倉庫と小説兼用 | ナノ





part from daily
Kennedy・report_3

持ち前の集中力で何とか昼過ぎには報告書を提出することができた。
上の受け取りが確認できたところでサポーターから休暇の知らせを受け、本部から出て遅い昼食を取るために車にキーを差す。
いつもなら通い慣れた近くのベーカリーでサンドウィッチでも買って家に帰るのだが、今日は違う。
ナマエに会うために大学へと行くのだ。
彼女には結局連絡を返さないでいたので、今日、研究室にいなかったらどうしようもないが、その時はその時で改めてきちんと連絡を取って会おうと思う。
やや自己満足の領域に達している自覚はあるが、とにかく彼女に会いに行きたい。
そして、今日は少しでもナマエの学んでいる環境を知りたくて、構内で彼女のコアタイムが終わるのを待とうと思っていた。
小一時間程かけて大学に向かい、以前のように正門近くに車を寄せると出入りは自由なようでそのまま道路に沿って敷地内に進入した。
守衛室の前に立つ警備員に声をかけると、許可証の発券が必要だったので、必要事項を記入してそれを受け取ってから駐車場まで向かった。
構内は広く、総合大学なので各学部の棟が点在しており道路や歩道もあちこちに伸びていた。
駐車して車から降りると、看板になっている敷地内のマップを見て農学部棟を探した。
確認して暫く道なりに歩いていると、坂の向こうに建物が見えたので目を細めてそれを見上げた。
建物の入口に到着すると、高台のそこからは眺めの良い景色が見えて、ナマエはいいところで研究に励んでいるんだと思った。
ここまで来るのに何人かの人とすれ違い、学生と思われる人はなんとなくわかったが、ある程度の年齢の人は職員なのか外部の人なのか区別がつかなかったので、自分がいても恐らく違和感はないだろうと気にせず歩みを進めた。
エントランスに入って案内を目で追うと、学部生が授業を行うフロアに食堂があるのがわかったので、そこで昼食をとることにした。
棟内はやや入り組んでおり、初めて訪れた人では迷ってしまいそうな造りだったが、案内も見てあるし初見の場所の詮索は慣れていたので迷うことなく食堂まで辿り着くことができた。
食堂の中にはコンビニも併設されていたので、そこで適当にパンと飲み物を買ってカウンター席に腰掛けた。
昼時だったらもっと混雑しているんだろうと思いながら、パンを頬張る。
今、ナマエは研究に取り組んでいるのだろうか。
食堂の窓から傾いた日の光が差し込んでいて少し眩しい。
本当ならすぐに研究室に行って大人気ない対応をとったことを詫びたかったが、今行ってしまえばきっと迷惑(というか実験の妨害)になってしまう。
物思いに耽っていても仕方ないし、さっきのパンだけでは何だか物足りない気もするのでもうひとつ何か買ってみようかと席を立った。
ボーッと商品棚を眺めていると、視界の端に人が動くのが入り、こんな時間でも買いに来る学生はいるんだなと思った。
実験の合間のエネルギー補給だろうか。

「レオンさん……?」

小さなデザートを見てナマエを思い出し、思わず手を伸ばしてしまったっその時、横から懐かしい声が聞こえた。

「レオンさん!え、ちょ、どうしてここに?」

驚いたナマエの声と表情に、体中が血液が巡ったようにじんわりと温かくなった。
よかった、ナマエは今日も研究室だったんだ。

「…それ、買おうとしてたんですか」

手を伸ばしていた商品を見逃していなかった彼女は、まだ何も言っていない俺に更なる質問を投げかけた。
驚きから、すこし緩んだ表情になったナマエを見て、彼女が勘違いしていることが伝わった。
いやいや、確かに買おうとしてはいたが自分で食べるつもりでは断じてないぞ。

「ああ、ナマエはこういうのが好きかと思って」

そう言えば、今度は目を丸くしてまた驚いたようだ。

「ナマエが連絡をくれたから、会いに来たんだ。突然すまない」
「いえ……、私こそ急に連絡してしまってすみません」
「今、時間は大丈夫なのか?」
「はい、2時間程、実験の待ち時間です。お昼が早かったのでお腹が空いちゃって、食べ物を買いに来ました」

彼女は手にした菓子パンと紙パックのジュースを見せた。
それならちょうど良かった、俺も適当なパンを棚から取り、ついでに先ほど見ていたデザート……カボチャプリンも一緒にレジの方まで持っていった。
店員の女性に彼女と一緒に会計をと頼むと、思った通り、ナマエは慌ててそれを拒否しようとした。

「店員を待たせてるぞ」
「う、じゃあ一緒にお願いします」

度々、予測通りの反応をしてくれる彼女が可笑しくて、それが顔に出てしまった。
ナマエは「レオンさんには敵いませんよ」なんて言ってむくれている。
これも予想通り。
少しの間会っていなかったが、彼女は何も変わってしまってはいなかった。
流れでそのままカウンター席まで行き、二人で腰掛けた。
買ってきたパンを食べるでもなく沈黙が続いた。

「……ナマエ」
「レオンさん、この前は突然あんなこと言い出してごめんなさい」

先を越されてしまった。
というより、ナマエが罪悪感を感じることなんてないのに。
どうかその頭を上げて欲しい。

「独りよがりだし、なんにも相談しないで決めて……結果的に成功したからよかったけど、またレオンさんに迷惑かけることになってたかもしれないし……」
「いや、いいんだ。確かに驚いたし、できれば危険なことはしないで欲しかったのも事実だ。でも、ナマエが決めたことだし、感情的にならずに尊重するべきだったと思う」

椅子の上で所在無さげに俺を見つめるナマエに、前と同じようにこうして話ができて不謹慎ながらも嬉しく感じた。
自分の思っていたことも伝えられた。
それに、何よりナマエが今後は俺に相談するようにしてくれるみたいだったので、あの時に受けた言い表せぬショックはもうどこかに吹き飛んでしまった。
多分、今の俺の表情は喜びが滲み出た気味が悪いくらいの笑顔だろう。

「もう黙って何かやったりはしません。相談するのでいろいろと助言をお願いします」
「ありがとう。俺も引き続きできる限りの協力はするつもりだ」
「……」

俺がそう言ったら、ナマエは急に姿勢を正して口を真一文字に結んで瞼を伏せた。
それからは、取り乱したり、涙を流す彼女とは違う何かもっとプラスな雰囲気を感じた。
今までに見たことのない、強さのようなものだ。
一体、どうしたのだろう。

「あの……、私もレオンさんの支えになりたいので、何かできることがあれば協力させてください」

強い意志が宿った彼女の瞳に釘付けになった。
あの事件から、彼女はまた一歩前へと進んだのだ。
未だにトラウマな俺より、よっぽど逞しいと思った。
もう、

「十分支えになってるよ。これからもよろしく頼む」

照れくさそうにはにかむナマエの笑顔がひどく懐かしく感じられた。


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