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part from daily
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レオンは冷静になるためにか、黙って何処かへ行ってしまった。
彼とのことをどうするかは一先ず置いておいて、ナマエは何か言いたげなロイと話を続けた。
ロイは、実験体となるマヌエラに接触を試みようとするナマエを当初は疑っていたらしい。
B.O.W.による事件ともいえる事故が発生した大学にいて巻き込まれたという事実も加わり、政府が勧誘し、レオンの知り合いとはいえもしかしたらアンブレラの人間なのではないかと警戒していたと言う。
彼はそのことに対して素直に謝罪した。
そして、こうも疑い深くなるの彼にも理由があった。

「友人をラクーンの事件で亡くしているんです」

ナマエには返す言葉が見つからなかった。
その友人というのは大学時代の同級生で、ラクーンシティ総合病院で医師として勤務していたと、ロイはやわらかい口調のまま話した。

「アンブレラを許すことはできない。彼の意志を継いで私がウイルスの抗体を完成させてやる。その一心でこの4年間を過ごしてきました」

穏やかな表情に見え隠れしていた揺るぎない思いは、これだったのかとナマエは思った。
そして、改めて自分が巻き込まれている事の重大を思い知ったのだ。

「あの、でもそれなら私の血液を破棄する必要は……」
「いいんです。貴女の言う通り、マヌエラをここに閉じ込めてしまうのはとても人道的とはいえない。人間を実験体にするなんて、やっていることはアンブレラと同じじゃないですか」
「ロイさん……」
「研究に倒錯していましたが、ナマエさんと彼とのやりとりで目が覚めましたよ」

にこりと微笑むロイは、会ったときよりも自然でどこか吹っ切れたようだった。
そして、すぐに真剣な表情になると、再び声を落としてこう述べた。

「しかし、ここの人間がすべてそう思うとは限りません。マヌエラに抗体を投与する許可が下りるのを待っていたら、情報が漏れて貴女の命すら危険に晒されるかもしれない」

従って秘密裏に投与を行い、血液も破棄する、とキッパリ言い切った。
そして、抗体に関しては自力でなんとか完成させてみせるとナマエに誓った。
そうと決まればその後の行動は速かった。
ロイはラボに誰もいないことを確認すると、素早くナマエの血液を採取し、その日は帰宅を命じた。
投与はマヌエラの体調の良い日を見計らい、異変が生じないか常に見ていることも約束をした。
密に連絡を取ることはできないし、いつ投与を実施できるか目処は立たないが、希望は持てる。
まだ、彼女の病状が改善するかはわからないが、ナマエは投与が済んだらまたお見舞いにくると行ってマヌエラとロイの元を後にした。
政府のお膝元であるこの研究所に頻繁に訪れることはできないが、今回マヌエラに会いに行って本当によかったと感じた。
研究所から少し離れた広大な駐車場に、レオンが愛車に寄りかかっている姿が見える。
深呼吸をして、そちらに向かって歩きだした。
その気配を感じたのか、彼が複雑そうな顔で振り向いた。

「レオンさん、今日はありがとうございました」

ナマエは努めていつも通りに接すると、レオンは「ああ」と返事をしただけで運転席に乗り込んだ。
驚かれたり、怒られたり、このような態度を取られるのは当たり前なことだと、胸は痛むが割り切って考えていたのでナマエもその後は黙って助手席に座っていた。
そんな風に高を括っていたのが間違いだったかもしれないが、ナマエの頭の中はそこまでの余裕がなくそれほどに緊張していたのだ。
一方、ハンドルを握るレオンの頭の中では、自分に何の相談もしてくれなかったことに対する悲しさと、家族でもない自分に相談する必要なんてないはずなんだから彼女の選択を黙って受け入れるべきではないか、というふたつの相反する考えがぐるぐると巡っていた。
結局、ナマエの家の前に到着するまで何の会話もなく、レオンは最後に彼女の「ありがとうございました、帰り道気をつけてください」という呼びかけに頷くのが精一杯だった。
彼の車を降りて自宅の玄関に向かうナマエは、一歩足を進める度に身体の緊張が解れていくのがわかった。
ロイさんが味方になってくれてよかったとか、今度マヌエラに会いにいくときは手土産に本やお菓子でも持っていこう等といったことは、上手くいったから考えられることなんだなとしみじみ思う。
レオンのことは、多分もう自分の力ではどうしようもないところまでいってしまったと薄々感じていた。
自身が招いた結果なのに無責任だとも思うが、あのような心ここにあらずな表情の彼を目の前にして自分のしてしまったことの重大さを突きつけられたのだ。
ただ、後悔だけはなかった。
自己満足と言われても、マヌエラにこれ以上自分と同じ恐怖を抱かせたくはなかった。
一刻も早く休みたかったナマエは、スーツを脱いで部屋着に着替えるとベッドに身体を預けて目を閉じた。
レオンに対するこの気持ちは寝て起きて整理されるものではない、そう容易いことではないという心のわだかまりにも、疲労困憊な今だけは顔を背けていたかった。


