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part from daily
Kennedy・report_2

夕食を済まし、一向に収まらない暴風雨を気にしながらも俺たちは眠ることにした。
休暇も少しではあるがまだ続く予定なので、もし目覚めて状況が悪化していたらその時に何とかしよう。
外がどうであろうと、今はこの家の中の心地よい空気を壊したくはなかった。
ナマエは自室でひとりになることが嫌らしく、リビングで一夜を明かそうと提案する。
断る理由もないのでそれを承諾すると、彼女は上階から足取りも覚束なくマットレスを抱えて降りてきた。
階段を踏み外しそうなナマエに驚愕し、慌ててそのマットレスを受け取りに走った。
言ってくれれば手伝うのに、と少し語調を強めて行ったら「だってレオンさんはお客様だし……」と、彼女は眉尻を下げてしまう。
君が怪我をする方が困るのに。
こんな些細なことでも他人を優先する彼女を、俺はどうしても放ってはおけない。
確かに、彼女はもう成人しているし、学生とはいえ自分のことは自分でできるのは当然で、その辺りはきちんと自立している。
それはわかっているのだが、それが性格なのだろうか、親の愛情を一身に受けて育ったからか、どこか人を信じすぎており性善説が人の形を成しているように思うことが度々あった。
時折、俺は彼女にこんなにも感謝されるようなことをしているのだろうかと不安になることもある。
結局のところ、彼女を利用しようとする魔の手から護ることができていない事実をふと思い出しては自責の念に駆られるのだ。

「ほら、今度は俺もついていくから」
「え、でも……」
「ふらふら階段を下りてくるナマエを黙って見てろって言うのか?」
「……わかりました」

どうにか彼女を説得し、他の寝具を俺が運ぶことを取り付け、とりあえず寝る態勢は整った。
明るいと眠れないというナマエの申し出に、リビングは真っ暗に近い状態にして布団に入ることになった。
互いの携帯電話の充電器が、頭上を僅かに照らす。
相変わらず外は喧しかったが、そんなものが意に介さない程、ナマエの声が近くから聞こえた。

「レオンさん、今日もありがとうございました」

まただ。
彼女は律儀にこうして毎回、礼を述べてくれる。
嬉しい半面、自身に活が入る。

「本当のことを知って、自分が……自分じゃなくなっちゃうんじゃないかってゾッとしました」

そう言って寝返りを打ち、彼女の表情は見えなくなった。
俺に向けられた背中が酷く頼りなく見える。
今、彼女が枕を抱きしめているように自然と君を抱きしめられれば、なんて想いが頭を掠めた。

「でも、レオンさんの言葉で、また救われました。今日、お話してくれて本当にありがとうございました」

こちらをちらりと向いたナマエは、暗くてはっきりはみえなかったが口元は弧を描いているようだった。
恐らく、恐怖自体が消えたわけではないが、真実を受け入れることはできたのだろう。
彼女の様子を見て、それだけでも伝えて良かったと改めて思えた。
明日、彼女の両親が帰宅できたら、その時に彼女の身に起こっていることをきちんと伝えようとも思った。
俺なんかよりも、傍にいる肉親の理解の方が精神的にナマエの力になるだろう。

「頼りなくて情けないが……少しでも力になれるよう努力する」

彼女の方を向いて言うと、ナマエの方もこちらを向き今度は暗くてもわかるくらいに笑顔になってくれた。
互いに視線が合うと、ナマエはもぞもぞと布団の中を動きながら「ねえ、レオンさん!」と先程よりも元気な声で呼びかけてきた。

「せっかくなので楽しいお話をしましょう。レオンさんのすきなものってなんですか?」

突然の問いに驚いた。
それを微塵も表に出さず、俺は急にどうしたんだと彼女に聞き返した。
すき、という言葉に心臓が過剰反応したのは絶対に悟られるまい。

「今まで何度も出かけたりご飯食べたりしてるけど、改めて聞いたことはないなあと思って。任務で忙しいレオンさんだって、すきなことのひとつやふたつはありますよね?」
「そうだな……」

彼女が自分との距離を縮めようとしてこのような質問をしている、と仮定すると何とも言えない嬉しさが込み上げてくる。
ナマエが「食べ物とか、色とか、趣味……映画、音楽、ファッション……」と呟いていく単語に合わせ、自分の好みであろう物を連想していく。
まず浮かんだのは、彼女の手料理。
色は青系や黒っぽい落ち着いたものが好みなはずなのに、彼女の笑顔と一緒に明るい色が脳内を支配した。
映画は以前、ナマエと見に行ったアクション物、音楽は一緒に車で移動した時にかけていたロック(これはもともと好きだが)、ファッションに至っては、今夜のパジャマも可愛らしいなんて思っていた。
あまりの嵌り用に笑えてさえくる。
中々答えようとしない俺を不審に思ったのか、「もしかして本当に任務一筋で、すきなものすらないんですか?」と半分冗談のような口ぶりで言われてしまった。

「まさか。食べ物を考えていたらナマエの手料理が思い浮かんだからなんて言おうか考えてたんだ」

正直に、でも余裕そうに答えたら、案の定彼女は驚いたあと照れくさがって言葉に詰まっていた。
そうそう、実年齢よりも幼なく見えるのには、このあたふたする様子も一役買っているんだと思う。

「からかわないでくださいよ!」
「本当だよ。そういうナマエのすきなものは?」
「え?」

彼女の真似をして、俺も単語をいくつか挙げてみた。
それに釣られてナマエは淡々と好みを述べていく。

「甘いものはすきですね、あとパンよりライスがいいです。うーん、いろいろな映画見てますけど、バッドエンドは苦手かな……。大学行っているときはあんまりファッションにこだわりは……」
「へえ。でも俺が見る限り、ナマエはいつも魅力的な服装していると思うけど」
「それは!出かけるのと大学に行くのとは違いますもん……」

ああ、そこで俺と出かけるのとって言ってくれたら有頂天になれるところだったのに。
それでも男としては会うときの服装を気遣ってくれているのがわかって嬉しいものだ。

「レオンさんには照れとか恥ずかしさがないんですね……」
「ナマエが照れ屋で恥ずかしがり屋なだけだろう?」
「……またそうやって」
「じゃあ、そうだな、すきな人は?」
「人……?うーん……両親、……たまにしか会えないけど、幼馴染も……」

俺の名前を行ってくれるだろうかという淡い期待を持って聞いたことを許してほしい。
だが、それきり彼女は黙ってしまった。
もしかして、この浅はかな考えが伝わってしまったのだろうか。
そして引かれた……?

「ナマエ……?」
「……」

さりげなく名前を読んでも反応がないので、表情を確かめるべく顔を覗き込んだ。

「ナマエ……」

なんと、彼女は規則正しく寝息を立てているではないか。
ちょっとの好奇心と期待で馬鹿なことを聞いた自分もどうかしていたが、まさか彼女が眠ってしまったなんて思いもよらなかった。
少し前まで普通に会話が続いていたと記憶しているし、今夜は静かな夜とはとても言えないので、こんなにあっさり眠りに落ちるのはなんだか滑稽でもある。
それに、彼女は昼寝もしていたはずだ。
仕方ないので、彼女の体内に摂取されたウイルスのことをどのように両親に話すか思案しながら、俺は眠りについた。
寝顔を脳裏にしっかりと焼き付けておくことも忘れずに。


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