道とは反対の車線にあるバス停へと向かった。
平気なふりをしていたが、本当は握手をした時、心臓が張り裂けそうだった。

やっぱり好きなのかな

バスに乗っても、その胸の高鳴りはすぐには治まってくれなかった。
暫くバスに揺られると、目的の停留所に到着した。
そこから少し歩くと、ナマエの勤務地の敷地内に辿り着いた。
新居というのは併設してある寮のことで、今日から彼女はこの寮で生活することになっていた。
明日は朝から研究所の部署への配属で忙しい。
予め渡されていたIDカードを取り出して寮の中に入りエレベーターに乗り込んだ。
ここが新しい家だと思うと、着いたばかりなのにもう愛着が沸いてくる。
廊下を進み言われていた角部屋のドアノブの前で、またカードを翳すと解錠の音がした。
中に入ると、送っておいた荷物が綺麗にリビングの壁際に積まれていた。
これから少しずつ片付けていこうと思い、バックをテーブルに置くとカードを持ってもう一度廊下に出る。
引っ越しといえば、近所への挨拶だ。
ナマエはドキドキしながら向かいの部屋のドアをノックした。
間もなく、そのドアが内側に開かれる。

「向かいに越してきたナマエです。ジルさん、これからよろしくお願いします」
「ナマエ!待ってたわ!」

就活を経て、大学で修論発表と修論の提出を終え無事に修士課程を修了したナマエは、対バイオハザード私設部隊組織に所属することにしたのだ。
研究者としての新たな生活が彼女を待っていた。


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