朗報は、年も明けた2ヶ月後に訪れた。
夕食を済ませたナマエが自室で寛いでいると、携帯電話の着信音がけたたましく鳴り響いた。
発信者の名前を見て慌てて通話ボタンを押す。

「もしもし、ナマエです。ロイさん……?」
「こんばんは、私です、夜分に済みません。明日、マヌエラは研究所を出ることになりましたよ」

いきなりの本題にナマエは息を飲んだ。

「え、本当ですか!?」
「ええ、貴女のおかげです」

嬉しくて、涙が溢れる。
ロイが事の詳細を話してくれた。
彼女に抗体を投与したのは1ヶ月前だった。
根本的にT-ウイルスとは異なるベロニカウイルスだったが、少なくとも抗原は変異していなかったらしく見事に抗体と結合し、ウイルスはマヌエラの体内から除去されたことが確認された。
それに伴い腕の傷は完治し、もちろん痛むこともなくなった。
念のために経過を見て今日まで過ごしていたが何の問題も生じなかったために、今朝、突然彼女の体内からベロニカウイルスが見られなくなったと上に報告し現在に至ったのだと言う。

「マヌエラも貴女に感謝していて、会いたがっています」
「私も嬉しくて……早く会いたいです。でも、明日からはどうする予定になっているんですか」
「研究所の中では私に懐いて心を開いてくれたので、彼女は責任を持って我が家に迎えることにしました。子どもがいないので妻も喜んでいます。それに、もし何か起こったときにはすぐに対処できますし」

これで一安心だ、そう思ってナマエは鼻水をすすりながら相槌を打った。
マヌエラに頼れる大人ができたのも本当によかった。
メイナード夫妻はマヌエラを迎える準備をしているらしく、彼との電話はここでお終いとなった。
携帯電話を置き、ゆっくり息を吐く。
自身の体内の抗体が悪用され一度は投げ遣りになったものの、今回の策が無事に成功しナマエは安心した。
そんな喜びも束の間、一方であれだけ時間を見つけては連絡をとって会っていたレオンからはぱったりと連絡が途絶えてしまった、そのことが頭から離れない。
任務で忙しいということもあるのだろうが、毎回日程や場所を教えてくれてから仕事に発っていった彼が何も連絡をよこさないということは、彼なりに今回のことに思うことがあるのだろう。
ナマエは任務に臨む彼を心配に思う一方で、生きる世界が違いすぎる彼とはこのまま道が重ならず互の方向に進んで行くのだろうかとぼんやり考えていた。
先日、レオンが熱り立ったのはナマエの安全を思っているからなのは誰が見ても明らかである。
そして、その思いの中に「ナマエは自分の巻き込まれた事件を引きずっている」という考えが含まれているのだろうと彼女自身は思っていた。
きっと、レオンにとってナマエが自分を頼るのは当たり前のことで、何でも相談してくれると思っていたのだろう……と。
その思いから、何も言わずに血清を提供するなんて言い出したナマエにあんなに感情的になり、困惑した結果、連絡が取れず仕舞なのだと推測した。
それはナマエも同じだった。
あの日から自分は変わることができたのだろうか。
まだ、自分はひとりでは何もできないのだろうか。

レオンさんは私をどう思っていた?

そんな疑問が頭の中に浮かぶ。
レオンとルイスに守られながら恐る恐る歩いていた自分。
怪物を目の前にしても怯むことなく応戦したレオン、クリス、ジル。
あの日、自分は何をしたのだろうか。
傷の手当なんて誰でもできる……ロケットランチャーの受け渡しにおいては、彼らの方がスムーズにできるに違いない。
そもそも、扱うことができるのだから、受け渡す必要もない。
そして、今回のマヌエラの件。
レオンを通してもらわなければ、会うことも知ることすらもできなかった。
こんなことを考えている時点で、あの日から何も変わっていないのが丸分かりだ。
体内に投与されたウイルスのことも受け入れられたと思ったが、その時もレオンに迷惑をかけた。
そんな自分が情けなくなって、進歩の見えないことに嫌気さえ差す。
レオンにナマエはあの日から変わらず自分を頼って相談してくるだろうと思われても仕方ない。
せっかくロイから朗報を受けて、且つ明日はジルと会う約束があるのに、気分が晴れることなどなくなってしまった。


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