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part from daily
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振動に釣られて、階段を昇るせいとは別に体が揺れる。
また恐怖で動けなくなるのではないかと思ったが、不思議と足は進んでいた。
ナマエには今、ワクチンを守るという役目があり、4人に迷惑をかけないためにも全力で走るしかなかった。

「もうすぐ屋上だ!」

ナマエを励ますように、レオンが声をかけた。
彼女は背負った鞄のベルトを握りながら大きく頷いた。

「急いで、奴が近づいてるわ」

ジルがタイラントの接近を知らせると、ルイスは悪態をついた。
階数の表示が7からRになった時、ようやく昇りきったんだという安心を感じたが、まだ気は抜けない。
クリス達のお陰で屋上に出るドアの鍵は開いていて、彼が手で合図をすると皆一斉に外に出た。
しかし、クリスはドアの内側で動かない。
パートナーであるジルは、彼の行動の意味を察知し、無線でヘリに救助を要請していた。

「クリスさん!」
「ヘリが来たらすぐに乗り込め!」

彼に呼びかけたナマエだったが、すぐに彼女は一歩後ずさる。
ナマエが息を飲んだ時には既にクリスは射撃を始めていた。
すかさず、レオンが援護を行う。

「ヘリが来るまでルイスと居るのよ!」

ジルの指示にナマエは一瞬難色を示したが、大人しくルイスに引っ張られると貯水タンクの陰に隠れた。
しかし、隠れる直前にクリスが吹き飛ばされるのを見てしまい、ナマエはもしものことを考えて歯を食いしばった。
醜悪なクリーチャーは人間の大きさを遥かに超えた巨体で、露出していた心臓は何かで補強されていた。
向こうから聞こえる3人の精鋭たちの声に、攻撃が効いていないことが伺える。
このまま彼らの弾丸が尽きてしまったらと思うと、人に頼ることしかできない自分が腹立たしかった。

「ナマエ、ヘリだ!」

ルイスの声に上を見上げると、ヘリが近づいてくるのが見えた。
上から吹き付ける強い風に顔を顰めた。
よく見ると、既に梯子がぶら下がっている。

『生存者の救助に来た。着陸は危険だからホバリングに入ったら梯子を使って乗り込んでくれ』

ヘリのプロペラ音がだんだんと大きくなってくる。
その時、それとは違う轟音が背後でした。
貯水タンクの影が一瞬で消えた。
すぐ横にいたはずのルイスがいなかった。

「ナマエ!逃げるんだ!!」

レオンの声にハッとする。
遠くに、ジルに支えられるルイスの姿があった。
彼も吹き飛ばされたようだが、なんとか大丈夫なようだ。
接近する巨大なタイラントに足が竦んだ。
クリスがナマエから気を逸らすために射撃をしたが、背中に当たる弾丸に奴はびくともしなかった。
クリーチャー特有の鋭い爪が彼女を狙う。
後ろには逃げ場がない。
距離を詰めてくるタイラントにナマエは前のめりになって走った。
間一髪の所で、彼女はタイラントの攻撃を免れた。
先程まで彼女のいた場所は、あの強靭な爪によって抉られている。
巨体が、似合わぬ速さでナマエの方へ振り向いた。
後退するも、足が震えて上手く逃げられない。
クリスの弾丸がタイラントの顔に当たっても、まるで虫でも追い払うかのように小さな反動を受けているだけだった。

「ナマエ、伏せろ!」

また、レオンが名前を呼ぶ。
彼が、非力な自分を助けようとしている。
しっかりするんだ。
頭を庇ってしゃがみ込む。
上の方で、苦しむようなうめき声がした。
レオンが撃ったライフルの弾が心臓に命中し、装置を壊してダメージを与えたようだ。
これで、急所が露出した。

