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part from daily
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ジルとクリスに再会した夜、ナマエは二人と連絡先を交換しまた会うことを約束して別れを告げた。
私設部隊の拡大に伴い、こちらに来ることが増えるかもしれないとクリスが話していたが、願わくば何も起こらずにいてほしいものだ。
ジルには、今度会った時にはもっとレオンとのことも話して欲しいと含みのある言い方をされてしまい、変な汗を流す羽目になった。
いつものように、休日が明けて大学に通う平日がやってきた。
彼らに会ったことが酷く昔のことのように感じる。
レオンもまだ任務からは帰ってこない。
ひとり取り残されたような気がして、訳もなく寂しくなった。
皆、自分の道を歩んでいる。
先のことはわからないし、目の前のことをこなすことで精一杯な自分のやりたいことは何だろうか。
レオンの役に立ちたい、なんて子ども染みたことをいつまでも追いかけていても仕方ないのだ。
もっと具体的に、どうすることが役に立つのか考えなくては。
椅子の背もたれに寄りかかって窓の向こうを見つめるナマエに、先日のクリスの言葉が蘇る。
行く時に笑顔で見送って、帰ってきた時も笑顔で迎えてくれることが、隊員の癒やしと安心になる……
彼の言ったことがナマエの頭の中で反芻する。

「そうかもしれないけどさあ……」

大きく溜息を吐きながらそのまま机に突っ伏してしまった。
それだけではナマエの気は済まないのだ。
ジルに相談して話でも聞いてもらおうかと、携帯電話を取り出し思案していると、不意にその画面が光を発しだした。
そこに表示された発信先の名前にナマエは目を見開いた。
レオン・S・ケネディ
しかし、帰還の予定はもう少し先のはずだ。
彼の身に何か起こったのでは、そんな悪い想像が先走ってしまい、すぐに通話ボタンを押すことができない。
数回、深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、出来るだけいつも通りに電話に出た。

「もしもし……?」
「ああ、ナマエ、俺だ」

電話越しに聞こえる落ち着いた彼の声に、ナマエはほっと胸を撫で下ろした。
よかった、彼は無事だった。

「今、大丈夫か?」
「はい」
「あと数時間でそっちに着く」
「え!?」

彼からの申し出は、大抵がいつも突然で、その度ナマエは何事だろうと不安に駆られることも多かった。
できれば前もって伝えてほしいところだが、急ぎ且つ大事な用ほどそうなってしまうのは仕方がない。
彼の役に立てることならなんでもしたいと思っているナマエは、質問の言葉をぐっと飲み込んで了承の返事を告げた。
レオンが来るまでに、今日やろうとしていたことは終わらせたい。
培地を作り、菌を撒き、と頭の中で手順を確認すると、早速作業に取り掛かった。

日も傾いた頃、いつもより早く研究室を後にした。
コアタイム中は基本在室が求められているが、今日の予定は終えているので早退しても大した問題にはならないだろう。
先程受信したメールを再び確認して正門まで急いだ。
顔にまとわりつく髪の毛を煩わしく思い指先で掻き分けると、守衛室の向こうに見慣れた彼の愛車が停まるのが見えた。
待たせては悪いと一気に駆け足になる。
ドアを閉める音が耳に届いた時には、目の前に彼の姿があった。

「任務、お疲れ様でした!」

息を切らしながら言った笑顔のナマエに釣られ、レオンの表情も緩んだ。

「ありがとう、ただいま」
「おかえりなさい」

当たり前のように、ナマエは助手席に乗り込んだ。
始めの頃はシートの高さに戸惑っていたが、今はスムーズに乗り降りができるようになっていた。
そんな彼女の様子を目を細めて見ていたレオンも運転席へ乗り込むとキーを回し、早速ハンドルを握った。