「ナマエ、ルイスを連れてヘリに乗ってくれ」
『急ぐんだ!』

ジルに支えられたルイスは、ナマエに向かって力なく微笑んだ。
レオンは所々出血している。
それでもルイスと自分を最優先に考えているのに、彼の力になれない自分をナマエは悔しく思った。
降ろされた梯子は風に揺られて不安定だったが、振り落とされないように懸命に昇った。
ルイスも、苦しそうな表情をしていたが、ナマエに励まされてなんとかヘリまで辿り着くことができた。
クリスが牽制している間に、無事にヘリに乗れたが、上空から3人の様子を見ているナマエはタイラントの動きに目を見張った。
先程、レオンが心臓を攻撃したにも関わらず、動きはまだ俊敏さを保っているのだ。
そのため、3人は中々露出した急所に狙いを定めることができず、攻撃を躱すことで精一杯のようだった。
ナマエは彼らを信頼していた。
それ故、心配も大きくなる。
今まで、ナマエに心配はいらいないと笑いかけてくれたルイスも、今は苦しそうに胸を抑えていた。
もしかしたら骨でも折れているのかもしれない。
無傷な自分に何かできることはないのだろうか。

『カーク、聞こえてる!?』
「ああ、ジル、大丈夫か」

その時、ジルからの無線が入った。

『ロケットランチャーが積んであるでしょう?それを投げて欲しいの』
「……わかった、降下する」

ジルの要請を受けて、ヘリは急降下する。
ナマエはバランスを崩さないように体を支えながら、ヘリを巧みに操作するカークに呼びかけた。

「あの!私がジルさんに渡しに行きます!」

彼は、声を張り上げるナマエに驚いた。
せっかく無事に救助されたのに、自ら危険に飛び込むなんて、とてもじゃないが首を縦には触れない。

「駄目だ、下は危険すぎる!」
「でも、武器を投げてもあの怪物に破壊されてしまったら後がありません!」

カークは渋い顔をしながら眼下を見る。
彼女の言うことには確かに一理あった。
あの動きではロケットランチャーを破壊するのは容易いだろう。
確実に仕留めるために、彼女の言うように直接ジルに武器を届ける方がいい。

「武器はそこの一番デカいやつだ」

静かに指示をする彼に、ナマエは大きな声で返事をした。
再び屋上に近づくヘリの中で、ナマエはロケットランチャーを背負った。
自分の鞄とは比べ物にならないくらい重かったが、今、狼狽えている暇はない。

「ナマエ……気をつけてな」
「お嬢ちゃん、無事に戻って来い」

ワクチンや大事な物が入った鞄はルイスに預け、ナマエは梯子を伝って屋上へと降りた。
カークが伝えてくれたのだろう。
彼女の姿を見つけたジルが、すぐに駆け寄ってきた。
しかし、タイラントの動きも、初期ほどではなかったが未だ早かった。

「ジルさん、後ろ!」

ナマエの声に、ジルは身を翻して攻撃を躱した。
ダメージを受けることはなかったが、随分とナマエとの距離が開いてしまった。
その時、タイラントの動きを見計らっていたレオンが、数少ない物陰からとび出してきた。
ナマエからロケットランチャーを受け取ると、素早く彼女を自分の後ろに庇った。
その様子を見ていたクリスとジルが、タイラントの頭や心臓目掛けて一斉に射撃を始める。

「レオンさん……!」
「これで終わりだ!」

彼の放ったロケットランチャーの弾がタイラントの心臓に突き刺さり、その瞬間大きな爆発が起こった。
レオンはナマエに覆いかぶさり、その衝撃から彼女を守った。
ヘリからの風が、舞い上がった砂埃と煙を追い払う。
タイラントのいた場所は抜け落ち、屋上は今にも崩れ落ちそうになっていた。

『皆、乗るんだ!』

カークの声に、やっと彼らの緊張が解ける。

「ありがとう、ナマエ」

勇気ある彼女の行動に、レオンはナマエの無事を確かめるように強く抱きしめた。


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