「早かったですね」
「ああ、相棒が腕のいい奴でな」
「疲れてるんじゃないんですか?」
「向こうからの移動中に仮眠をとったから心配ない」

本当は、ずっとレオンの横顔を見ていたかったが、助手席に座った以上車外の様子に気を配らなくてはという責任感が勝り、ナマエは彼から視線を外した。

「ナマエの作った料理が食べたいが……生憎、冷蔵庫は空だ、いつもの店で構わないか」
「いいですよ、料理はまた今度にしましょう」

微笑んでそう返すと、レオンも「そうだな」と笑った。
そのまま何度か来たことのある小ぢんまりとしたレストランに到着すると、すんなりと駐車を済ませて二人は店の中に入った。
レオンはやや重めのグリルを、ナマエはグラタンとサラダを注文し、席に落ち着いた。
店内にはスローテンポの曲がかかっており、時間がまだ早いからかカウンターに座る数人の個人客しかいなかった。

「レオンさんが無事に帰ってきてくれて安心しました」
「もちろんだ、ナマエがいるのにおちおち怪我なんてしていられないからな」

優しい表情で目の前ににいる青年が、想像を絶するような状況で怪物と戦っている姿など誰が思い描けるだろう。
あの出会いがなければナマエにだって信じられない。
しかし、銃を手にして闘うことを選んだ彼を支えるには、まずその事実を受け入れなければならない。

「あの、今回の任務の内容って……」
「ああ……」

彼に求められている守秘義務がどのようなものなのか、ナマエは知らない。
場所が店内だからかもしれないが、レオンは彼女に事の内容を外部に漏れても支障のない言葉を選んで伝えた。
接触した人物が黒だったということを聞いた時は、動揺していたナマエだったが、込み入った事情をレオンが話していくとその表情には徐々に影が落ちていった。
家族を救うためにウイルスの持つ能力を利用したその人物。
不治の風土病を患った自分の妻子の命が尽きるのを黙って見ているか、ウイルスの力を利用して禁忌を犯すか、家族を愛していた彼には究極の選択だっただろう。
そして、自身もまたウイルスに翻弄されて身を滅ぼしたという末路を聞き、やはりあのウイルスで救われる人などいない事が明らかとなった。
暫く運ばれてきた食事を静かに口に運んでいたナマエは、何か気になることがあったようで顔を上げてレオンに問うた。

「レオンさんたちが保護した女の子は今、どうしてるんですか?」
「彼女は……研究対象として保護されたんだ。俺達ともすぐに引き離された」

それを聞いてナマエは絶句した。
両親を失った年端も行かない少女を研究対象として保護したなんて、この国は一体何を考えているんだ。
十分な休養は与えているのだろうか。
精神的なケアは行なっているのだろうか。
まさか、点滴や用途のわからない機械に繋がれっぱなしで常に監視されているなんてことにはなってないだろうか。
自分自身が知らぬ間に研究対象となっていたナマエには他人ごとには思えなかった。
あれこれ考える前に、言葉が口を衝いて出た。

「私、その女の子に会いたいです。どこにいるのか調べてもらえないでしょうか」
「ナマエ…!?」
「私のわがままだっていうのは十分承知してます。でも、頼る大人もいない見知らぬ土地で、研究対象として扱われるなんてあんまりです」

レオンが何か言いたげなのは、ナマエもすぐにわかった。
恐らく、彼女の身を案じているのだろう。
自分から合衆国の監視下に入っていくなんて、飛んで火に入るなんとやらだ。
しかし、彼女の気持ちも理解できないわけではない。
それに、何か起こった時はその時こそ自分が彼女を護り抜けばいい。
そう決めたレオンははっきりと「わかった、調べよう」と口にした。
ナマエは少し申し訳なさそうな表情を見せ、いつものように礼を述べた。
結局、レオンに自分の思い通りに事を運んでもらえるように手引きしてもらうことになったのだ。
本当は、こういった表沙汰にできないようなことも自力でなんとかしたい。
レオンに頼りっぱなしは心苦しいし、プライドだってある。
少しずつ、ナマエの中でその気持ちが膨らみ始めていた。


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